この声が枯れるくらいに


「私しか知りえない事。保険に少々の未来予知も。私はそれで信じると思う」


 魔王を倒した後、まずはリンスにコンタクトを取る事にした。最大の理由はリンスが日本語に堪能だったからだ。そして当然の如く、英語にも堪能だ。この世界だからこそ、円滑なコミュニケーションが成立しているが、本来はそれぞれが母国語を話している。俺は、自身の連絡先や然るべき情報を話すリンスを水晶玉で撮影する。何度も確認し、頭に叩き込むためだ。メアドが案外短くて良かった。


 俺がリンスに状況を説明した後、リンスがボブにコンタクトを取り、リンスとボブはそれぞれの悲劇を止めるために動く。俺はリンスに連絡した後、たけしにコンタクトを取る。たけしは前の自分なら絶対信じないと笑う。


「だからさwマーサーww熱い拳で分からせてやってwww」


 まかせろ。ついでに、いじめっ子にも拳をくれてやろう。一緒にな。四日間もあるんだ、不測の事態が起きてもなんとなる。そして、20××年、×月18日を無事迎える事が出来れば、本当の意味でまたみんなで会えるはずだ。


「後は魔王を倒すだけってわけだな。やってやるぜ」


 元気を取り戻したボブ。そう、その意気だ。天雷の習得、全員生存ルートの確保、条件は整った。懸念があるとすれば、魔王がメチャンコ強い場合。そればっかりは分からないが、神に聞けば何かわかるかもしれない。他にまだ聞きたい事もあるしね。俺達は神との対話が可能になる一ヶ月後まで出来るだけの準備をすることにした。どうせならこの世界を最大限楽しみたい。最強装備揃えたりとかさ。



【たけしの装備】

 ・聖剣イーエックスカリヴァーン ✓

 ・ミスリルナイフ

 ・ミスリルチェイン

 ・勇気のマント ✓


【ボブの装備】

 ・狂戦士の斧 ✓

 ・イーギスの盾 ✓

 ・ミスリルチェイン

 ・アメフトアーマー

 ・アメフトヘルム


【リンスの装備】

 ・ケルヌンヌンの杖 ✓

 ・月影のローブ ✓

 ・妖精王の帽子

 ・めがね


【エトワールの装備】

 ・一角獣ユニコーンの杖 ✓

 ・神域の僧衣 ✓

 ・破魔のネックレス


【マーサーの装備】

 ・黒曜石の鉈

 ・ミスリルチェイン

 ・投石器スリング

 ・魔法の指輪 ✓

 ・水晶玉 ✓



 俺達は一ヶ月、レベル上げや装備収集に勤しんだ。カジノにも行った。たけしはギャンブルの才能があり、王様から支給してもらった大金をさらに増やした。おかげでこの街で買える最高級品を揃える事が出来た。✓がついているものは王様から支給された装備だ。すでに最強装備だったようだ。俺以外。


 そして旅立ちの日。俺達は神殿にいる。


「おー。みんなー久しぶりー」


 相変わらずの神。異形の姿にも慣れた。俺達は用意していた質問をする。


・世界が滅んだら魔王はどうなる?

・魔王ってそもそもなあに?強いの?

・この世界のモノってあっちに持って行ける?


「魔王も滅ぶー。パッと消えるー。わたしもー。だから頑張ってくれー」


 怖すぎる。これは絶対倒さないといけない。よくあるパターンで悪いヤツじゃなかったとしても、だ。


「魔王はー。この世界の負が収束した存在だー」


 要するにだ。魔王がこの世界の負を一手に引き受けてくれているらしい。だからこの世界には極悪人がいない。目を覆うような凄惨な悲劇もない。言うなれば平和バランス装置だ。強いかどうかは分からない。なにせ、今回が初の試みらしい。ただし。


「イーエックスカリヴァーンで触れれば機能停止するー」


 なんと。そうなると魔王戦はイベントバトルに近いものになる。そういう風に作ってあるのだ。無敵の魔王なら神すら消滅しちゃうわけだし。若干たけしの顔がこわばるが、俺とボブが背中をさする。大丈夫だ。勇者たけし。俺達がサポートする。


「こちらの世界のモノに関してはー。逆を考えてみてくれー」


 俺達がこの世界に召喚された時、服装は同じものだった。だが、スマホなどの持ち物は消えていた。移動した世界で再現可能なものなら持って行けるということだ。装備は全部ダメっぽい。現実には存在しない素材や魔法の品は持って行けないだろう。そしてタイムリミットがきた。


「以上です。必ずや魔王を倒してきます」

「まじでたのむー。あー。そうだー。お礼に……」


 対話終了。最後にお礼になんかくれるような事を言いかけていたが、貰っても元の世界に持って帰れなきゃ意味がない。グッバイ神。神殿から出た後、俺達は魔王城への最短ルートを取るために、港に向かった。船があるらしい。やや遅めの登場だ。


 道中、エトワールちゃんの元気がなかった。俺との別れが寂しいのかい?というジョークを飛ばしたら、素直に、はい。と言われ、即、謝罪した。みなさんとのです、と言い直されたけど。

 

 港に停泊している船は、質素だが、いわゆる軍船だった。大砲も何門かあり、乗組員達も屈強な海の男達という感じだ。とりわけ船長はごつい。眼帯はしてないけど。夕日が海に沈みだしたころ、船は動き出した。かなりロマンティックな光景だ。ボブとリンスはもはや人目を気にせず腕を組んで海を眺めている。たけしは船酔いで船室へ直行。俺はエトワールちゃんと並んで夕陽を見ていた。


 元の世界に戻る男が彼女に言えることは一つとして、ない。

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