マキオ伝説 / 絶対速度

Speed Guru OMEGA

第1章 挑戦状

 熱波のようなバイクブームが日本を覆い、まだその残照が残る中、年号が昭和から平成へと変わった。

その当時、北関東某県の地方UHF局が制作していた「バイカーズロード」と言うバイク番組があった。


この番組はバイクブームの中、レギュラーでオンエアーされるバイク番組として貴重だった。

 

 番組は1980年代後半から放送を開始し1990年代初頭まで続いた人気番組だった。

放送開始時のパーソナリティは地元のバイク屋の店主がパーソナリティを勤めるなど、本当にローカルな地元中心の番組としてスタートし、そこそこの人気を持っていたが、さすがに地方局ゆえの泥臭さは拭えないものがあった。


その打開策として、制作スタッフが起用したのが当時全日本選手権で国際A級ライダーに昇格したばかりで、プライベートライダーとして頭角を表し始めて来た高山健二だったのだ。

 高山をメインパーソナリティに迎えてからの番組が飛躍的に内容がグレードアップした事は言うまでもなかった。


それまで、地元のミニバイクレースの紹介程度に止まっていたのが、一気に高山の全日本参戦のリポートに昇格し、高山の人脈と、そのノウハウから画面には毎回有名ライダー達が登場、番組のカラーはそれまでのローカルな状況から一変して全国放送なみの内容となっていったのだ。


 高山のアイデアとキャラクターで番組「バイカーズロード」の人気は上昇し、テレビ局の視聴率調査でも上位を獲得する人気番組となって行った。
当然視聴者からの番組への反響は多く、視聴者からの企画等も高山は積極的に取り入れていた。

そんな企画のひとつに「バイク人物伝」があった。


これは、県内の有名、無名のバイクフリークやライダーを紹介するという企画で、制作スタッフが適当な人物を選ぶ事もあったが、時には視聴者からの投稿により面白そうな人物を高山が選んで取材、インタビューすると言う事もあった。


 その「バイク人物伝」宛へ、ある日一通の投稿があった。


投稿の主は県内のバイク乗りからだった。当然、投稿する視聴者の大半はバイクに乗っているバイクファンであり本当に番組には好意的な人たちが殆どなのだが、時には批判的、挑発的な投稿もあった。


たとえばメーカーに対する取り上げ方であったり、レースに批判的なものであったりと、メディアに対する批判では必ず居る類いの者たちからのものだ。


その投稿もその類いのものであった。しかし、その投稿主からの内容は少々変わっていたのだ。


 基本的には高山のレース紹介に対する批判であったが、その手の批判は他にもあった。
しかし、その男からの投稿文面は真っ向から高山に対する挑戦状だったのだ。要約するとこうだった。
「絶対速度」男はこう表現していた。「絶対速度」は高山達の行っているサーキットという閉鎖された空間では得る事ができない、本当の「絶対速度」とは極度の緊張をもたらす空間、次元でなければ得る事ができない。それは公道という場であり、その場において成されなければならない。

そして、その場の「絶対速度」の時空においてこそ本当のバイク乗りは精神を解放する事ができる。
それを体現していない高山にバイク乗りを語る資格はないというような内容だったのだ。


 制作スタッフは一笑にふしたようだ。

ようするにこのような投稿は時にあるものだからだ。しかし、高山はこの投稿主に興味を持ってしまったのだ。たしかに、人一倍負けず嫌い、いやレースをやっているライダー達は全員が負けず嫌いなのは当然なのだが、公道ライダーからレースの世界に来た高山にとってはこの投稿主に興味を持つ事は当然だったのかも知れない。


また、高山が興味を持ちかつ反感を覚えたのは「精神」という表現だったのかも知れない。バイク乗りの精神主義には高山は疑問を持っていたからだ「バイクは楽しく乗る」それは高山の基本理念だった。


 とにかく、高山はこの男に興味を持ってしまい、制作スタッフも取材を同意させられる事となってしまったようだ。

制作スタッフはこの男に連絡をとる事にした。ハガキに書かれていた男の名前はただカタカナで「マキオ」とだけ記してあった。

これが「マキオ」との最初の接触だった。

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