魔王を倒せばオールオッケー
魔王城。城門の前。諸々の準備、作戦の最終確認、そして、俺のフラつきが収まるのを待って、王様に連絡。準備完了との事。俺は指輪をはめ、姿を消す。
撮影開始だ。たけしを先頭に、ボブ、リンス、エトワールちゃん、少し離れて俺。今この瞬間を、全国民が見ている。俺達を迎え入れるように、城門が開く。いざ。
城の中は大きなドーム状になっており、障害物も何もない。
ただ一つ、中央に黒い立方体が、緩やかに回転しながら浮かんでいる。
あれが魔王だと直感で分かる。
「プランBで」
リンスが城の天井に向かって爆破魔法を放つ。ものすごい威力だ。まるでロケットランチャー。天井が吹き飛び、大量の瓦礫が魔王に降り注ぐ。しかし、瓦礫は魔王に近づくにつれ減速し、やがて周囲に浮遊する。そのまま下には落ちてはくれない。
「ヘイ、みんな、俺の後ろに」
ボブが巨大な盾を掲げ、瓦礫のシャワーからみんなを守る。ド迫力映像だ。瓦礫のシャワーが途切れた瞬間、たけしが天に手を掲げる。そう、事前に召雲済みだ。
「天雷ッ!!」
控え目の一撃。といっても落雷だ。ものすごい轟音。しかし、魔王にあたる寸前で、稲妻は霧散する。
「
立て続けにリンスの魔法が飛ぶ。しかし、これも魔王にあたる寸前で霧散。魔王にはどうやら魔法が効かない。ただ、これは想定済み。効けばラッキーという認識だ。ボブが雄たけびを上げて魔王に突っ込んでいく、リンスとエトワールちゃんはありったけのバフと防御壁をボブに付与させている。
「どぅおりゃああああああああああああ!!」
黒い立方体に斧を振るうボブ。龍の首を一撃で切断する威力。が、あたりはするものの、簡単に弾かれる。黒い立方体には、魔王には、傷一つついていない。それでもボブは何度も斬りかかっていく。
「たけし、慎重にね」
リンスの言葉にコクリとうなずくたけし。聖剣イーエックスカリヴァーンを背中の鞘から解き放つ。刀身は初めて見る。驚きの白さだ。発光していると錯覚するほど。たけしが聖剣を抜いた瞬間、黒い立方体が回転速度を上げ、キィィィィィィンという音が周囲に鳴り響く。そして、全方位に黒い円錐を突き出す。ボブは盾を駆使して何とか受けているが、円錐の先端が触れた床は空間が抉られたかのように消滅。あれは、あたったら死ぬ系だ。ヤバイ。慎重に進むたけし。エトワールちゃんもたけしの後ろについて進む。俺もついていく。リンスは瓦礫を使ってゴーレムをどんどん生成。援護に向かわせている。ゴーレムの動きはのろいが、デコイにはなっている。
強い。思っていたよりもずっと強い。水晶玉で撮影しながら俺はそう思った。これを見ている国民たちからは悲鳴が上がっているだろう。今まで戦いの中で、苦戦がなかったわけではない。しかし、ここまで防戦一方だった事はない。
それでも、それでもだ。想定できていた。ここまでは。魔王には聖剣しか攻撃が通らないであろう事、触れたら死ぬレベルの攻撃をしてくるであろう事。
たけしが魔王との距離を詰める。それは俺とエトワールちゃんも魔王に超接近していることになるのだが、ここが一番安全なのだ。聖剣のある付近に円錐は絶対に伸びてはこない。聖剣に触れたら魔王の負けだ。
たけしが間合いに入るか、というところで、魔王は攻撃方法を変えてきた。円錐をいくつか分離し、体から切り離す。切り離された円錐は更に細かく分離され、無数の黒いクナイとなって踊り狂う。クナイといっても形状がクナイなだけで、俺達にとっては一つ一つが大剣サイズだ。完全回避を続けていたボブだったが、ところどころから血が流れている。イーギスの盾で防げるのは前方だけだ。後方からの攻撃は防ぎきれていない。リンスもMPの限界を迎えていた。最後のゴーレムがバラバラになって崩れ落ちた。魔王はたけしと距離を取り、まず、ボブとリンスを仕留めるつもりだ。
聖剣でクナイを叩き落とし続けるたけし、クナイは聖剣に触れると、石のような色になって動力を失う。本体にあたれば、魔王もこうなるはずだ。しかし切り離されたクナイに攻撃しても、本体には影響がない。ずるい攻撃だ。ずるい?
「あ」
俺は思わず声を上げてしまった。たけしとエトワールちゃんが何もいない空間を振り返る。俺がここにいるのは分かったようだ。
「集中、集中!!」
俺は二人に声をかける。慌てて二人も態勢を立て直す。声を発しても透明化は解けない。実験済みだ。そして俺は、たけしに必勝の策を伝える。
「あw」
聞いた瞬間、たけしも声を出す。エトワールちゃんは最後の力を振り絞って、最大出力の聖壁を展開する。俺達だけでなく、ボブとリンスにも。
「5秒も持ちませんっ!!」
エトワールちゃんの絶叫。5秒。十分だ。
聖壁を破壊せんと、黒い嵐が巻き起こる。
たけしが聖剣を大きく振りかぶる。
そして聖剣を魔王に投擲。黒い嵐を突き破り、一直線に飛んで行く。
「やったか?」
魔王は自身の体を変形させ、中央に穴を空ける。
その穴をすっ飛んでいくイーエックスカリヴァーン。
終わった。
なんてね。
「……夢追い、走り、転びし日の跡」
たけしの詠唱。必要ないけど。ギュンっと引っ張る動作。光の縄がきらめく。
コッという音。
ピシピシと石に変わっていく黒い立方体。魔王という役割を果たしたモノ。浮力を失ったソレは地面に落ちた瞬間に、砂の山へと変わる。
砂の山の上に聖剣イーエックスカリヴァーンが突き刺さった。
天高く拳を突きあげるたけし。抱き合って喜ぶボブとリンス。
俺も指輪を外して、姿を現す。勢いよくエトワールちゃんが抱きついてくる。俺はエトワールちゃんを抱きしめながら、撮影を続ける。
撮ったどおおおおおおおおおおおおおおおおおお。
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