第4章 Z1300
タケオは高山との交渉にあっさりとOKを出した。
これには、スタッフも少々拍子抜けをした感があった。あれほど息巻いていたので直接会って話す事など至難の技と最初から諦めていたからだ。
しかし、この企画はメインの制作スタッフの手からはすでに離れていたわけであり、他の制作スタッフの反応も冷ややかなものだった。
当時この制作会社は、同じテレビ局の番組で四輪主体の番組も制作しており、制作スタッフも二輪班と四輪班に別れていて、制作部所内においても無言のライバル感が漂っていた。
しかし、さすがに今回の企画の難航具合には四輪班も二輪班に同情的であったため、妙な連帯感が制作部内には生まれていた。
たぶん、スタッフ内だけでの企画進行会議なら、この企画は絶対にお流れになっていたはずだった。
ところが、今回は社長の佐藤と高山がメインでやると言い出したのだから誰も反対出来ない状態となってしまったのだ。
佐藤も番組の立ち上げ当時は現場に先陣をきって出かけてはいたが、番組が軌道に乗ってからは意見こそ言うものの現場に出る事は無かっただけに、なおさら制作スタッフにとっては内心迷惑な状態だったのである。
<とりあえず、社長の好きにさせとけばいいよ....>
おおかたのスタッフはそう思っていた。 そして、こうも思っていた<制作スケジュールだけは乱さないでくれよな...>と。
高山もそれは感じていたに違い無い。彼は佐藤にこう言った。
「社長、久々ですよね二人だけで企画を立てて取材するのは...」
慰めにも似た言葉に佐藤は感じたが、佐藤は内心倦怠感を感じる管理職業務から久々に解放されることに喜んでいた。
「そうだよな、高山君。最初の頃はだいたい二人がメインで取材してたもんな、それに俺も最近のバイカーズロードはちょっと刺激が足らないと思ってたんだよ。バイク人物伝もさぁ、最近出てくる人ってなんかマニアックになりすぎちゃって、バイク乗りてやつが居ないじゃ無い。このマキオってやつは久々に面白そうなやつだしな!」
佐藤も本来無類のバイク好きなので、この企画には仕事の範疇を超えた興味を持って入るようだった。
「ところで高山君さあ、そのタケオ君との話はどうなったの。思ったより簡単に話がついちゃったみたいだけど」
たしかに高山本人もタケオとの交渉には拍子抜けした感もあったようだった。
「そうなんですよ社長。スタッフから話を聞いていたんで、よっぽど偏屈なやつかと思ったんですけど以外と素直なやつでしたよ。僕のファンだと言ってくれましたからネ。筑波とかにも全日本を見に行ったりするみたいでレースも好きみたいですよ。電話でも僕からレースの話を聞きたがってましたから」
高山の話に佐藤は少々失望感を感じた。なぜかと言うと佐藤にとってタケオはもっとトンがったやつかとの期待があったからだ。
「ああ、けっこう普通のバイクファンなんだなァ。もっと過激なやつかと期待したんだけどなァ高山君....」
佐藤の反応に、高山は意味ありげにニヤリと笑ってこう答えた。
「社長!このタケオ君は社長の趣味に合いますよ。バイク何に乗ってるか知ってますか」
佐藤は高山の意味深な言葉の続きを期待した。
「何に乗ってんの武男君は?」 高山の答えはこうだった。
「社長の好きなカワサキですよ。それも結構レアなバイク。Z1300らしいですよ...」
武男とは数日後に会える事になった。
タケオが指定して来た待ち合わせの場所は高崎市の郊外に有る環状線沿いのファミリーレストランだった。
指定されたそのファミレスには高山と佐藤が同行した。 今回は取材では無くとりあえず話を聞くだけと言う事にし、制作スタッフは同行しない事にしたのだった。
待ち合わせの時間はタケオの仕事が終わってからと言う事で夕方の7時とした。
この時間帯はファミレスの最も忙しい時間帯でもあるのだろう、待ち合わせ時間よりも早い時間に高山と佐藤が到着した時店内は家族連れで賑わっていた。
「この時間に普通は飯を食うんだよなぁ」ボソリと佐藤が言う。
「そうですよね、社長も僕も取材とか仕事で最近食事の時間ばらばらですからねぇ」 と高山も相槌をうった。
「ところで高山君さぁ、タケオ君が来た時分かるの?」
そのへんの打ち合わせもしっかりと出来ていたらしく高山はこう答えた。
「バイクで来るって言ってました。例のZ1300で。ヘルメット持って店に入るって言ってましたから、たぶん分かると思いますよ」
高山と佐藤はタケオが来たのが分かりやすいようにと窓際の席を無理を言ってたのんだ。
ウエイトレスがマニュアルどうりの作り笑顔で注文を促しに来たが、連れがもうすぐ来るからと何度かめの断わりをいれたころ、環状線からファミレスの駐車場に入る1台のバイクが目に止まった。
カワサキのZ1300だ、武男のバイクに間違い無い。
それは遠目に見ても目立つバイクだった。普通でもそう見かけるバイクでは無い。増してやタケオのマシンはカスタムまでされていたので尚更だった。
外装は渋いガンメタリックでカスタムペイントされ、ヘッドライト周りは純正の流用らしきビキニカウルが装着されていた。
それは多分Z1000ローソンレプリカかZ1100GPあたりからの流用だろう。
しかし一番存在を主張していたのは、そのエキゾーストノートだった。多分ダンガーニ製と思われるZ1300の6気筒DOHC用6-2-1集合管は凄まじくも美しい集合サウンドを奏でていた。
<以外と面白いやつかもしれない...>高山と佐藤は顔を見合わせてそう感じた。
二人はファミレスの入り口に注目した。しばらくするとドアを開けて1人の男が店内に入って来た。手にはヘルメットを持って店内を見渡している。
高山が席を立って男に近付いた、何やら二言三言会話を交わしているようだった。 高山と男は連れ立って佐藤の座る席に近付いてきた。男は席につくと佐藤に自己紹介をした。
「どうも、タケオです」
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