第2章 接触
そのハガキの差出人の名前は「マキオ」としか書かれていなかった。
そして連絡先の手がかりは、そこに名前とともに記入してあった電話番号だけであった。その局番から居住地は県内の高崎市だと言う事は確認できたが、本当に挑戦的な男である。
なぜかと言うと、住所を記入せずに電話番号だけと言う事は、直接コンタクトを取れと言う事を意味しているようなものだからだ。 多くの視聴者からの投書には住所はあるが、電話番号の記入は無いと言うのも多いからだ。 そこを電話番号だけとは、直接すぐにでも対応してやるという臭いが漂っていた。
スタッフは、その記入された連絡先へとコンタクトを取った。
しかし、ここでまたスタッフは当惑する事態に遭遇してしまったのだ。指定された電話番号先から出た人物はマキオでは無かったのだ。
確かに電話番号は間違ってはいなかった。しかし、スタッフは名字さえも書かれていないそれも本名かどうかも確認出来ない人物に電話をするのだ。
案の定、電話先で受話器を取った相手との奇妙なやり取りが起きてしまったのだ。 まず電話に出た相手は女性だった、それも声から察するに中年以上の女性の声。
ようするに母親らしき人物の声だ。
「あ、もしもし××テレビのバイカーズロードという番組を制作している制作会社のXXと申しますが、そちらにマキオさんは御在宅でしょうか?」
電話口の女性の声は当惑していた。
「あのう、おかけになった先を間違ってませんか?家にはそのようなものはおりませんが....」
電話交渉の多いスタッフにはこの手の電話は得意である、そうしないとすぐに話が終わってしまうからだ。当然こう切り返す。
「あ、すみません!申し訳ありませんが、そちらさまの電話番号はXXXXのXXのXXXXではありませんか?」
電話口の女性はスタッフから告げられた番号が間違っていない事を確認したようだった。
「はい、たしかに家の番号ですけれど、家にはそのような名前の者はいないですよ」
スタッフの次の言葉はこうだ。
「あの、そちらさまでオートバイとかに乗ってらっしゃる方はいませんでしょうか、たとえば息子さんとかで... 」 ここで話の手がかりが繋がった。
「ええ、うちの息子はオートバイに乗ってますけど、名前はちがいますが......」
多くの視聴者が投稿に際して匿名とか変名を使用する事は当然の事だ、スタッフは安心した<間違い無い!ここの家の息子が匿名で投書したのだ>と...
「あ、多分お宅様の息子さんが匿名でこちらにお手紙をよこしたのだと思いますよ、あのすみませんが、息子さんは御在宅でしょうか?」
電話口の女性はこちらの話を理解したようだった。それは、話のトーンが変わった事でもわかった。
「ああ、うちの子がそちらに手紙を書いたんですか、うちの子はオートバイ好きですからねぇ、あ、でも今仕事に行ってて いないんですよ」
スタッフは本人の帰宅時間を確認して、再度電話する事を約束して受話器をおいた。とりあえず、マキオの存在は確認された。
指定された時間にスタッフは再びコンタクトを取った。
しかしまたここで煙りに巻かれるような事態となってしまったのだ。 電話先に出た男は、またもやマキオではなかった。
「はい、もしもしXXXですが」 当然男の名乗った名前は本名だった(とりあえずここでは仮名でタケオとでもしておこう)タケオは開口一番こう言った。
「あのぅ、すみませんが、母から聞きましたけど僕は投書はしてませんよ、あ、番組は毎週視てますから知ってますけど」
これには、スタッフも戸惑った。指定された電話番号の本人が自分では無いと言われてはどうしようもないからだ。スタッフとしては当然確認するしか手立ては無い。 「あのですね、番組に送られて来たハガキに書かれていた連絡先がタケオさんのお宅の電話番号なので、お電話をさしあげたんですが...ええ、住所は書いてないんですよ電話番号だけで 」
受話器のむこうのタケオ本人も困惑しているのは明らかだった。
そして、こう訪ねて来た 「たしかに、電話番号はうちの番号ですけど。あの、僕の名前が書いてありましたか?」 スタッフはこうかえした。
「あの、匿名というかペンネームと言うか、タケオさんの本名ではないですよ。あのぅ....お母さんから聞きませんでしたか?最初お電話した時そのお名前でお母さんにお話したら勘違いされてしまって、それでオートバイに乗ってますかとお聞きしたら、お母さんはタケオさんだと確認したようだったんですけど...」
タケオは聞き返して来た。
「あのぅ、母はその事言ってませんでしたけど、なんて名前なんですか、そのハガキの差出人は。それもうちの電話番号までしってるヤツってのは」
タケオの母親は、スタッフが告げた名前をタケオに言っていなかったのだ。
「ああ、お母さん名前の事言ってませんでしたか?すみません!あのですね、その名前はですね<マキオ>て書いてあるんですけ....」
「あの野郎~!!」
スタッフの話も途中の時、突然、受話器の向こうでタケオが声を荒げた。
その声はスタッフに向けたものでなかった、明らかに知っている者へ対しての独り言だった。
それも怒りのこもった。
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