中盤の山場
チーン。実際にはチーンという音はしない。俺の心の声。扉が開き、広い通路の先にまた扉が見える。通路の両脇にはガーゴイルの石像が左右に五体づつ並んでいる。いかにも動きそう。動くんだけど。塔に入ってから、何度かこれを繰り返している。俺は指輪をはめて姿を消す。撮影開始、戦闘開始だ。
ボブが
「マーサー様、王都のお城が見えますよ。ほらあそこ」
「お、ほんとだ。おうふっ」
風に流れたエトワールちゃんの金髪が俺の頬をなでる。エトワールちゃんが慌てて謝罪してくるが、いいんだ、これはご褒美なんだから。他の三人は窓に近寄ろうともしない。
「オレはちょっと高いところがな。笑ってくれていいんだぜ」
「私はトラウマね」
「もうw落ちたくないww怖いwww」
ボブは高所恐怖症。リンスは飛行機のトラウマ。たけしは飛び降りのフラバ。塔がオープンタイプだったら詰んでいた。次の扉に進む。そのフロアのガーゴイルを全て倒すと開く仕組みになっている。全員が乗り込むと閉まり、小部屋が上昇する。仕組みはまんまエレベーターだ。
「上にまいりまーす」
チーン。これを五回繰り返すと、今までとは構造の違うフロアに出た。天辺についたらしい。外壁がなく、屋上っぽい。フロアの中央に、祭壇があり、その手前に緑色のアフロヘアの亜人種のおっさん。腕を組んで俺達を見据えている。うん。こいつは間違いなく強い。
「お前らが勇者御一行きゃ?」
俺は即座に指輪をはめ、姿を消す。ボブ達も戦闘態勢だ。
「儀式やっからよ。こっちゃこい」
なんか、戦闘じゃなさそう。まだ気は抜けないが、俺達はゆっくり前へと進み出る。水晶玉で撮影を開始。
「天雷を撃つにゃあ、雲が必要でな。まずは召雲の魔法の契約だぎゃ」
緑色のアフロヘアの亜人種のおっさんが、めんどくさそうに説明する。以降、雷様と呼ぶ。雷様は、ボブより頭二つ分は大きい。怖いは怖いし、強そうではあるが、敵意は全く感じない。
「戦って習得するとか、では無い?」
「オラは神様に言われてここで説明してるだけだぁ」
それを聞いて、リンスは杖を降ろした。俺も姿を現し、挨拶する。わわっと驚く雷様。仕草がひょうきんだ。だっふんだ。
「オメぇが覚えるといんでねぇか?召雲は」
なんでも、召雲とやらは、いわゆる気力、MPの消耗が激しいらしい。戦闘要員ではない俺が覚えた方が無駄がないのではないかってこと。みんなと話し合った結果、天雷はイベント魔法だし、召雲を使う際に戦闘中であることはなさそうだ。全員一致で可決。俺もみんなの役に立ちたいし。
「んだば、ここさ手をおいてけれ」
祭壇には黒曜石でできているっぽい祭壇があり、相撲の手形のような穴がある。俺はそこに両手を置く。結構ぴったりだ。今回だけ、撮影はたけし。
「ちぃとだけ、チクっとするかもだぎゃ、がまんな」
雷様が両手を広げ、吠える。とんでもない音量の咆哮だ。俺以外は耳をふさいでいる。塔の周りに黒雲が集まり、ドーナツのようになって渦巻く。雷様が、両腕を閉じ、はあぁぁぁぁぁぁいぃぃぃぃと、俺の方に向けると、黒雲から触手の様に細い稲妻がほとばしる。バチバチバチィ!!っと俺は感電する。痛い。どこがチクっとだ。
「よっしゃ、終わりだぎゃ」
感電してコゲついた俺をエトワールちゃんが癒してくれる。はぁ、あったけぇ。これで、俺は黒雲をいつでも呼び出せるとの事。
「んで、勇者がな」
次は天雷のレクチャーだ。召喚された黒雲に勇者が手を掲げ、任意の方向に振り下ろせば発動するらしい。めちゃんこな威力らしく。ここではやめてけれと言われた。天雷の儀式完了。俺達は雷様にお礼を言う。
「これでオラも家に帰れっから。下まで送るっぺよ。おーい」
雷様が呼ぶと、筋斗雲の様な雲が、塔のすぐ外にふわふわと現れる。雷様が先に乗って、俺達もビビりながら乗る。すっごいふわふわだ。
「いぐどぉ」
俺達を乗せた雲は、ゆっくりと塔を下っていく。帰りはオープンエレベーターだ。降り始めてすぐ、たけしは失神。ボブとリンスは抱き合ってガクブルだった。雷様は俺達を下まで送ると、雲に乗って空の彼方へと飛んで行った。神の御業だ。雷様は、雷の神様だったに違いない。でも、それを見たエトワールちゃんは苦笑いしていた。
俺は記録係。黒雲を呼びし者。
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