第19話 勝つか負けるか by 沙紀

「蓮さん⁉️」

腕からでた血がシャツを真っ赤に染めている。私は急いで蓮さんに駆け寄り腕を見た。銃、さっき発砲されたときに?カイさんが急いで応急処置してくれていた。

「なんでもっと早く言ってくれなかったの⁉️」

思わず私は叫ぶ。

ドンドンとドアを蹴る音が聞こえてきた。私は急いでカイさんの方を見る。カイさんはもうすでに私と蓮さんを守るように前に立っていた。いつもの優しい雰囲気はもうそこにはなく、笑顔は消えていた。私は取り返したチップを蓮さんにもらったすごく硬いケースに入れて、蓋を閉じ、ネックレスとして首にかけ、服の中にしまう。

「沙紀、大丈夫だから・・・左手だしな。」

「蓮は黙ってて!」

私は蓮さんを見た。早く救急車を呼ばなくてはいけない。発明品は置いていく?そうすれば敵は追ってこない?でも・・・もう顔を見てしまったから殺してくると思う。ドアがもう壊れかけている。そうすると、もしかしたら弾丸が当たる可能性がある。今の蓮さんに避けられる程の体力はないかもしれない。私も蓮さんを守りながらだと銃を避けたりはもちろんできない。

どうしよう。

「沙紀、左腕に銃が貫通しただけだ。カイさんがちゃんと応急処置をしてくれた、これくらいなら戦える。」

蓮さんは左腕を軽く揺らす。大丈夫だから、と私に向かっていっている。

この人、銃弾が左腕貫通したんだよ?それをこのくらいって。どうなのかと思う。

「俺はこんなんで倒れるほどヤワじゃねえ。」

「知ってます、これでも幼馴染なので。二人共、来ますよ。」

「そうだね。」

「ああ」

ドアが吹っ飛び男が入ってきた、銃を持っている大男が全員で4人。さっきの発明品の部屋にいた奴らだ。後ろの廊下のところで小さい男は伸びている。つまりここにいるのは全員で5人。あと十人来る可能性がある、できる限りこの人たちを早く倒さなければ。この部屋にあったロープで急いで結んでしまおう。


私は胸に手をおいた。ここにあるチップは渡さない。このケースはパスワードが合っていないと絶対に開かない。すごく小さいケースなのに、頑丈だ。


まず一人目、私の眼の前に立っている男。大きさは私より頭2個分ほど高い。図体はがっしりしている。さっきから、ボクシングの構えをしている、右手を引いているので右フックが得意なのだろう。私は回し蹴りで銃を飛ばしてから一本投げ倒そうと思ったが、

(クソ、頭ふっとばしてやる!)

そんな声が聞こえ私は反射的にしゃがむ。すると頭上に強烈なパンチが飛んできた。

あれは、当たっていれば死んでいたかもしれない。こんなにもシャドーセンスの力に感謝したのは初めてだ。戦闘中も使えるのか。

私は、私が避けたことにより、よろけた男の背中に飛んで首に手刀をおろした。男が地面に膝をついた。

「沙紀さん、大丈夫ですか?」

そう言いながらカイさんはが手に持っている銃を蹴りでふっとばしていく。

銃がなければ、まだ勝てる気がする。これは作戦か・・・・。

一人の男が銃を取り返そうと銃に向かって走った。

私はその腕を掴み、捻じ曲げて一本背負いをした。がっという声が男の口から漏れて白目になって倒れる。相手の力を使って倒す技の一つ、一本背負い。私はふうううと息を吐く。その倒れた男を押さえつけ、蓮さんが片手で器用に紐にくくった。今、目の前に立っている男は3人。そして気絶している男が2人。残りの三人はカイさんに拳銃を飛ばされて、銃を持っていない。蹴られた手を抑えている。

一人が力ずくで行こうと思ったのか、何も考えずに突進してくる。私は不意をうたれて反応が遅れた。その時蓮さんの飛び蹴りが私を襲ってきた男の顔面にヒットした。でもそれだけじゃまだ倒れなかったので蓮さんがもう片方の足で回し蹴りを思いっきり当てる。男は吹っ飛び、壁にめり込んだ。その男はカイさんは素早く縛り付けてくれる。三人の縛られた男が部屋に置かれた。

残り2人だ。

「ありがとうございます、蓮さん。カイさんも。」

残りの2人はあっという間にやられた仲間の男を見た。

私がやられそうになったのを見た彼らは私を襲おうとするだろう。

今なら体制も整ってる。いつでもかかってきていいよ。

(こんなやつ、俺が後ろから不意打ちでやってやる)

私の背後に飛んだ2人のうちの一人が拳を打ち込もうとする。私は男のパンチが当たるより前に男の顎に思いっきり裏拳を放った。

「ゴキュ」

凄い音が響き、その人は下に倒れ込んだ。顎を押さえて倒れ込む。けれど床に手をつけてゆっくりと立ち上がる。その男にカイさんがたった男の腹に拳を打ち込んだ。男は完全に気絶した。私が紐でその男を結んだ。

カイさんが最後の男を方車という柔道の技で床にたたきつけた。

五人倒した!私達は急いで廊下へ出た。ここまで来たら逃げたほうがいい、脱出だ。そう思って駆け出した途端。5人の男たちが追いかけきた。残りの5人、入口にいた人たちはまだ気絶してるようだ、会議室にいたザインと他の奴らはきっともう少しで来る・・。

とにかく、この五人を早く倒さなければ。ザインが来てしまったら・・。

ふう、落ち着け。息をよく吸って、肺に空気を送り込め。脳を働かせ。

私は五人の男をよく見る、五人中2人が銃を持っている。銃を持っていない一人が突っ込んでくるのが見える。周りの音が小さく聞こえる。私は左にステップを踏んで突っ込んできた男の後ろに回る。・・・・捉えた。

「ドオォォォォォォォォン」

腕を掴み思いっきり投げる。私は男が目を回しているのを見て、蓮さんとカイさんの方に一瞬目をやった。

蓮さんが右手を地面につけ、その腕を軸にして左と右足で連続で回し蹴りをする。2人の男は頭を地面に打ち付ける、その2人の腕を掴みカイさんが空中にふっとばす。壁に飛んでいった2人を私が紐で急いで縛る。

残り、2人。銃を持っている。私は息をするのも忘れて近くにいた方の銃を蹴りで吹っ飛ばす。カイさんがもう片方の銃をはたいて落とした。

私に近い方の男が蓮さんの腹に蹴りを入れようとする、それより前に蓮さんが右手で襟元を掴み関節技で締め上げる。男は完全に気絶した。

立ち上がろうとした蓮さんにもう一人、残った男がアタックする。反応に遅れた蓮さんは、できる限り衝撃を和らげるために後ろに飛ぶ、でもダメージはあったようで「くっ」と一瞬左腕を抑えてうめいた。

私は思いっきりその男に向かって走って、蓮さんに向かって振り上げていた手を掴み捻り上げた。ぐあ、という声が男の口から漏れる。カイさんが思いっきり男の腹に拳を突きつける、男は浮かび上がり地面に落ち、苦しそうにつばを吐いた。その首にカイさんが容赦なく手刀を入れて気絶させる。


カツカツと足音が響いた。

来た・・。寒気が襲って思わず後ろに跳ねた。

「やられちまったのか、ククク。アイツラは雑魚だったからな。」

低いガラガラとした声にゾッとした。残りのふたりもくっくっくと声を上げて笑っている。

「こんなちっぽけなガキ共にやられたんだ。しょせん、この世界では生きていけない奴らだったんだな。」

「お前ら、地獄行き決定。俺達・・最強。」

カイさんが私達の方を見る。

「これは・・やばいかもしれません。時間は作りますので、君たちは逃げてください。」

私達をかばうようにたったカイさんがいった。確かに、彼らからは血の匂いがする。染み付いた血の匂いだ。怖い、足も震えているような気がする。でも、さっきあのまま逃げていたら・・もう一度捕まえるまでにたくさんの人の命が奪われていたかもしれない。これで良かった。今、ここで逃げたら・・さすがのカイさんでもやられてしまうかもしれない。なら・・・、

私はカイさんに向かっていった。

「カイさん、私・・ザインには勝てると思います、いや・・勝ちます。心を読めば。」

時間はない。そんなこと、カイさんが一番わかってる。それに、今もザインの声が聞こえる、作戦を練っている。大丈夫、ザインはシャドーセンスのことをまだ知らない。知っていたら、さっき戦った男たちはもっと私のことを警戒したはずだ。

「わかりました、任せましたよ。残りの2人は私が倒します。」

私は蓮さんと頷く。カイさんが2人の男に飛びに行くのを合図に私たちはザインめがけて駆け出した。

(単純な攻撃だな、まだ銃を出すほどではない。手負いの方をまず潰すか。左から回し蹴り、アッパーでどうだ。)

頭の中に声が響く。私は蓮さんに、小声で耳打ちした。蓮さんがうなずき、左から回し蹴りが来る前に、後ろに飛び跳ねる。飛び跳ねたはずの蓮さんの頬に真っ赤な線が走った。

「はは、そう来たか。じゃあ、これでどうだ。」

ジャンプし、その勢いに乗せて。右手で思いっきり、殴る。そのパンチが軽々と避けられる、蓮さんのパンチを食らった地面がピキッと音を立てて一瞬割れた。私は蓮さんのパンチを避けた時にザインが見せた一瞬の隙を逃さず、飛び跳ね、足を振り上げて思いっきり振り下ろす。でも、途中でザインがジャケットの中に手をいれるのが見えた。黒い物体が姿を表す。やばい、この距離だと確実に。

(眉間に一発でゲームオーバーだ。)

眉間が狙われる、わかってても銃は空中で避けられない。その時、蓮さんが私のことを引っ張った。銃弾が壁にめり込む。

「何を考えてる?あいつは。」

「眉間を、狙ってきました。今は・・。」

(2人同時に銃で地獄へ送ってやる。)

「銃で殺そうとしてきています。」

「そうか。」

蓮さんが一瞬目を閉じる、このクセ、知ってる。作戦をねってるんだ。私は息を大きく吐く。蓮さんが目を開けると同時に、ものすごいスピードで、男の手から銃を奪った。

「これで逆転ホームランだな。」

蓮さんが銃を拾って懐に仕舞い込んだ。これで銃で撃たれる可能性はなくなった。最後の攻撃を放つ前に、私は声を張り上げた。

「あなたが私を殺そうとしたのは、Nexaraの副社長に命令されたから?」

「ああ、そうさ!」

これですべての証拠が揃った。パズルのピースはすべて埋められた。犯人は叔父様だ。

私と蓮さんをうなずき最後の攻撃にかかった。

私は大きく息を吐く後ろに回転しながらその勢いでかかとを男の頭にヒットさせる。胴回し回転蹴り、空手の技の一つだ。威力はある方の技。でも、まだ多分これじゃ完全にやれてない。

(そんなんで俺がやられるとでも。)

「ゴキュ。」

蓮さんが容赦なくザインを地面にめり込ませた。そして思いっきり腹にパンチをめり込ませる。ザインの巨体が空中に浮かんだ、私が上に飛び上から体全体の力を拳に集中させて、拳を振り下ろした。「ドォォォン」という音が響いた。

地面にまたもやたたきつけられたザインからはもう何も聞こえてこなかった。

「二人共!無事で良かったです、今助けに行こうとしていたところだったんですよ。」

カイさんがそう言ってこっちに向かってきた。そうだ。必死だっったからカイさんの方を見ていたなかった、どうだったんだろう。

カイさんの手に捕まっている男達はぐでんぐでんで、茹ですぎたほうれん草の様になっていた。それだけ見ればどんな戦いだったのか、だいたい予想がつく。

「・・・・取り返した。・・任務完了です。」

私が如月さんに向かってそう告げた。

暗い部屋に、サイレンの音が響いた。


「蓮さん。」

私は眼の前の白いベットに寝ている蓮さんの顔を見る。たくましい腕には真っ白な包帯が巻かれていた。

この近くで一番大きい救急病院。蓮さんは手術をしたばかりだからまだ眠っている。今日は一応念の為入院するけれど、明日にはもう退院していいとお医者さんは言っていた。さすが蓮さんだ。ちょうどさっき、お見舞いだとか言いながら如月さんが花を買ってきてくれた。花が窓辺を鮮やかに彩ってくれている。色とりどりのカーネーション。如月さんの優しさに、花を見るたびに私は少し明るい気持ちになれた。心配して駆けつけてくれた如月さんは、蓮さんが安全だとわかった途端ニヤニヤ笑いながら花を買ってきてくれた。何でニヤニヤしていたのかは分からないけれど、如月さんが笑っているのは嬉しい。

午前の日射しが差し込んでくる。

悔しい。私がもっと強かったら。蓮さんを傷つけずにすんだかもしれない。なのに。・・・・最近、自分の弱さを思い知らされる。もし、蓮さんが今起きてたらなんて言う?蓮さんは優しい。自分が傷ついていても、私を慰めてくれてしまうかもしれない。蓮さんが起きたらありがとうと言わなければ。

私はグッと手を握りしめた。

「・・ん・・どうした?浮かない顔して。」

私はその声を聞いてバッと顔を上に向けた。

「蓮さん・・起きたんですね、看護師さん呼んできます。」

私は椅子から飛び上がり、速歩きで部屋から出ようとした。でも、前に進めなかった。蓮さんに服の裾を引っ張られた。


「沙紀。」

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