第11話 1つ目のピース by 沙紀
「そうですね・・・。あのとき、私は早朝にランニングをしていたんです。大通りで、市場の近くでしたが、朝早かったので。人は、いなかったと思います。でも、サラリーマンの方はちらっと見かけました。襲われたときは誰もいませんでした。」
私はカイさんの前で順々に説明していく。
覚えている範囲を丁寧に・・・。できる限りリアルに想像しないといけないので、少し精神的に疲れるが。カイさんは私のためにがんばってくれている。少しでも手伝わなくては。
「充分です。大体欲しい情報はつかめました。そうですね・・・。あとは・・・犯人が誰なのか・・・・心当たりはあったりしますか?」
一瞬頭の上に叔父様が思い浮かんだが、小さい頃からずっと見てきた優しい笑顔。とてもそうとは思えなかった。
私は「ありません」とつぶやいた。
私はウソを付くのが苦手だ。嘘を付くと下を向く癖がある、と蓮さんに笑われたことがある。嘘を見抜くのは得意なのだけれど。でも、下を向く癖をカイさんはまだ知らない。だから、バレないと思っていた。
「わかりました。」
そんな私を見てカイさんはにっこり笑って頷いた。
カタン、とカイさんが椅子から立ち上がる音がした。
私は椅子から動けなくなったまま、叔父様のことを考えていた。あの微かに感じた悪意は、なんだったのだろう。私に向けたもの?それとも・・・?
・・叔父様のことを悪い人呼ばわりするのは心が痛む。
でも・・もし本当に叔父様だとしたら?
それから十分ほど時間が経ち、カイさんは戻ってきた。もう一度私の前の席に座る。
「沙紀さんのことを疑っているわけではないんですが。・・・本当に、心当たりはないんですか?」
真剣なカイさんの声が頭に響く。
さっき無いといったはずですが?とは上手く言えなかった。
なぜかと言うと、さっきの叔父様のことが、ずっと頭に浮かんでいたから。
眼の前にいるのはプロの探偵だ。ここで伝えないで誰にこの燻った不信感を伝えればいいのだろうか。
なにか違和感があったら言わなくては。
私は言おうと思ったが、いまいち決心がついていなかった。
叔父様は・・・小さい頃から、会う度にプレゼントをくれた。蓮さんや私にすごく良くしてくださった。
でも、さっき・・・・。
私は想像しているうちに、恐ろしいことに気がついてしまった。記憶は曖昧だ、もしかしたら違うかもしれないけれど。
(まあ、俺がこいつを殺してえわけじゃあねえんだが。金のためだ。)みたいなことを、私を襲った大男は言っていた。
誰かに殺すように命令された?お金と引き換えにして?考えすぎか・・・。
でも、シャドーセンスのことをカイさんは知らないはずだ・・・。
どうやって言えば。
その時、私の心に一つだけ。蓮さんの言葉が浮かび上がってきた。
『大事なのは、どう乗り越えるかだろ。』
誰を信じて、どう動くか、それを自分の責任で判断するのはすこし怖い。けれど、この恐怖を乗り越えて、いま、カイさんに伝えなければ。
「じつは。」
私はカイさんの目を見て。私が思ったことも、感じたことも、見たことも。
洗いざらいすべてを話した。
カイさんは私が話している間。ずっと真剣な顔をしていた。
でも、シャドーセンスのことは伝えないほうがいいと思った、そこはどうにか誤魔化した。
誤魔化すのが下手だったかもしれないけれど・・・。
私は平然を装おうと思い、指先でティーカップを持った。私がティーカップを口に近づけた時。
カイさんは少し悩んだような顔をしながら、ゆっくりと私の方を見た。
「沙紀さん。私は、あなたが心を読めることを知っているんです。」
・・・・・・・・・・・・・・・・え?
手に持っていたカップが震えた。
思わず思考が停止してしまった。カイさんがシャドーセンスのことを知っている?
なぜ?
お父様も特に信頼できる親戚にしか伝えていないと言っていた・・・。
信頼できるお父様が私に内緒で伝えた?それは考えにくい・・・。嘘や隠し事はしないタイプだ・・。
まさか?
「気付いたかもしれませんが・・・あなたのお父様と私は、遠い親戚なんです。とても優しい方ですよね。」
いたずらが成功したというようニコニコと笑うカイさん。
「・・そうなんですね。」
自分で言うのも何だが私はめったに驚く方ではない。というか、私を驚かすようなことが身の回りで起こらないと言うか・・・。でも、いまのカイさんの台詞には驚いた。お父様と親戚ということは、私とも血がつながっているということ?
だから会ったばかりの私にこんなにも親切なのか。
私が考えているとカイさんが急いで立ち上がり、ドアを開けた。
「カイさん、どうしたのですか?」
私は最後まで言うことができなかった。なぜか?もちろん蓮さんが雷神のような勢いで部屋の中に飛び込んできたからである。
まさかカイさん、これを予測して?・・・・いや、流石に考えすぎか。
私は首をブンブンと振った。
でもその時私は・・・カイさんにはまだなにかある。そう感じた。
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