第3章:「アリストテレス - 古代ギリシャ哲学の集大成者」

 さて、前の章でソクラテスとプラトンについて学んだけど、今日はプラトンの弟子で、古代ギリシャ哲学の集大成とも言われるアリストテレスについてお話ししようね。


 アリストテレスは紀元前384年、ギリシャ北部のスタゲイラという町で生まれたの。お父さんは宮廷医だったんだけど、アリストテレスが幼い頃に亡くなってしまって、叔父に育てられたんだって。


 17歳の時、アテネにあるプラトンのアカデメイアという学園に入学したの。そこで20年も学んだんだから、すごいよね! でも、プラトンの「イデア論」には批判的で、よく議論を戦わせていたんだって。


「ねえ、アリストテレス。机の本質ってどこにあると思う?」


「それは簡単です、先生。この目の前にある机の中にあるんですよ」


「でも、その机は不完全じゃないか? 完全な机のイデアがどこかにあるはずだ」


「いいえ、先生。机の本質は、個々の机の中にこそあるんです。私たちはそれを観察し、分析することで理解できるんです」


 こんな風にプラトンと議論を交わしていたアリストテレス。彼は「経験主義」の立場に立って、実際に目で見て、触れて、観察することの大切さを主張したの。


 アリストテレスの日課は、朝早く起きて散歩をしながら考えを巡らせること。その習慣から、彼の学派は「逍遥学派」と呼ばれるようになったんだよ。散歩しながら哲学について語り合う……素敵な光景だと思わない?


 さて、アリストテレスの思想の特徴は、あらゆる物事を細かく分類し、体系化したことなんだ。例えば、生物学の分野では、動物を血液の有無や産卵の仕方で分類したりしたの。今でこそ当たり前に思えるかもしれないけど、当時としては画期的なことだったんだよ。


 彼の著作は、論理学、形而上学、倫理学、政治学、自然学、詩学など多岐にわたっていて、まさに「万学の祖」と呼ばれるにふさわしいんだ。


 でも、そんな偉大な哲学者にも、ちょっと変わった癖があったんだって。寝るときにブロンズの球を手に持って、それを落とす音で目覚めるという習慣があったらしいの。今でいう目覚まし時計みたいなものかな? 


 ちょっと想像してみて。


 夜更けのアテネ、静寂に包まれた街。アリストテレスの家の寝室に忍び込んでみるの。


 そこには、大きな寝台があって、アリストテレスが横たわっているわ。でも、よく見ると彼の手元に何か光るものが……。そう、ブロンズでできた小さな球なの。


「ふぅ……今日も良い一日だった。さて、明日も早起きして散歩しなくては」


 そう呟きながら、アリストテレスは球を握りしめて目を閉じる。彼の呼吸が整っていくのが分かるわ。


 数時間後……。


「カラン」


 突然の音に、アリストテレスの目が覚める。手から滑り落ちたブロンズの球が、床に転がっていくの。


「おや、もう朝か。よし、散歩の時間だ」


 彼はすっくと起き上がり、外に出る準備を始める。この独特な目覚まし方法のおかげで、アリストテレスは毎日規則正しい生活を送れていたんだって。


 面白いでしょ? 現代の私たちならスマートフォンのアラームを使うところを、あの時代にこんな工夫をしていたなんて。


 さて、次はアリストテレスの恋愛と結婚生活について、もう少し詳しく見ていきましょう。


 まず最初の妻、ピュティアスとの出会いは、とても悲しい状況だったの。アリストテレスの親友が亡くなって、その姪であるピュティアスが天涯孤独になってしまったんだ。


「ピュティアス、君を一人にはしておけない。私と一緒に暮らさないか?」


 アリストテレスの優しい申し出に、ピュティアスは頷いたんだって。二人は穏やかな結婚生活を送り、同じ名前の娘のピュティアスも生まれたの。


 でも、残念ながらピュティアスは若くして亡くなってしまった。アリストテレスはとても悲しんだけど、一人娘のために前を向いて生きていかなければならなかったんだ。


 ピュティアスに対するアリストテレスの愛の深さは以下の行動からも窺えるわ。


・自分が亡くなった際には、ピュティアスの骨を自分の墓所に入れるよう指示しました。

・錬成術の知識を応用して、妻の遺骨からダイヤモンドを作りました。

・喪が明けた後、アリストテレスはミエザの学園での教育と研究にこれまで以上に没頭するようになりました。


 そんな傷心の時に出会ったのが、ヘルピュリスという女性。彼女はアリストテレスの家で働いていた使用人だったんだけど、二人は次第に惹かれあっていったの。


「ヘルピュリス、君は私の心を癒してくれる。私と結婚してくれないか?」


 こうしてアリストテレスは再婚し、息子のニコマコスも生まれた。ニコマコスは後に『ニコマコス倫理学』という本の名前の由来にもなるんだよ。


 アリストテレスは家族思いの人で、妻や子供たちをとても大切にしていたんだ。彼の著作の中にも、家族の絆や友情の大切さについて書かれているものがたくさんあるんだよ。

 ここでお姉さんが勝手にアリストテレスと家族の様子を妄想してみるね。妄想だけど、あながち間違ってはいないんじゃないかな?



 アテネの郊外にある彼の邸宅、中庭には美しい花々が咲き乱れています。


 日が暮れかけたころ、アリストテレスは書斎から出てきました。彼の顔には疲れた表情が浮かんでいますが、家族の元に向かう足取りは軽やかです。


「お帰りなさい、アリストテレス」


 ヘルピュリスが優しく微笑みかけます。彼女の腕の中には、まだ幼いニコマコスがすやすやと眠っています。


「ただいま、ヘルピュリス。今日もありがとう」


 アリストテレスは妻の頬にそっとキスをし、息子の頭を優しく撫でます。


「お父様!」


 長女のピュティアスが駆け寄ってきます。もう十代半ばになった娘は、最近哲学に興味を持ち始めたところです。


「ピュティアス、今日は何を学んだかな?」


「友情について考えていたの。お父様の『ニコマコス倫理学』を読んでいたわ」


 アリストテレスは嬉しそうに娘を抱きしめます。


「そうか。友情について何か気づいたことはあるかい?」


「はい! 友情には三つの種類があるって書いてあったわ。快楽のため、利益のため、そして美徳のための友情」


「よく読めているね。そして、最後の美徳のための友情が最も価値あるものだということも分かったかな?」


 ピュティアスは熱心に頷きます。アリストテレスは娘の成長を誇らしく思いながら、家族全員で食卓を囲みます。


 食事中、アリストテレスは家族一人一人に今日あったことを尋ねます。ヘルピュリスが市場での出来事を話し、ピュティアスが学んだことを報告する。ニコマコスは、まだ言葉は話せませんが、父親の膝の上で嬉しそうに笑います。


「家族こそが、人生の幸福の基盤なんだ」


 アリストテレスはふと呟きます。


「どういう意味?」 ピュティアスが首を傾げます。


「ほら、私たちが哲学で追求している『善き生』というのは、結局のところ、愛する人たちと幸せに暮らすことなんだよ。家族や友人との絆があってこそ、人は本当の幸福を感じられるんだ」


 ヘルピュリスが優しく微笑みます。


「あなたの『政治学』にも書いてあったわね。『家族は国家の基礎単位である』って」


「そうだね。家族の中で愛情や思いやり、正義を学ぶことで、よりよい社会を作る基礎ができるんだ」


 アリストテレスは家族を見渡し、深い愛情と満足感に包まれます。彼の哲学は、こうした日々の家族との時間から生まれ、そして家族に還っていくのです。


「さあ、明日も良い一日になりますように」


 アリストテレスは小さな祈りを捧げながら、家族と共に静かな夜を過ごすのでした。



 このように、アリストテレスにとって家族は単なる私生活の一部ではなく、彼の哲学の中心にあったんだよ。彼の著作に家族や友情の大切さがたくさん書かれているのも、こうした日々の経験があったからなんだね。

 哲学って、決して難しいものじゃなくて、私たちの日常生活の中にあるものなんだ。アリストテレスの家族への愛は、彼の哲学そのものだったんだよ。


「家族や友人との関係こそが、人生の幸福の重要な要素なんだ」


 なんて、アリストテレスは考えていたんじゃないかな。


 このように、偉大な哲学者も私たちと同じように、日々の生活の中で工夫をしたり、愛する人との関係に喜びや悲しみを感じたりしていたんだ。哲学って、決して現実離れした難しいものじゃなくて、私たちの日常生活にとても近いものなんだよ。


「ねえ、アリストテレス。愛ってなんだと思う?」


「うーん、愛というのは相手の幸せを願い、その人のために良いことをしたいと思う気持ちだね。でも、それは自分自身を愛することから始まるんだ。自分を大切にできない人は、他人も大切にできないからね」


 こんな風に、アリストテレスは愛についても深く考えていたんだよ。


 さて、ここで少し真剣な話をしなくちゃいけないんだ。アリストテレスの思想には、今の私たちから見るとかなり問題のある部分もあったんだよ。


 例えば、ある日のアカデメイアでの講義中のこと。アリストテレスは生徒たちを前に、こんなことを言ったんだ。


「諸君、社会の秩序について考えてみよう。奴隷制度は自然なものだ。なぜなら、ある人々は生まれながらにして支配される運命にあり、他の人々は支配する運命にあるからだ」


 生徒たちの中から、小さなざわめきが起こります。


「先生、それはどういう意味ですか?」 一人の生徒が手を挙げて質問しました。


「つまりね、自然は人間を二種類に分けているんだ。理性的な判断力に優れた者と、肉体労働に適した者とにね。前者が後者を支配するのは、双方にとって有益なことなんだよ」


 アリストテレスはそう答えます。彼の表情は真剣そのもので、自分の言葉に何の疑いも持っていないようでした。


 また別の日、女性の地位について議論していた時のこと。


「女性は、本質的に男性より劣っているんだ。彼女たちには、男性のような完全な理性的能力が欠けているからね」


 これを聞いた女性の生徒たちの顔には、悲しみや怒りの表情が浮かびます。しかし、当時の社会ではこうした考えが一般的だったため、誰も声を上げて反論することはありませんでした。


 今の私たちからすれば、こんな考え方は完全に間違っているよね。人間の価値に貴賤はないし、性別によって能力に差があるなんてことはないんだ。でも、アリストテレスの時代には、こういった考え方が「当たり前」だったんだよ。


 ここで、ちょっと考えてみよう。


「もし君がアリストテレスの生徒だったら、こういう主張を聞いてどう思う? 今の時代なら、どんな反論ができるかな?」


 難しい質問かもしれないけど、これも哲学的思考の一つなんだ。過去の偉大な思想家の考えでも、批判的に検討する勇気を持つことが大切なんだよ。


「でも、お姉さん。アリストテレスはとても賢い人だったんでしょ? どうしてこんな間違った考えを持っていたの?」


 そうだね、とても良い質問だよ。アリストテレスは確かに賢い人だったけど、彼も自分の時代や社会の価値観から完全に自由になることはできなかったんだ。これは私たちにも言えることかもしれないね。


「私たちが今、『当たり前』だと思っていることの中にも、実は間違っていることがあるかもしれない。そう考えると、ちょっとゾクゾクしない?」


 そう、哲学の面白さの一つは、「当たり前」を疑ってみることなんだ。アリストテレスの間違いから、私たちは「権威ある人の意見でも、常に批判的に考える必要がある」ということを学べるんだよ。


 それに、アリストテレスのこういった考えが後の世界で批判され、乗り越えられていったことで、人類の思想はより進歩したとも言えるんだ。


「つまり、アリストテレスの間違いも、人類の進歩には必要だったってこと?」


 その通り! 私たちは過去の間違いから学び、より良い社会を作っていくことができるんだよ。これって、すごいことだと思わない?


 さてアリストテレスの人生最大の挫折は、アレクサンドロス大王の死後、反マケドニア派の台頭によってアテネを追放されたことかもしれないわ。彼はかつてアレクサンドロス大王の家庭教師を務めていたんだけど、その縁で反逆罪で訴えられそうになったの。「アテネ人が哲学に対してもう一度罪を犯すことがないように」と言って、アテネを去ったんだって。


 そんなアリストテレスの死生観はどうだったのかな? 彼は魂の不滅は信じていなかったんだ。でも、人間の理性的な部分は神的なものだと考えていて、その部分を磨くことで幸福に近づけると主張したんだよ。


「人生の目的は何だと思う?」


「それは幸福を追求することだよ。でも、単に快楽を求めることじゃない。徳を身につけ、理性的に生きることで得られる幸福なんだ」


 こんな風に、アリストテレスは人生の意味や目的についても深く考えていたんだ。


 さあ、ここでちょっと立ち止まって考えてみよう。


「あなたにとっての幸福って何かな? それを追求するために、どんな『徳』を身につけたいと思う?」


 難しい質問かもしれないけど、こういうことを考えるのも哲学の醍醐味なんだよ。アリストテレスのように、身の回りのものをよく観察して、そこから真理を見出そうとする姿勢も大切だね。


さらに調べてみよう:

1. アリストテレスの「中庸の徳」について調べてみよう。日常生活でどう活かせるかな?

2. アリストテレスの「四元素説」について調べてみよう。現代の科学とどう違うか、比較してみるのも面白いよ。

3. アリストテレスが分類した「学問の木」について調べてみよう。今の学校の教科とどんな関係があるかな?


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