第16話 5時間の調査 by 沙紀

「カイさん、どうにか繋いでいただけますか。これがきっと大事な一手になるんです。」

私が頭を下げるとカイさんは少し難しそうな顔をすると口を開いた。

「私も沙紀さんの力になりたい気持ちは山々です。けれど、Nexaraの副社長の部下と話させてくれというのは相当難しいことです。そもそも、私はNexaraに依頼を頼まれたことはないんです。」

わかっている。でも、叔父様は用心深い。私が叔父様の部下に相対なんて言っても聞いてくれないだろう。きっと、今日は彼の休日だから無理だ。とか言われてしまうと思う。

このチャンスは逃せない。蓮さんも頑張ってくれている。それに事件から時間が立ちすぎると手遅れになる。事情聴取するなら今なんだ。

「お願いします!」

私は本気だ。どんな壁にぶつかっても・・諦めたくない。

「・・・・君の気持ちはわかりました、私も頼んでみます。」

「ありがとうございます。」

どんなに小さなチャンスでも、掴みたい。



眼の前には超高層ビル。カイさんのお陰で、取引したと思われる男と話せる。

私は入口に立った。ここに立つのは七年ぶりだ。小さい頃、お母様と一緒にお父様にお弁当を渡してきて以来だ。右と左に対象的に並ぶ2階への階段。いろんな人々が行き来するホーム。私とカイさんはエレベーターに乗って25階にある会議ルームへと向かった。

心臓で太鼓が鳴っているような感じがして、手が汗だくだ。

もしかしたらこの人がすべてやったのかもしれない、叔父様ではないかもしれない。・・・シャドーセンスで聞こえたんだ、もう叔父様が犯人だということはわかりきっているのに、私は何を考えているんだろう。

今は事件の解決のことだけを考えろ。私は、蓮さんに助けてもらったり、守ってもらわないとしゃがみこんでしまうような、弱い女じゃない。

「入ります。」

私は会議室に足を踏み入れた。

その男はソファーに座っていた。真っ黒な髪になんの光もないような真っ黒な目。目の下には真っ黒なくまがあった。あまり眠れてないのだろうか。ところどころシワが付いているスーツの胸元には黒い字で「雨倉康太(あまくらこうた)」と書かれていた。

「どうぞ。」

この人に、こんな事件を抱える力はない。直感でそう感じた。やはり、命令している人がいる。真犯人はこの人じゃない。だって、シャドーセンスで何も感じれない。この人から溢れでている感情は、恐怖と諦めだ。

「何を命令されたの。」

私は雨倉さんの目をみて口を開いた。相当な悪人相手に。

あまり時間をかけている暇はない、すぐに本題に入ろう。

「なんのことですか。」

声が微妙に震えているのがわかる、もしかしたらすぐに情報が得られるかもしれない。

でも、あえて誤魔化す方向で来ているということは、もしかしたら脅されているのかもしれない。だとしたら厳しいな。敬語では迫力がない。ずっと理想のお嬢様になれるように敬語で話していたけど。

ここはお嬢様としてのお麺を外してでもいいから、叫べ。チャンスが目の前に有るんだから。それを掴まないと。幸せというより・・・希望は、いつまでも来ない。

私は写真を雨倉さんに見せた。

「これは、深夜に取られた写真・・・・あなたでしょう?雨倉さん。」

「っつ!?なぜそれを。」

目に動揺の色が走る。全部吐くまで、離さない。

「なぜこんなことをしたのか、それを教えて下さい。これを警察に渡せばあなた一人が罰を受ける。こんなことをしたんだから、会社はもちろんクビでしょうね。それにこれは横領罪、刑罰も受ける。」

「うわあああ」

もう一押し。カイさんは後ろでゆっくりと圧をかけて、私が言葉で更に追い打ちをかける。

「協力者がいるなんて誰も思わないでしょうね、一人で罰を受ける。」

「やめろおおお」

最後だ。

「あなたは牢屋行きになるのよ?それでも誰に命令されたのか、何を渡したのか・・吐く気はない?」

ソファーから崩れ落ちた雨倉さんは身体を震わせながら声を上げた。

「わかった、全部・・・全部話す。だから・・・俺のことを助けてくれ!!助けてくれよ!」

悲鳴のような雨倉さんの声が会議室に響き渡った。



「おい・・・おい!」

蓮さんの声で現実世界に引き戻された。

「・・・あ、蓮さん?すみません考え事してました。やっぱり犯人は叔父様ですね。叔父様の部下が全部を教えてくれました。でも、教えてくださった今、彼の命は危険です。なのでカイさんが彼のことを近くで見張っているんです。」

雨倉さんは暗い声で会社の下っ端として必死に働いていた彼を叔父様がもし言うことを聞いてくれたら叔父様の直属部下として、上のランクに上げてやると言われ、思わず了解してしまったこと。それからは叔父様の言いなりになってしまって、やりたくもない取引までやらされられたこと。彼が言うには叔父様は発売品と引き換えに大金を手に入れて、話しが噛み合わないお父様の地位を奪おうとしていたようだった。そして、それと同時オートリック・ダークトーンにだれかを殺すように依頼を頼んだ。きっとその誰かは私だろう。

蓮さんは何も言わずに私の話を聞いていたけれど。蓮さんのスマホが鳴り・・、「悪い」と言って蓮さんは少しの間いなくなった。でも、また戻ってきて私の方を見て言った。

「話の続きで出ていって悪かった。オートリック・ダークト―ンの情報を入手した。まずリーダー合わせて全員で15人だ。世界各国で犯罪を起こしてるな。つい去年から犯罪を起こし始めた奴らだ。麻薬取引、犯罪ネットワークの運営、グローバルなサイバー攻撃、相当重い罪起こしてんぞコイツラ。何人殺してきたんだろうな。今のところ、情報はこれだけだ。」

私が情報を得てと言ったの、せいぜい5時間前くらいだったような気がする・・・。蓮さんの仕事の速さには毎回驚いてしまう。カイさんもすごく速かった。本当にすごい人たちだ。

でも、その組織?のことはもう少し調べておいたほうがいいかもしれない。もしかしたら罪のない人を何人も殺してきたのかもしれない。

あんなにさっきをまとっていたんだから。殺すことになんの迷いもないようだった。

「蓮さんはその組織のことを引き続き調べていただけますか?気になるんです。」

「ああ。」

すでに時計は六時を指していた・・・。もう春が終わり夏になってきたから日が暮れるのは暮れるまでしばらく猶予があるが、そろそろ帰った方が良いに決まっている。

私は蓮さんとカイさんとホテルの方に向かった。

夕日が道を照らす。道路を歩いていた猫の影が日が暮れるにつれて伸びていく。

まあ、今はこっちの事件に集中しよう。

夕方になってきても、ホテルの近くの店は賑わっていた。ホテルのエレベーターの光は控えめで、でもエレベーターの中を明るく照らしてくれていた。私は蓮さんとカイさんにお休みなさいと言った。

自分の部屋に入ろうとカードを手にもつと蓮さんに手首を少し掴まれた。

「ちょっとまて、お前、眠れてないだろ。」

痛いところを突かれた。最近、心苦しいことばかりが続いて、眠れなかった。目の下のくまは、少しクリームを塗ったから、隠せていたと思っていた。

私が少し下を向くと蓮さんが私の顎を上に上げ、無理やり前を向けさせた。

怒られていると思っていると、蓮さんは優しく笑った。

「お前頑張ってるもんな。これを使え。夜、枕にかけるとよく眠れんぞ。」

そう言って蓮さんは私の手の上にラベンダーの香りのアロマスプレーを置いた。

「じゃあ、いい夢見ろよ。」

いかにも貸してやるふうに言って来たけど。このアロマスプレー、まだ未開封だ。私のため?

蓮さんの優しさを思うと頬が熱くなってしまい、手の甲で頬を抑えた。結局いつも優しいのだ。その夜はいつもより深く眠れた気がした。


その次の日、空は晴天で、雲一つ無い青空が広がっていた。 太陽が真上に光る12時。

昨日、如月さんにもらった証拠、そしてその写真に写っている、蓮さんが探してくれた、取引相手の情報を。私は手のひらに乗っているはがきサイズの写真を見る。叔父様の部下、雨倉さんと帽子を深く被った男が写っている写真。これは確実な証拠になる。そのうえ、雨倉さんが教えてくれたことをすべて録音した。これで証拠は準備OKだ。

警察にはもうすでにカイさんが言ってくれた。

今日は、カイさんが朝一から探偵事務所にいっていて、途中で私達も来てと言われたので行くことにしたのだ。

カイさんが住んでいるのは神社が横にある二階建ての家。そこは商店街からは遠く、人が少なく和やかな場所。木で作られた黒、白と茶色出できた今風な感じのデザインの家。そこがカイさんの探偵事務所だ。外見はカフェのようで入りやすい雰囲気だ。

横の神社は緑がいっぱいあって気持ちがいい。

私と蓮さんがドアを開け中に入るとカイさんは待っていたかのように出迎えてくれた。その表情はいつもより暗かった。カイさんはドアのOPENと書かれている札をクルッと回してCLOSEにする。

「お二人共、待っていましたよ。お二人のお友達も部屋で待っています。」

カイさんが真剣な顔でいった言葉に私は首を傾げた。

お友達?誰だろう・・・?

私は蓮さんの方を見たが、蓮さんはなにか別のことを考えているようだった。カイさんはドアをゆっくりと開けた。そこはいつもカイさんの家に来ると案内される部屋。でも、今日はいつもと少し違った。いつもは誰も座っていなかったソファーに、如月さんが座っていたのだ。

「如月さん、どうしたんですか?こんなところで・・。」

如月さんは私に気づくとニッコリと向日葵のように笑った、が・・目が笑っていない。手元に開いてあったパソコンを私に見せていった。

「ちょっと気になってもう少し調べさせてもらったんやけど。どうやら、あの副社長の部下が取引した相手の組織、ちょっとヤバいことやろうとしてるかもしれないんや。止めなアカンと思うんよ。敵がどこにいるのか、ちゃんとこれから調べなアカンのやけど・・・。とにかく、近い内に、恐ろしいことが起きてまう。それまでになんとかせんと!」

如月さんは一気に喋って肩で息をする。叔父様が裏取引した新商品って、そんなに大変なものだったんですか。でも、ここに如月さんがいるということは、もうすでにカイさんに情報は渡したということ。

その組織の場所を見つけて、新商品を取り返さなくてはならないということか。

「その新商品って、何だったんですか?・・・・って、聞いてもわからないですよね。すみません。」

私は口をふさいだ。如月さんは情報を集めてくれた。あとは私がやる番だ。

私が覚悟を決めようとした時に如月さんが口を開いた。

「新商品のことも気になったからもちろん調べたんやけど。」

そう前置きして話を始める如月さん、もちろん私が話す隙なしです。

如月さんはパソコンで新しいファイルを開いて私達に見せた。

「なんと、新しいAIのチップ、まだ安全確認が終わっていなかったのに、それを取引に使ってしまったんよ。今の未完成なAIは世界征服すらできてしまう。なのに・・・。」

まだ未完成のAIのチップ・・?

私は鳥肌がたったのを感じ、腕をさすった。それは、確かにちゃんと使えばものすごく便利な道具だと思う。でも・・・そんなの、いくらでも悪用できる。

私の横に立っていた蓮さんが唖然としてゆっくりまばたきをした。

「AIチップが情報収集や分析に使われると、大量の個人情報や機密情報が盗まれるリスクが増してしまう可能性がある、AIチップが監視カメラやトラッキングデバイスに組み込まれると、犯罪組織が特定の人物や団体を追跡し、プライバシーが侵害されるリスクもある。他にも、AIによる犯罪の自動化、AI技術を使った犯罪から生まれる社会的な混乱と恐怖、未完成のAIチップが予期しない動作をすることで、制御不能な状況が発生する可能性まであるぞ。」

焦ったような蓮さんの声を聞いてゾッとした。

そんなものを、叔父様は・・・・?

「うそ・・・。」

思わずこぼれた声が震えていた。心臓におもりがぶら下がっているような感覚が私を襲った。今すぐにでも止めなくては・・・。

「カイさん、叔父様が犯人かどうか、一緒に最終確認をしていただけますか?あと、蓮さん・・・。もしよければ、その組織の場所を探してきてくれますか。見つけても絶対に一人で倒そうとしないでください。まだ相手の強さが図れていませんので。」

蓮さんは頷くとスマホを取り出してどこかに電話をし始めた。カイさんは急いでパソコンを開くと何かを検索し始める。私は如月さんの方を見ていった。

「如月さん、情報提供ありがとうございました。感謝しかありません。ですが、危ないかもしれないので家にいたほうがいいかもしれません。本当にすみません。」

これは私の本当の気持ち、私は如月さんの手を握った。

情けないことに私の手は震えていた。如月さんは私の手から自分の手を引っこ抜き、私の手の上に自分の手を重ねた。

「友達のピンチのときに、助けないなんて。最低やとうちは思う。自分勝手やと思うけど、これだけは言わせてほしいねん。沙紀はうちの友達や、うちは沙紀を助けたい。・・・・それに赤城もいるし。」

そう言うと私の目をじっと見た。

優しい瞳に見つめられて、私は口をつぐむ。視界がぼやけそうになって上を見た。

「わかりました。もしよければ・・・どこに組織が潜んでいるのか、予想を立てて蓮さんを手伝っていただけますか?ですが危ないことはしないでください。」

私がじっと如月さんのことを見ながら言うと太陽みたいに明るい笑顔で私に向かって笑ってくれた。

「うんっ!」

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