第15話 真実は by 沙紀

「おはようございます。」

私は私服に急いで着替えて髪をぱっととかしてカイさんの部屋のドアをノックした。

中からカイさんが出てきて入ってと言ってくれる。奥にはもうすでに蓮さんがいた。

「情報が手に入りました。Nexaraから沙紀さんを襲った犯罪組織にかけた電話を録音したものです。」


『今夜の1時、未完成の新発明品を10億で取引する。あとは、前回依頼した通りだ。』

ドクン、心臓の音が低く響いて聞こえた。

叔父様の声だ、もう確実に叔父様が犯人だ。信じたくはないけれど。これ以上悪いことをする前に止めなくては。

『わかった。』

機械のような声が聞こえる。変声機を使っているのかもしれない。

その声が頭に響いた。

「これだけの短い会話でしたが、命令している声・・これはあなたの叔父、闇野祐人さんのものです。声紋認識、別名ボイスプリントを使って調べていただきました。話している相手は変声機を使っているようですが、沙紀さんの情報のおかげでもう分かっていますよ。」

「!・・誰ですか?」

蓮さんが聞いた。

「オーリック・ブラックトーンという組織のリーダー、ザインです。最近裏舞台でスポットライトを浴びている犯罪組織ですね。名前の意味はAuricは「金色」を意味するラテン語に由来し、Blackthornは暗いトーンらしいです。ザインは、黄金のザインと言う異名を持ちます。」

なるほど、私を襲ってきたのはリーダーだったのか。だからあんなに何人も殺してきた匂いがしたのか。

叔父様はなんのためにそんなことを?

ズキズキと胸が傷んだ。

「ありがとうございました。」


そのあと私と蓮さんはホテルの外に出た。

如月さんから連絡が入ったからだ。なぜかはわからないけれど、近くの公園まで来てとのことだった。一人できてなどというのは言われなかったので蓮さんと来た。今は九時半で、十時に来てと言われたから。

「気をつけろよ。」

「一応ですけどね。気は抜きません。」

九時半ということもあり、人はまあまあいてザワザワしている。

このあたりは観光客にも人気なので、時々外国人らしい方もチラチラ見かける。

私はドアを押して外に出る。如月さんと待ち合わせしている公園は小さい頃、お母様とよく行った公園で・・・場所は覚えていたから私は速歩きで集合場所まで行った。



・・・・・。

「少し早く来すぎたでしょうか?」

周りを見渡しても如月さんらしい人は見えない。私は周りを見る・・・この公園、お母様が亡くなってしまってからは来ていなかったけど・・・変わってない。あの黄色い滑り台も、赤いブランコも。ここの遊具はこんなに小さかった?最後に来たのは私が七歳だった時。もう後年も前だ。心にじんわりと熱い感情が溢れてきて思わず立ちすくんだ。

「大丈夫か?」

蓮さんが心配そうに私の顔を覗き込んできた。

私ははっとしてぼやけた目をこすり「大丈夫です。」と返した。

そういえば、ちょうど七年前。私が最後にこの公園に来た時。ブランコのところで私と同い年くらいの女の子が泣いていたことが会った。懐かしい。あの子、今でも元気かな?確か、目がくりっと大きくてショートカットで。

「沙紀ちゃん!」

私はその姿を見てはっとする。あの時泣いていた女の子と重なる。・・・・そんなわけないか・・・・・。

でも、事件が解決したら聞いてみようかな。

後ろから如月さんの元気な声がして私は振り返った。

「見つけた情報があるんよ、ここだったら人もあんまいんし・・・防犯カメラもないから。」

なるほど、人がいないからここを選んだのか。流石だ。昔はもう少し人がいたけれど、今はもう古い公園としか知られていないんだろう。

まあ確かに人はあまりいないのに明るい雰囲気で元気になれるような公園。だから好きだった。・・・・・・なんて過去に浸っている暇はない。教えてもらわなくては。

「実は・・・昨日の夜に沙紀ちゃんのお父さんの会社、Nexaraの副社長の直属の部下が新しい新商品を裏取引してるんを、赤城が見つけたんや。写真はここにある。」

え・・・・っと。それは、どういうこと?まあ、慎重な叔父様のことだ。もしかしたら部下に頼んだの??

心臓がドッと音を立てて鳴ったのがわかった。この写真に写っているアタッシュケースに入っているもの、これはあくまで私の予想だけれど・・・きっと、新商品なんだろう。で、取引相手であろう組織のボスらしき人が持っているのは大金か。でも・・・それだけでは私を殺す理由には・・・。やはりシャドーセンスに関わっている?昨日の夜に聞こえたあの声。あとは私を殺せばいいと言っていたのはやはり叔父様なのか。でも、なんだかあの声。まだ悩みがあった?声が少し震えていたきがする。もしかしてまだ私がシャドーセンスを使えることを確信していない?お父様は・・・もしかしてシャドーセンスのことを叔父様に言っていないの。信頼できる親戚に叔父様は入っていない?でも、叔父様は実の弟だ・・・。

この事件、考えれば考えるほど胸が痛い。私は思わず胸を押さえた。

なんでこんな事になったのだろう。

私を本気で殺そうとしているのか。どうしてなのか。理由はまだわからないけれど。如月さんのおかげで叔父様が犯人ということが確実になった。あとは、私が叔父様の部下に事情聴取をすれば。

「ありがとうございました。如月さん。」

如月さんは優しく笑って頭をぽんぽんと優しくなでてくれた。

あの叔父様が?私のこと殺したいと思っていたのでしょうか?涙が零れそうになって私はぐっと拳を握りしめた。 

蓮さんの静かで強い視線が私に注がれているのを感じた。でも、いま蓮さんと視線を合わせたら、零したくないものを零してしまう。


「大丈夫か?」

蓮さんが私の方を少し心配そうに見る。私は頷くと上を向いた。

写真という証拠を得た今、叔父様を・・・捕まえるにはあの写真に写っていた叔父様の部下に話を聞かなくてはいけない、一応追い詰めることができる、裏取引は悪いことだから、絶対に叔父様のことを止めなくてはいけない。それはわかっている。わかってるけれど・・。どうしても思ってしまう、なんで。信頼してた。叔父様のこと。

思わず気持ちがマイナスな方向に行ってしまう。

どうすれば。なんで私はこの事件が起きる前に叔父様のことを止められなかったの。この事件が起きる前になんだか嫌な感じはしていたのに。なんでっ。

感情が高ぶり呼吸が浅くなっていた。


『大事なのは、どう乗り越えるかだろ。』


・・・こんなときに心に浮かぶのはいつもこの言葉だ。なんだか少し悔しい感じもするけれど。でも、目が冷めた。

私は、一人でも多くの人を助けたい。蓮さんの方を向いて手を強く握りしめた。

「なっ、おい、手!」

いつも冷静な蓮さんが私が急に手を握ったからか、声を上げて少し横を向いてしまった。それを気にせず私は言葉を発した。

「蓮さん、カイさんの言っていた今回の事件に深く関わっている、オートリック・ダークトーンの情報を集められませんか。如月さんのくれた情報は証拠として使います。もしかしたら、これはあくまで私の予想なのですが・・・叔父様は商品を金と裏取引した上に、私を殺すように依頼しているのではないかと思うんです。私はカイさんと、叔父様の部下に話を聞きに行きます。」

蓮さんの青色がかった茶色い目が私を見た。

「俺にその殺し屋の情報を探せと?お前とカイさんだけで行くのか?」

「今は蓮さんの話をしてるんです。蓮さんならできるでしょ。」

私はニッと笑って蓮さんを見た。蓮さんは一瞬目を見開いたあと、「了解。」と言ってくれた。

シャドーセンスを通して、叔父様が私を殺したいと思っているのは確実だ。そして、オートリック・ダークトーンのリーダー、ザイも自分のために私を殺すわけではないと言っていた。きっとその人が私に悪意があったというより・・殺すためにはやはり私に敵だという認識をしなくてはなのだろう。敵と認識するためには殺意がいる。


やっぱり、叔父様が犯人か・・・。なんで私を狙う必要が?

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