第20話 守りたくて by 蓮
あのとき、敵が後ろにいた。背後を取られるっていうのは、殺してくださいと言っているようなもんだって、アイツが昔、俺に稽古をつけながら言っていた。
あのとき俺は、沙紀を、守り抜きたくて。ただそれだけを考えていた。
もう目の前に求めているものはあって。あと一メートルほどだった。でも。後ろから銃声が聞こえた。感覚的に俺の背中を狙っているとわかった。背後には沙紀がいる。
体を少し横にずらし避けようとした途端。計算が狂った。沙紀を抱えながらだ、いつもと同じ動き方ができるわけねえ。頭では理解できてたのに。体がうまく動かなかった。
景色がスローに見えた。沙紀が打たれないよう最善を尽くして、結果的に。銃弾は俺の腕をつき通った。
腕だったんだから運が良かったと俺は思ってる。でも、沙紀を危険に晒した。
「・・ん・・どうした?浮かない顔して。」
ベットの横で涙目でうつむいている沙紀を見たら、そんな言葉が流れ出た。
沙紀は驚きながら看護師さんを呼びに行くと言って立ち上がった。
その腕に、血が滲んでいるのが見えて思わず沙紀の服の裾を掴んだ。白くて細い腕に、傷をつけた。
「悪い。」
俺がもし。・・・いや、沙紀はあの大男相手に戦った。
わかってる。沙紀は強い。
「いや、やっぱなんでもねえ。お前すげえよ。お前に戦い方を教えた師匠としても、誇らしいよ。でも、何よりも、幼馴染として。すげえと思うよ。」
俺が沙紀の目を見てその言葉を言うと、沙紀は少し驚いて、真白さんがまだ生きていた時のように、本当に嬉しそうに笑った。
なんか吹っ切れたような笑顔だな。
「やったあ。」
その喜びを噛み締めたような声を聞いた途端、眩しい笑顔を見た途端、心臓が鳴り出す。いつからこんなに好きになったか覚えてはいないし、気持ちに応えてほしいとかいう気持ちはない。ただ、沙紀が幸せでいてくれれば。
俺はお前を守りたくて、お前のそばにいる。
・・・・?
「おい、沙紀?この花、だれが??」
フリルのように波打つ花びらが重なり合い、ゴージャスな感じと可憐さをあわせもつ花。この花はたしか。
「ああ、それは。如月さんが。」
いつもの表情に戻った沙紀が俺に答える。如月光、苦手だ。
沙紀がこの花を見ても平然な顔をしてるってことは知らないってことか?知っていて気にしてないのか・・。
カーネーションの花言葉、無垢で深い愛・・・いや、これくらい常識だろ。母の日とかに・・・いや、沙紀はこういうのに弱いからな。
くそ、如月光。俺をいじってるな。沙紀は花言葉にあんまり興味がないからな。俺にしかわからない方法で伝えてきたか。・・・まあ、そのことは置いておいて。まだ一件落着じゃない。
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