第18話 敵地へ
「如月さん、見てください。」
蓮さんが敵の隠れ家らしき場所を突き止めた翌日、私と如月さんは探偵事務所に来ていた。探偵事務所で何をしていたかと言うと、建物の断面図を見ていたのだ。蓮さんが見つけてくれた建物、今日侵入することになったので予習をしている。
「あ、ほんまや、気付かへんかった!ここに人が通れるサイズの通気口あったんや!沙紀発見やん!!!」
私は如月さんが差し出してくれた手にパンッと優しく手を当ててハイタッチをする。叔父様を捕まえるのは商品を取り返してからということになり、昨日は久しぶりに学校に行ったのだが、学校から帰ってきてからは、ずっと今日の侵入のための作戦会議をしていた。
結局、如月さんには探偵事務所からナビをしてもらい、カイさんと蓮さん、そして私の三人が行くことになった。蓮さんにはものすごく反対されたのだけれど、私のお父様の会社が発明したものが中心となって事件が起きているのに、私が行かないわけにはいかない。
何時間も説得して、無理はしないと約束したら、やっと納得してくれた。ここ数日練習している戦闘に役立つ道具を使いこなせるようになったこともOKをもらえた大きな要因だ。
隠れ家に潜入ということなので動きやすく、かつ目立ちにくい服装をカイさんに選んでもらった。これはあくまで予想なのだが・・。如月さんが探し出した断面図と蓮さんが取った写真を見たら、どうやら窓が二階に一つだけらしい。そこから出られるとも思わないけれど・・・壁の一部に人が通れるほどのサイズのネジで外すタイプの通気口があったのを見つけた。断面図と蓮さんが送ってきてくれた写真を重ね合わせて見つけたのだ。作戦敵には、この中で一応戦えてかつ、小柄な私が通気口から中に入って入口のドアを開ける。私がそれらをする前に、カイさんと蓮さんがドアの前に立っている男2人組を倒す。その後は如月さんにナビを頼んで2階の中心の部屋にあるAIチップを取り返す。あと、ザインから叔父様に命令されたということを言ってもらえたら。証拠は完璧だ。
叔父様を捕まえるのはまだ後だ。今はAIチップの悪用を止めるのが先。
AIのチップのせいで、もしかしたら戦争が起きてしまう可能性だってある。AIの情報量は、正直計り知れないくらい上だ。人間の叡智を超える可能性を秘めている。たった一つのAIのチップのせいで世界が変わるかもしれない。犯罪をいままでに犯してきた人たちに渡ってしまったのだ。世界は変わる、悪い方向に。
「ここですか。」
私は蓮さんに向かって小声で確をした。
「ああ。」
今回は私も戦う。何でもかんでも蓮さんとカイさんに任せっきりというわけにはいかない・・。発明品を取り返せば、今回はおしまい。でも、できればオートリック・ダークト―ン、組織を潰すということになった。カイさんは、私達とともに来てくれた。雨倉さんのことは探偵事務所に連れていき、赤城さんが如月さんのことを守るついでに雨倉さんを見張ってくれると言っていた。如月さんは今回、ナビ以外にもとても重要な役割をやってもらっていた。
『よしっ!ハッキング成功やで、組織の中の防犯カメラ、乗っ取ったで!』
そう、どの部屋に誰がいるのか教える役割。防犯カメラにハッキングすると言い出したのは如月さんだが、カイさんが警察の人に許可を取ってくれたので犯罪ではない。
まず、表口と裏口を見る。表口には二人、裏口には一人、見張りがいる。全員、身体は鍛えているっぽい。
「蓮さん、侵入します。換気口を外しますね。」
「ああ、気をつけろよ。」
「そっちこそ、やられないでくださいね。」
「誰に言ってんだ。」
私はよいしょっと換気口を外す。この作戦は私にかかってる。ここで頑張れなきゃ、私はここに来た意味がない。
裏口の男は上着に拳銃を仕込んでいた。その証拠に、上着が少し膨らんでいて、拳銃の形が見える。それに比べ、表口の二人組は武器を持っていない。きっと相当強いんだろう。
でも、拳銃相手よりも、素手相手のほうがはるかに戦い慣れている。
このまま通気口を進んでいくと、廊下のところに出る。そこから左に曲がると蓮さんとカイさんが待っているドアがある。それを私が開ける。
私は暗い通気口の中をどんどん進んでいく。景色が一気に灯りに包まれる。眩しくて私は思わず目を閉じた。
よし、廊下に出た。こっからまっすぐ左だ。そして右、そして見えた。表口。
その時私は前から聞こえてきた声に目を丸くした。
「はい、はい、わかりました。クソッ、誰なんだ一体。カメラをハッキングされたなんて。」
・・・・っ誰か来る。やばい。声は結構近い、すぐ近くだ。通気口の中に戻って、いやだめだ。今ここから通気口の中で戻るには時間がかかり過ぎる。戦う?でも、もしかしたら仲間を呼ばれるかも。私一人じゃ多分無理だ。蓮さんとカイさんが待ってるんだから、ドアを開けなくれば。
仕方ない。リスクは高いけど。
私は音を立てないように地面を蹴って上へ飛んだ。壁に足と手をつく。天井に張り付くような体制になる。これでバレなかったら、ラッキーこんな雑な隠れ方じゃ、バレるかもしれない。もしバレたら戦おう。
『沙紀、遅れているな。大丈夫か?ドアを吹っ飛ばして中に入るって選択肢もお前を助けるためならあるぞ。』
耳につけているイヤホンから蓮さんの声。私は大丈夫ですと短く返した。
男が私の下を通った。なにかを見ていた。
男が見えなくなると私はゆっくり地面に着地した。
・・・ふう。危なかった。
私はドアのところまで駆け足で行ってドアを開けた。
「蓮さん、カイさん。おまたせしました・・・・。」
私がドアを開けるとぐでんぐでんに伸びた男たちがうめき声を上げていた。
カイさんと蓮さんが私の方を見る。
「沙紀、良かった。」
蓮さんが一瞬安心したかのように息を吐いた。私達は中に入った。
・・・・さっきはドアを開けることだけを考えていたから、周りをしっかり見る暇はなかった。よく見てみると、照明は薄暗く、床や壁などはあまり見えなかった。二つの道にわかれていた。でも、こっちは蓮さんと如月さんの情報により、どこを通れば最短ルートで発明品を取り返せるか。蓮さんとカイさんとはスーツに仕込んだ小さいスピーカーで会話をする。『まずここを左や、側の廊下には部屋が一つある。中に人がおる、バレへんよう行って。ちなみに、右は会議室みたいや。強そうなやつが三人話しとる。音立てたらアウトやからな。ザインとかいうやつもその中や。』
如月さんの声が聞こえる。
私が蓮さんの方を見ると蓮さんは頷いて、私の前を歩き始めた。そしてカイさんが私の後ろを歩く。私を挟むような形で左側の通路に向かって歩き始めた。きっと敵が来たときに私を守るためなんだろう。でも、私も。
「蓮さん・・カイさん、守っていただかなくても。私戦えます。」
「・・・・わかった。でも、一応お前を挟んで歩かせろ。」
この目はどんなに断っても聞いてくれない目。どんなに私が大丈夫だと言っても無駄そうだ。でも、もし前に敵が来たら、私に任せてくれる?
そんな事を考えて、私は自分で自分に驚いた。前は、こんなこと考えてなかったような気がする。蓮さんの言う事をきいて、やらなければいけないことをやる。昔、近所の子供ににロボットのようだと言われたことがあった。もしかしたら本当にそうだったかもしれない。自分のことを信じるのが怖くて、心の底から気持ちを言えていなかったのかもしれない。
・・・・そんなことを考えていたときだった。
真下の地面が開いた、ちょうど私が歩いていた場所、私の前を歩いている蓮さんは引っかからなかった仕掛けなのに。なにか踏んでしまったのかもしれない。
「・・・っつ」
『沙紀!』
如月さんの悲鳴のような声がイヤホンから聞こえた。
防犯カメラで私達のところもちょうど見えていたのだ。
私は手で壁をつかもうとした、でも、思ったよりも滑る素材で上手くつかめない。
ガッと手が掴まれた感覚、そして元いた場所に引き上げれた。蓮さんが助けてくれた。
「・・・・蓮さん・・とカイさん。すみません。」
「無事ならそれでいい。そこら中に仕掛けがあんのか。もしかしたら今ので侵入したことがバラたかもしれないな。」
蓮さんが言った言葉にカイさんがうなずき少し早口で言った、
「少し急いだほうがいいかもしれませんね。」
私は大きく息を吸った。如月さんの震えた声がイヤホンから通じて聞こえる。
『嘘やろ、罠がそこら中にあったら・・・。』
これは想定外だったな。完全にルートもわかっている状態。思わず安心していたのかも。気を引き締めないと。
『気をつけて進んで、その部屋の横を通り過ぎたら右に曲がって、そのまま一本道屋から真っすぐ進んで。その間に部屋が3個ある、中見て見たで。誰もおらへんから落ち着いてっすぐ進む!』
私達は罠に引っかからない用に周りを意識しながら、少し速歩きで急いだ。
ジグザグと左に曲がったり、右に曲がったりを繰り返していると如月さんが止まって!と警告してくれた。
『そこ、裏口の拳銃持っているやつがいるところや。築かれへんように静かに通って、通り過ぎたら、目の前にある階段で上に上がって!』
手が汗でじんわりと湿っているのが分かる。
私は眼の前のドアを見た・・そして静かに、でも素早く蓮さんを追って飛んだ。
階段を上がるとそこには誰もいなかった。私は「はあ」と息を吐いた。
蓮さんとカイさんも安心したように息を吐いた。
「二人共大丈夫ですか?」
カイさんが私達に声をかけてくれる。私は方にかかる長い髪を背中にやった。そして前を向く。如月さんが説明してくれたところまでついた。2階の中心の部屋・・・。
ここだ。
・・・・・・
『ここには五人や。』
ここは、血の匂いがする。ここにいる人はどんな気持ちで人を殺しているのだろうか。誰かを殺したら、その人を愛している人が、深く深く悲しむかもしれない。そう考えたら、どんな理由があったって、人を殺すことはできない。人を殺す理由・・・・・。いま考えるのはやめよう。チップに一秒でも早く辿り着くことだけ考えなくては。
なんだか嫌な予感がする。私がトラップにかかってしまってから、ここに来るまでに少なくとも5分はかかった。いつでも私達を襲うチャンスは会ったはずだ。なのに襲われてない。ここに五人いるってことは・・・。
「・・・・っまさか。」
巨大な肉食獣のテリトリーに入り込んでじっと狙われてるような感覚が私を襲う。私が発明品の方に一歩踏み出したら、強烈なパンチが私を襲った。反射的に後ろに飛んでダメージを最小限にしたが、それでも発明品が置いてあった部屋の壁に体を強打した。体がしびれて動けなかった。もう一発をその男が私に放とうとしたとき、トンッと音がしてその男は後ろに倒れた。
「沙紀、大丈夫か?パンチされたときに後ろに飛んでたな。あれは練習でできても、本番ではなかなか反射的にできない動きなんだぞ。すげえな。」
蓮さんは私の方を見るとフッと笑った。
だけど、敵がひとり来たということは・・・まあ、そうだろう。いっぱい来るに決まっている。
3人の大男が私達を取り囲んだ。銃はもっていないようだった。でも、そこに少し細めの男が入ってきて、黒い物体を男たちに渡した。
「銃だ」
蓮さんはつぶやくと同時に私を持ち上げて、男たちの間を風のようなスピードですり抜けた。蓮さんが私を抱えながら部屋の外に出て右の廊下を走った瞬間、カイさんは隙を逃さず四人の男たちを床に叩きつけた。・・・・チップは⁉️と周りを見たけれどそこにはなかった。呆然としたときイヤホンから如月さんの声が聞こえた。
『さっきの銃を持ってきた男が発明品を持ってるみたいやで!右側の通路から急いで逃げよった!』
私が蓮さんから降りる前に、蓮さんは急いで、ドアをしめると。ポケットの中から警棒より少し短い棒を出す、その棒の両端が伸び、2倍の長さになった。それをドアに引っ掛ける。つっかえ棒のような役割を果たしてくれている。でも、何でこんなのを持っているんだろうか。
「今のうちに、おろしてください。私、別に足遅くないです。それに、私を持っていると両手が使えないですよね?」
「戦える、足で。あと、お前を下ろすのはあの一番奥にある部屋に入ってからだ。」
といって。もっとスピードを上げた。私はもう蓮さんを説得するのは諦めた。でも、前からドタドタと音がしてさっきの男たちが目の前に立っていた。カイさんは「もう起きたんですか。もっと深く床に沈めていればよかったですね。」とつぶやいている。銃を発砲される前に、この男たちを通り過ぎて、奥の部屋に入ってセーフゾーンに行くのが大事なのだ。カイさんが私達の前に出て男たちの足元に足を滑り込ませ一瞬バランスを崩させる。
それと同時に、蓮さんが「ハッ」と息をすいこむととスピードを上げ男たちに突進していった。私は焦っていた。このままのスピードで拳銃を持っている男たちの方に行けばきっと銃で即座に打たれてゲームオーバーだ。
蓮さんにそう言おうとしたとき、蓮さんが地面を蹴って壁を走り(・・・壁を走り?)、男たちの後ろに飛び降りた。
「え・・蓮さん?」
男達は思わず動きを止めて蓮さんを見ていたが、蓮さんが飛び降りると同時に、銃を発砲した。バンッと迫力のある音が響き渡る。最初の発砲はカイさんが壁側においてあった小さな椅子を投げて当たらないようにしてくれたけど。男達は撃ち続けてくる。
それでも蓮さんは足を止めず走り続けた。発明品を持った男が見えてきた。私は蓮さんから手渡されたロープを手に取り、その男に向かって投げる。するとくるくると足に巻き付いた。そしてころんだ。よしっ!やった!蓮さんが調査に行ってくれた時に練習した甲斐があった。まだ使いこなせてはいないし、今の技の成功率は極めて低い。でもできた。
私は蓮さんから飛び降りて発明品の近くまで行った。そしてドアが開きっぱなしだった部屋を一瞬見た。人がいない。私は蓮さん、カイさんと一緒にその中に入り急いで鍵を締めた。でも、それだけだと中で撃たれたりドアをふっ飛ばされたりしそうだったので、近くにある重いものをとにかく壁側に重ねた。息を吐いたその瞬間、苦しそうな息が聞こえ、私は急いで振り返った。
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