第49話 恋なんてするもんじゃない⑨

 隼人は、宇佐美の細い首筋にそっと鼻先を滑らせた。

 肌から漂う匂いが、隼人の理性を蝕む。


「——何をするんですか」


 宇佐美の囁くような掠れ声に、胸が締め付けられるような痛みが走った。

 唇を重ねようとすると、宇佐美は顔を背ける。だが、その仕草が隼人を一層たかぶらせる。


 なめらかな太ももに触れると、抵抗するかのように手を押しのけられた。

 だがその力は弱々しく、拒絶よりも誘いを感じさせる。


 隼人は宇佐美の柔らかい肌の感触に溺れながら、指先を彼の股間へと這わせていった。

 白い顔がこわばり、目を閉じた宇佐美の目尻が赤く染まっていく。


 その変化に、隼人はさらに大胆になった。

 手を下着の中に滑り込ませる。

 温かな硬さが指に伝わり、その熱が隼人の心をさらに掻き立てる。


「やめてください……」


 掠れる声とは裏腹に、隼人の動きに合わせて宇佐美の中心が硬さと熱を増していく。

 彼の先端をゆっくり撫でるうちに、隼人の指先が濡れていく。

 宇佐美の唇から漏れるかすかな吐息——。


 そこまでだった。


 目が覚めた隼人は、ソファーにいた。

 目の前のガラステーブルの上には皐月から頼まれていた重箱が置かれている。

 その隣には、空になったワインボトル。


 隼人は項垂れた。


 駐在所に行く決心がつかず、ワインを飲んでいるうちに眠り込んでしまったのだろう。


 嫌だ! 嫌だ! 嫌だ!

 自分が情けなくてたまらない。


 ——誰とも顔を合わせたくない。

 できるならこの村を今すぐ出て、知り合いのいない場所でひっそりと暮らしたい。


 隼人は立ち上がり、ズボンと汚れた下着を乱暴に脱ぎ捨てる。


「本当に……自分はなんてダメな奴なんだ……!」


 羞恥と自己嫌悪で、胸糞悪くてたまらない。

 駐在所に重箱を届けるなんてとても無理だ。


(小春さんに頼もう……いや、頼むしかない!)

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