第17話 隠れ家 by 蓮
『上杉蓮、うちの声聞こえる?』
耳につけているイヤホンから如月光の声が聞こえてくる。
沙紀はここに来たがっていたが「絶対にダメだ」と断った。
さすがにここに沙紀を連れて行くのは危険すぎるからな。治安が悪いにもほどがある。ここは、青南三市のハズレにある古い建物が並ぶ場所、ここらへんに住んでいる人はいない。青南三市は金持ちの住む街として知られている一方、街はずれには危険な地帯が燻っている。ここにはもう使われなくなった建物があるだけだ。・・・だが、如月光によると、ここに隠れ家があるらしい。写真にあった場所の近くだ。
今、沙紀にはカイさんの探偵事務所に如月光と待機してもらっている。ここに来るなと言ったら、仕方ないから、俺が渡した戦闘用の道具を使う練習すると言っていた。もちろんカイさんはいる。そして、さっきから如月光にナビを頼んでる。時々怪しい建物は写真を取って如月光に転送していろいろ探してもらっているんだが・・・まだ見つかっていない。
もうここらへんに入ってからすでに二十分ほど経過しているんだがな。俺は探偵事務所に沙紀がいるのが一番今は安全だと思っている。カイ・エバーズさんは正直って強い・・もしかすると俺も倒せねえかも。その強さは身のこなしや気配でもわかるが。この間少し勝負をしてみて確信した。そして何より、沙紀を妹のように大切に想ってくれているのが伝わってくる。沙紀を傍で守ってくれる人物として、これ以上信頼できる人はいない。
「まあ、沙紀を護ることに関しては俺は誰にも負けるつもりねぇけどな。」
俺はそうつぶやいて、もう一度周りをよく見る。
まあ、いかにも隠れ家があるっぽい場所だが・・・。
人気は無い、薄暗い、ねずみがいる。・・・それにこの漂っている鉄のような匂い。・・血の匂いじゃねえか。血が鉄のような匂いがするのは、血液の中に「ヘモグロビン」という成分が含まれているから、ヘモグロビンは、鉄を含んでいて、血液が酸素を運ぶのを助けてる。小学校の授業で出てきたっけな。これは、相当やばいな。死ぬ間際にいるような感覚にゾッとした。
だが・・・、
「ああ、聞こえてる・・・。それらしい建物は無いな。中に人がいる気配があるものはない。」
人の気配がしない・・・。まあ人が全然いないのはわかりきっていることだが・・・。本当に隠れ家がこの近くにあるのか?
その時、視界の隅でネズミが通り過ぎた。カラスが飛び立つ。
・・・殺気。何度も仕事をしてきて、何度も嗅いできた匂い。でも、いつまで立っても慣れることはない。
暗い道からコツコツと足音が聞こえてくる。
俺は後ろに飛び跳ね、建物の影に身を潜めた。建物の間から相手の姿を見る、身長は俺より頭1個分ほどはある。黒いジャケット。特に珍しいのはあの金色の目かもな。オートリック・ダークトーンのリーダーは金色の目の持ち主。つまり、あいつがザインか・・・。
あとを付けてみるか。どこに隠れ家があるのかわかるかもしれねえし。
おっと、その前に、写真取っとくか。俺はポケットからスマホを出し写真を取り、如月光に転送した。
・・・・・・。
さっきいた場所から十分ほど歩くと男が十棟ほど並んでいるビルのうちの一つに入っていった。
ここか・・・・、まあ確かに・・。やべえ匂いがするな。如月光がイヤホンから今の位置を教えてくれる。
見た目はただの廃ビルだが、周りの崩れそうな建物に比べれば、頑丈そうだ。コンクリートでできたビルで入口の重そうなドアに厳重に鍵がかけてある。窓は2階に一つだけだ。
これは・・・中に入る方法も、出る方法も多くて二つしか無いな。正面玄関か、裏口だ。
窓は・・・流石に無理な気がするな。
わざわざ戦うなと言われているから今日はもう帰るか。
少し薄暗くなってきたので俺はその場から離れた。
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