最初からクライマックス

 世界観やキャラクターのイメージを膨らませたら、物語の序盤を考えてみましょう。盛り込んでほしい要素はこの3つです。



①主人公は誰なのか

②その主人公は何を成そうとしているのか

③どのような作風であるか



 それぞれ詳しく見ていきましょう。



①主人公は誰なのか


 物語の主軸となるキャラクターを登場させたうえで、「この人が主人公ですよ!」と知ってもらいましょう。具体的にどうすればよいのか、方法を2つほど提案させていただきますね。



・視点の選択……主人公の視点で物語を進めると、そのキャラクターが物語の中心であることが明確になります


・描写の焦点……主人公の内面や考え方、感情に焦点を当てましょう



 前者は主人公にカメラを持たせるイメージです。主人公目線で物語が進みます。特に、地の文を主人公に語ってもらうのは、ライトノベルの分野でよく見られる手法ですね。


 後者は主人公にスポットライトを当てるイメージです。「この人を見てね」と照らすことで、舞台上の誰に着目すればよいのか、観客は自然と理解することができます。


 いずれにせよ、主人公を『特別な存在』として認識してもらうのがポイントです。読み手の方からどう見えるかを意識して書いてみましょう。




②その主人公は何を成そうとしているのか


 物語は主人公とともにどこへ向かっていくのか――。指針を示しましょう。こちらも方法を挙げてみますね。



・キャラクターの紹介……主人公の背景や個性、目標を紹介します


・アクションと決断…… 主人公が物語の進行に影響を与える重要なアクションや決断を行う場面を描きます



 ちょっと抽象的で分かりにくいですね。著名な作品を引用して、具体的に説明させていただきますね。


 例えば『進撃の巨人』の主人公エレンは、家族を巨人に襲われたという『背景』から、巨人を一匹残らず駆逐することを『決意』します。またこの決断には、エレンが自由にこだわる『個性』を持っていることも深く関わっています。


 読み手は、『復讐に燃える主人公が巨人を倒して人類を解放する話』だと自然に理解することができます。作品の方向性を掴むことができれば、その先のストーリーもサクサク読み進めることができますね。


 そのほかストレートなやり方としては、主人公にはっきり夢を語ってもらうのもいいですね。「海賊王に おれはなる!」と言われれば、海賊の王を目指す話であることが難なく理解できますね。




③どのような作風であるか


 ②で示されたシナリオは、これからどのように演出されていくのか。コメディなのかシリアスなのか。「この作品はこんな雰囲気を好む方におすすめですよ!」と、作品の『色』を見せて呼びかけましょう。


 ②で挙げた『進撃の巨人』も、作品の雰囲気をストーリーに落とし込んで表現しています。原作第1話のシーンを見ていきましょう。


    *


 100人以上のチームで巨人の調査に向かった『調査兵団』ですが、生還できたのは20人以下。80人以上が巨人に食べられてしまいました。


 息子の姿が見当たらないとすがりつく女性に、団員が渡したのは遺体の腕のみ。回収できたのはそれだけでした。


 女性は、息子が調査の役に立って死んだのかどうか確かめようとしますが、何の成果も得られなかったと告げられます。兵士たちはいたずらに死んでいったに過ぎず、巨人の正体を掴むには至りませんでした――。


    *


 このシーンでは、『巨人が人を食べること』、『腕のみの遺体が出てくること』、『命を落としても成果に結びつかないこと』などのショッキングな要素が連発されます。残酷な世界をごまかしのない描写で表現する作風であることが伝わってきます。


 決して万人受けする要素ではありませんが、それ故に刺さる人には強く刺さります。「自分の好みにピッタリだ!」と感じた読者様は、その先のストーリーも同じような手法で描写されることを期待し、物語にのめり込んでいくと思われます。


 この作品は自分の好みに合うかどうか――。読者の方は探りながら読んでいると思います。序盤のシーンでは、作品のテイストを紹介しつつ描くことを心がけてみましょう。




 さて。序盤の部分でも特に重要なのが、第1話の冒頭です。どのようなシーンを割り当てるのが効果的なのでしょうか。



 ミステリーやサスペンスの分野では、「冒頭で死体を転がせ」という教訓があります。読み手の興味をくような強力な『掴み』を配置しろ、という意味だそうです。


 実際に殺人や死体の発見から始まる作品もありますが、犯罪や謎解きの要素のない作品にも使えます。目をそらすことのできない衝撃的なシーンを頭に持ってきて、読者様に関心を抱いてもらうのです。



 『進撃の巨人』でも、最初の見開きにインパクトのあるシーンを配置しています。50mの壁を超える超大型巨人が主人公を見下ろす瞬間です。「何だこの巨大生物は!」と、主人公と同じ目線で衝撃を受ける、非常に吸引力のある画だと思います。


 実はこのシーン、時系列でいうともう少し後で出てくる場面なのです。それをあえて冒頭に持ってきたのはやはり、読者に緊張感を抱かせ、物語の引き込みを強化するためでしょうね。


 時系列順にこだわる必要はありません。最初からクライマックスでよいのです。とにかくインパクトのあるシーンを頭からガツンとぶつけて、強烈な第一印象を植えつけましょう。



 とまあ、『掴み』は大事という話をさせていただきましたが、例によって僕自身は全然上手く書けませんでした。少し失敗談をさせてください。



 拙作せっさくの第1話はセリフから始まるのですが、それを発するのは主人公でもヒロインでもありません。では誰なのかと言いますと、飲食店の店主。僕の作品の中では脇役にあたるキャラです。


 ハーレムラノベでいきなり中年おやじのセリフですよ。普通はヒロインの甘々なセリフとかでしょう。最初からクライマックスでいいんですから告白でもいいくらいですよ。


 何も考えずに時系列順で書いてしまったんですよね……。小学生の絵日記と同じです。何の盛り上がりもない幕開けですよ。緊張感やインパクトなど皆無です。



 第1話の失敗はまだあります。店主のセリフの後、ようやく主人公とヒロインが出てくるのですが、なぜか主人公ではなくヒロインが内面や感情を述べているのです。これではどちらが主人公なのか分かりません。


 まあそういった手法の作品もたまにありますが、問題はここからです。僕の作品の場合、第2話からはしれっと(?)主人公が心情を語っているのです。作者が読み返してみても混乱します。読者様はなおさらですよね。申し訳ございません。



 失敗談が延々と続きそうなので、今回のまとめです。



・序盤で盛り込んでほしい3点

 ①主人公は誰なのか

 ②その主人公は何を成そうとしているのか

 ③どのような作風であるか


・第1話冒頭には印象の強いシーンを持ってくる




 上記を意識していただければ、僕と同じ失敗はなさらないはずです。あなたがよい作品を書いてくだされば、僕の失敗にも意味はあったことになります。心から応援しております。


 次回はweb小説ならではの書き方を見ていきましょう。これを押さえたらいよいよ書き出せますよ。もうちょっとですのでどうかお付き合いください。


 それでは失礼します。(2928文字)

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