第13話 カイ・エバーズと如月光 by 沙紀
「わかりました、情報を集めてみましょう。知り合いの警察にも協力していただきます。」
カイさんは蓮さんの言葉に深く頷いた。私と蓮さんはありがとうございますと感謝を込めて頭を下げた。
その時だった、ドアベルが鳴り、人が外から出てきた。
「その事件、ウチにも手伝わせてほしい!」
私はその人物を見て目を丸くした。如月さんだった。
彼女は息を切らし、眼鏡の奥の瞳を光らせていた。その後ろにはいつものように静かに赤城ナオさん、如月さんの執事がいた。
「如月さん、なぜここに?」
「うちは沙紀ちゃんを助けたいねん!」
その気持ちは・・・・嬉しい。でも、今回の事件は
「今回の事件は危険です。首を突っ込めば如月さんが危ない目にあうかもしれません。」
私の声に被せるように赤城ナオさんがいった。
「お嬢様が危険な目に合うことはありません。私がいますので。」
「ウチも力になりたい。」
一瞬、赤城ナオさんに嬉しそうな視線を向けた如月さんが、バッと私の方を見て頭を下げて頼んできた。こんなに優しい友だちがいるなんて、私は幸せ者だ。
本音を言えばとても嬉しい。でも、その気持と同じくらいに、如月さんに危険な目にあって欲しくない。私のせいで事件に巻き込んでしまうのは、絶対に嫌だ。
でも・・・赤城ナオさんは強い。見れば分かる。隙のない身のこなし、体格はすらっとしている方だと思うけど、力強さを感じる。
この人の側にいれば如月さんは危険な目には合わない。
赤城さん自身もそう言っていた。そして、私達はいま、如月さんのホワイトハッカーとしての類稀なる能力が必要だ。
「・・・・では、お願いします。ありがとうございます、如月さん。」
「うんっ!!!ほな、さいなら~!!!」
如月さんは嵐のように立ち去った。
私と蓮さんはその後一旦家に帰った。
「刑事、すみません。とある事件について捜査してほしいんです。」
黄昏時の夕日が差し込み、探偵事務所を明るく照らす。
カイ・エバーズが一人で、パソコンを開き、電話に向かって話していた。
「30分後にIT会社、Nexaraから最近現れた犯罪組織、オーリック・オブスティアンに電話が来ると思うんです。それを盗聴し録音したものを私に渡してほしいんですが。」
しばらく話しているとカイ・エバーズは電話を切った。その瞳の色は緑だった。
「カイさん、はい。わかりました。待ってます。」
カイさんの電話の内容はこうだった。
「ここまで来ると、如月光さんから情報がもらえるまでは、家に帰らないほうがいいかもしれませんね。この近くにホテルがあるので、情報きっとあしたまでには届きます。」
もし、敵の行動が全くわかっていない、今の状況で。私がずっと自分の家にいれば、家で襲われる可能性がある。
生活に最低限必要な物を取りに戻るために、蓮さんと一緒に家に戻り自分の部屋のドアを開ける。電気を付けると小さい頃から変わってない私の部屋が明るく照らされる。
私は部屋の中で、荷物を鞄の中に詰め込んだ。
結局私と蓮さんはホテルに泊まることになった。でも、子供が二人で泊まれるはずはなく。小説の中によく出てくるおじいさん執事などはもちろんいない。なので、申し訳ないが、カイさんについてきてもらうことになった。お父様は今忙しくて当分の間は家に帰ってきそうになかったから、私は電話で今日はいまの状況を説明した。どうやら、カイさんが警察の方にたのんでお父様に先になにが起きたのか伝えてくれたらしい。
私は荷物を持ち、外に出るとそこにはすでに蓮さんとカイさんが立っていた。ふたりとも荷物はとても少なく、蓮さんは普段着でジーンズにグレーのTシャツを着ていて。カイさんはジーンズとチェックのシャツを着ていた。
待たせてしまった?
私は時間通りに来たはずなのにおかしいなと首を傾げた。
「沙紀さん?大丈夫ですか?」
「来てたなら言え。行くぞ。」
蓮さんは私の重い荷物を持ってくれた。私は大丈夫ですと言ったのに。でもまあ、ありがたいので。・・・・・、何でしょうか?さっきから違和感がある。
・・・・。
二人で他愛のない話をして笑っている二人。カイさんは物語から出てきた王子様のような笑顔。蓮はテレビから出てきたアイドルか俳優か、みたいな?
通り過ぎていく人々がずっとチラチラとこっちを見てくる。しかもその人達の頬がほんのりピンクに染まっているような?
「わかりました。」
この二人と歩いていると、目立つ。
私は眼の前にある5つ星ホテル並の大きさのホテルを見た。およそ40階ほどの高さで、最上階はレストランになっている。
たしかに家にこのまま帰って襲われても嫌なので・・。短くて明日まで、長くて一週間はホテルに泊まるとカイさんは言っていた。私は一応1週間分の洋服をバックに詰めたのだが・・。カイさんと蓮さんは面白いくらい荷物が少ない。
明日はホテルから、探偵事務所まで行けばいいということになった。
「広いですね。」
「ああ。そうだな。ほら、部屋の鍵だ。念の為に隣の部屋にしてもらった。何かあったら呼べ。」
蓮さんが私にカイさんから受け取った鍵を渡す。
「そういえば夕食は最上階のレストランということになりました。外に出るより、狙われる可能性も引くです、でも一応・・蓮さんはちゃんと沙紀さんのことを見ていてください。」
カイさんの真剣な声に蓮さんは頷く。
守られなくても大丈夫なくらい強くなりたい・・。
私がそんな事を考えていると、カイさんが今度はこっちを向いてウィンクをばっちり決めながら言った。
「あ、沙紀さん。一応高級レストランなのでオシャレしてくださいね。」
オシャレ・・・。
私は頷いて蓮さんから部屋の鍵を受け取った。
鍵と言ってもカードのようなもので、ドアのところにかざすとドアが開く仕組みになっているようだった。部屋の中は意外と広くて、窓も大きい。外の景色が見えるようになっていた。
私はバックを棚の上においてソファーに腰掛けた。
「カイさんはオシャレといっていましたが。オシャレってどうしたらいいんでしょうか?」
私はバックの中に畳んで入っている洋服たちを見る。変装用にと思い、一応普段着ていないような。スーツやドレスも持ってきましたけど・・・・。
普段着ていないだけあって、ライト・シャドウのような色をしたスーツはものすごく高級な服。ドレスはスレダーラインのドレスだった、そもそも着る機会がなかったからか、めったに着てなかったけれど・・・。両方ともお父様から頂いたものだ。スレダーラインと言っても、ウエディングドレスのようなものではなく、ちょっとしたパーティーなどのときに着れるレベルのものだった。
私は、パーティーが苦手だったから・・・。全然このドレスを使ってなかったのだ。
「仕方ないです、こっちにしましょう。」
私はドレスを手に取った。
蓮さんとカイさんと、ホテルの最上階へ向かう。廊下に敷かれた真っ赤な絨毯の上を歩き、エレベーターまで行く。
蓮さんはループ・タイ型のネクタイを付けて黒いツーピースのスーツを着ている。似合っているかどうかは隣を通りすがる女性たちの視線を見れば一目瞭然だ。
私は自分にこのドレスが似合っているか少し自信がない。カイさんと視線が合う。途端に私がそんな気持ちになっていることがわかったように、ニコッと笑いながら私の方を見て言った。
「沙紀さん、似合ってますね。まるでどこかの国のお姫様みたいです。」
蓮は少しムスっとしながら歩いていたけれど、カイさんが肘で蓮さんのことをトントンと叩くと、
「あー、似合ってる。」
と言いながらそっぽを向いてしまった。
ちなみにカイさんは、同じく黒いスーツ、タキシードだ。こちらも似合っているかどうかは横を通り過ぎながら振り返っている頬を染めた人たちを見れば一目瞭然である。
私達はエレベーターで最上階へ上がって、レストランに入った。
フォーマルな身なりの人たちが自由に会話をしながら食事をしている。ここのホテルはレストランとして人気らしい。
360度の景色を楽しみながら、食事ができる高級レストラン。
毎夜、満員で数カ月先まで予約が埋まっているらしい。
まあ、敵の本拠地の近くにあるレストランというわけではないので、そこまでつかめられる情報はないと思うけれど。
バレないようにと、私はできる限り背が高くなるように、というか背が高く見えるように変装した。
私達は窓側の席に座った。白いレースが机の上においてある。窓からは夜景が見えた。
そこにウェイターさんが来てメニューを渡した。
おすすめと書いてあったフレンチのメニューに目が止まった。ムニエル・・・にしようかな。でも、ビーフシチューも。よし、
「沙紀はムニエルだろ?」
メニューに目線を落としたまま蓮さんが私に向かって言った。
「何でわかったんですか?」
思わず早口になってしまう。そんな私を見てクスっと笑った蓮さんは、
「長い付き合いだろ?」
と言いながらスマートに自分の分の注文も済ませた。
さてと。私は深呼吸をして、感覚を研ぎ澄ませた。シャドーセンスを使いながら周りを観察する。
こういう人が多い場所は、シャドーセンスを鍛えるのに向いている気がする。
私は自分に向けられた悪意しか読み取れないけれど、もし、他の誰かに向けた悪意や敵意も聞こえるようになったら?
「おたせしました。こちら、ムニエルでございます。ゆっくりとお楽しみください。」
優雅な身のこなしの20から25歳ほどの青年が料理を運んでくる。
私は笑顔でお礼をいうとムニエルと口に運ぶ、やっぱりムニエル選んで良かった。そう思ってから、もう一度周りに集中する。
その時、一瞬聞こえた気がした、
(よし、いい感じに計画は進んでいるな。あとはこの作戦が・・・に・・・ばれ・・。)
・・・何?
あのときと同じ声?やはり、叔父様の声に似てる気がする・・。私に対する悪意があったことは、声が聞こえたのだかららわかりきっている。声が同じだった.。つまり、今回の事件の犯人?でも、どこにいるかは人が多すぎてわからない。それに今追っても、準備が何もできていないので不利だ。
計画が順調に進んでいる?作戦についてもっと詳しく言っていたら。でもなんだか、声に少しのゆらぎも感じた。
もしかすると・・・・作戦が私にバレることを恐れている?途中が上手く聞こえなかったけれど・・・・。言葉を当てはめるとしたら。とある作戦が私にバレるのが最後のハードル。だから私を殺そうとしている?
でも、それは一体どういうことだ?私にバレる可能性?
もしかしたら、敵はシャドーセンスのことを知っているのかもしれない?
自分の血が凍ったような冷たい感覚が体を駆け巡った。でも、これは確実ではない。あくまで仮説だ。そう自分に言い聞かせて心を沈めた。
「蓮さん、カイさん・・。」
「ん?」
周りを慎重に観察していた蓮さんとカイさんに向かって私はレストランから出ようと視線で促した。
二人は頷いてくれた。カイさんにお会計をしていただいてしまったので、お父様にホテル代は出してもらえるようお願いしよう。そのまま下の階まで降りて、カイさんの部屋で泊まった。
「シャドーセンスで、家の近くで聞こえた声がしました。そんなに遠くまでは聞こえないと思っていたのですが、もしかしたらシャドーセンスで聞こえる範囲が前より少し広がったのかもしれません。で、今回聞こえた声によると、私を殺したいと思っていることは確かです。」
「・・・・それはどういうことだ?」
ああ、そうでした、まだ蓮さんには叔父様の件を話してないんだ。言おうと思っていたのに・・カイさんにはこの間話してしまったけれど。
私は蓮さんにこの間起きたことを簡単に説明した。結局、今回叔父様の声が聞こえたのはどうしてだったのか。それは次の日、カイさんと如月さんの情報で分かることになるのだった。
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