第21話 覚悟を決めて by 沙紀

発明品を取り返してからもうすでに3日が経過してる。ありえない速度で復活した蓮さんは今、私の隣に立っていた。私達は今から、目の前にいるお父様と叔父様に事件のことを話す。本当はカイさんがするはずだったのだけれど、今回の事件は私が狙われておきた事件、犯人も私の叔父様。私に推理を伝えさせてくださいとお願いしたら、いいよと言ってもらえた。そして、カイさんが仲が良いという警部、岡賀賢治おかがけんじさんに今回の事件を伝えてくれた。なので彼は叔父様を捕まえるために待機してくれている。

私は大きく息を吸い、二人の方を見た。

「カイさんから大体の話は聞いたと思います。今回の事件。Nexaraの新しい発明品がチェックがまだ済んでいなかったのに消えてしまった。お父様も、警察に相談して、調査を進めていたようですが。私も調査に協力したくて、如月光さんとカイさんに情報を収集していただきました。ある組織に、裏取引されてしまっていたのです。」

こんなこと、願っていたわけもない。


「その裏取引したのは叔父様、あなたです!」

私はもう一度大きく深呼吸をしてから写真を手に持つ。

「その証拠に、この男の人は、叔父様の部下ですよね?」

叔父様はまだニコニコといつもの笑顔を崩さずに私を見て頷いた。

「確かに、それは私の部下だね。だけど、その写真を見るだけだと私は写っていないし。私の部下が裏取引したんじゃないのかい?それは事件だ、雨倉はクビだな。」

「そうですね。」

私は頷く。そして余裕な顔をしている叔父様をじっと見る。

「でも、私はあなたの部下に話を聞きに行きました。時間がかかりましたが、ちゃんと教えてくれました。命令された・・と。」

雨倉さんの声が入っている、スマホのファイルを開いて音声を流した。

「それにもう一つ、カイさと警察の方が収集してくださった証拠、これです。」

私はカイさんに聞かせてもらった、叔父様とオートリック・ダークトーンの電話を叔父様に聞かせた。

叔父様の瞳に少し焦りの色が見え始める。そして私の頭に『クソ』と声が響く。舌打ちが聞こえてきそうな勢いだ。最後の追い打ちだ。

「残念ですが、発明品はここに。取引、成功しませんでしたね?」

私はニッコリと叔父様に笑いかけた。叔父様がガタッと音を立てて椅子から立ち上がる。口が歪むのが見えた。でも、ハッとしていつもの表情に戻る。

「私が裏取引したとしても、私に得があるとは思えないんだが?」

来た。その質問はまだわかっていないパズルのピースをはめる鍵となる。

「それなんですが、叔父様の部下にそれも聞きました、お父様と話が合わず、大金とAIチップを交換し、お父様の社長の座を乗っ取ろうとしたのではないですか?それと、これはあくまで私の予想なのですが・・・私に力があることを知っていて。その作戦がバレることを恐れた叔父様は私を殺そうとしたのではないですか?」

叔父様は呆れたように息を吐いた。

「・・・・ああ、そうだよ。裏取引をしたのは私だ。だが、沙紀ちゃんを殺す?そんな事は考えていないな。そもそも力というのはなんのことだ?」

口が笑ってる。あくまで誤魔化すつもり?そう、裏取引だけなら殺人未遂よりは罪は軽いはず。でも。ここにいる警部さん、お父様はもうすでに力のことを知っている。もし、叔父様が私の力を知らなかったのだとしたら。今教えればいい。

「私は一定の距離にいて、私に悪意、敵意などのマイナス感情を持った人の心を読むことができます。叔父様、私はあなたの心を何度か読みました。それに、もう一つ・・証拠があります。これです。」

私はザインとの戦いで聞いていた如月さんが録音してくれた、叔父様に依頼されたと言ったザインの声を聞かせる。

これでどうだ。蓮さん、カイさん、如月さんが集めてくれた情報で。絶対に。

「・・・・まいったな。まさか沙紀ちゃん本人に見破られるとは。想定外だったな。」

警察の人が叔父様を捕まえようと警察手帳を取り出す、私はどうしても気になった事があって口を開いた。

「わからないことが一つあって。お父様は、叔父様にシャドーセンスのことを伝えていなかったんですよね。」

私はお父様に問いかける。お父様は静かに頷いた。

「ならばなぜ、叔父様は私の力のことを知っていたのですか。それがわかりません。」

私は叔父様の方をじっと見た。

「もう諦めよう。あれは5年前、確か沙紀ちゃんは7歳だったな。」

そんな始まりに私は違和感を覚えた。五年前って、お母様が死んでしまった時期ですよね。

・・・・なにか、関係が?

「私はあのときも裏取引をしようとしていた。大金と取引できるほどの発明品が出来上がってね。その時でまったく意見が合わなかった兄さんの社長の座を奪おうとしていた。でも、沙紀ちゃん、キミの母親。そう、つまり闇野真白にその作戦がバレて止められた。必死だったよ。やめなさいとね。アイツは俺の心が読めているようだった。止められ続け、追い詰められたあげく。俺は、闇野真白を殺そうと思っていた。でも、その頃、ラッキーなことに、あの事故が起きたんだ。神様はいると思ったよ。でも、事故のあと、沙紀をみていて、ひょっとしたら、あの能力は沙紀に受け継がれたんじゃないかと疑っていたんだ。この数年で、その疑念は確信に変わったよ。それと同時に、AIチップが発明された、チャンスだと思ったんだ。もう一度兄さんから社長の座を奪えると思ってね。」

余裕な表情で何もかも諦めたように、叔父様の口から言葉が流れ出る。

いま、なんて・・・?お母様を・・?あの事件で、私は死んでしまいたくなるくらいに絶望して。苦しかったのに。それをラッキー?なにを言ってるの、この人は。

犯人は叔父様じゃなければと思ってたけど。お母様が死んでラッキーなんて思っていたのか。次は私にシャドーセンスが受け継がれているとわかって、私を殺そうとしたの?そんなにお金が欲しかったの?

「・・・・お前!何を考えているんだ!真白さんは、お前のためにそれを言ったんじゃないのか!その気持ちを蔑ろにするほど、お前が落ちぶれていたとは思わなかったぞ!」

お父様が叔父様に叫んだ。

「・・・・とにかくそれが理由だ沙紀ちゃん、君を殺そうとした理由だよ。」

その声と同時に警察の方が飛び出した。

「闇野沙紀への殺人未遂罪、及びNexaraの新製品の横領未遂罪の容疑で逮捕する!」と言って逮捕状を出した。

手錠をつけられた叔父様は、真顔で私達の部屋から出ていった。


「じゃあ、あとは頼みます。」

私は警察の人に挨拶をして蓮さんと如月さんが待ってくれている廊下の方へ出ていった。

私が二人の方を見ると、蓮さんは「大丈夫か?」と優しく聞いてきてくれて、如月さんは私を抱きしめてくれた。

私はぼやける視界をこすり、口を開いた。

「悔しいけど、許せないけど。・・・もっと被害が出る前に、犯罪を食い止めることができてよかった。」

私は、事件が終わったらもしかしたら絶望してしまうかも、と心の何処かで思っていた。でも、いまこの現実を、思ったより受け止められた。別に叔父様はお母様のことを殺したわけではない。まだ誰の命も、奪ってはいない。この世の中にある大切な命が奪われる前に、止められた。

「沙紀ちゃん・・・。」

如月さんは目に涙をためていた。

「ふたりとも、今回は協力してくれてありがとうございました。二人がいなかったら、もっと大変な事件になっていたかもしれないです。」

私は二人に向かって笑った。

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