ヤーヤーヤー
「みなさんが元の世界でお亡くなりになっていたなんて……」
夕食の後、俺達は男用バンガローに再び集まった。今回はエトワールちゃんもいる。全員集合だ。疑念を抱いたまま旅を続けるのは良くない。ここらで腹を割って話そうということになった。なんなら朝まで。
「私たちはこう考えていたの」
・元の世界で死亡。
・異世界に召喚される過程で生き返る。
・魔王を倒す。
・元の世界に戻る。
元の世界で死亡、は俺にとっては確定ではないが、リンスの意見は俺達の総意だ。エトワールちゃんは戸惑いながらも自分の考えを口にする。
「生き返る、以外は、私の考えと同じです」
「オレたちが元の世界で死んでいたとは思わなかったって意味かい?」
「そうです。それと、前にもお話ししましたが……」
この世界に復活はない。死んだら終わりであることは、前にエトワールちゃんから聞いた。死者は蘇生不可能。それがこの世界の
「じゃあさ、私たちって異世界召喚されてるわけだけど、そこは?」
「神の御業ですので」
「神の御業であれば、死者蘇生も可能?」
「それは、はかりかねます」
実際に起きた奇跡は神の御業。見たことがなければ不明。そりゃそうか。エトワールちゃんが嘘を言っているようには見えない。袋小路に入りそうだったので、俺はダメ元で聞いてみる。
「神に聞いたりできないかな?」
「そうですね。聞いてみましょう。皆さんの不安はもっともですし」
「神w親切ww」
「あ。ここでは無理です。神殿のある街であれば」
神殿にある偶像。そこに一時的に神が降臨した際に、神との対話が可能になるらしい。神であれば、全ての疑問に答えてくれるだろう。俺達が魔王を倒し、元の世界に戻る時、どういう状態なのか、それを知るまでは魔王を倒すわけにはいかない。例え生き返るのだとしても、元の世界の時間経過はどうなっているのか、停止しているのだとすれば、生き返ってすぐ死ぬハメになる。
女性陣が女性用バンガローに戻った後、俺達は元の世界の話で盛り上がった。たけしの自殺の話をまず最初に切り出した時、ボブは怒りを露わにした。数えきれないほどのファッキン!!を連呼した後、申し訳なさそうな顔をしているたけしをガッと抱きしめて泣いた。俺も少し泣いた。
「もうw死ぬ気はwwないけどねwww」
「殴りに行こうぜ。一緒に。相手が死なない程度にさ」
「いあw今の僕にはww必殺技があるwww」
「マーサー、復讐は何も生まない。だが、思い知らせる程度には賛成だ」
「ふふ。でも、この世界にきてから身につけた力って、引き継げるのかねー」
「神のみぞw知るww」
「そこも重要だな。引き継げるなら、オレはあの瞬間に戻って……」
神妙な顔をするボブ。恐らくボブの他にも被害者はいたのだろう。今の力を引き継いで元の世界に戻ることが出来れば、ボブはスーパーマンだ。失われるはずだった命も救えるだろう。ボブは自分の胸をトントンと叩いている。
「引き継げなかったとしても、今度こそ、世界から逃げたりしない」
「おー。勇者っぽいじゃん。たけし」
「鍛えてもらったから。みんなに。特にボブwww」
「オーケー。必ず生きて帰ろう。元の世界で必ず会おう」
ボブが突き出した拳にたけしと俺も拳を合わせる。本当にそれっぽくなってきた。それっぽくなってきたからには、それっぽいエンディングでなきゃダメだ。ベタベタな展開でいい。死にかける程度の苦戦はしてもいい。途中で仲たがいしたっていい。最後がハッピーエンドであればそれでいい。
明日の塔の階段は何段あるんだろうという話の途中でたけしは眠りに落ちた。しばらくの静寂が続き、ボブからリンスが気になっているという相談を受けた。少しばかり年は離れているが、お互いエリートだし、お似合いに感じる。それっぽい恋の話は絶対にあったほうがいい。リンスもボブを良く思っているはずだ。そもそも、ボブに悪印象を持つ人間なんているのだろうか。
「オレはブラックだからさ……」
「リンスがそれを聞いたら、ビンタされっぞ」
「エグザクトリー。サンキュー、マーサー」
「ドンマイだぜ、ボブ」
人種差別は確かにある。事実、根深いものだ。けれど、この異世界には人間どころか亜人種、モンスター、魔王に神。なんでもござれだ。パンクロックの歌ではないけれど、生まれたところや皮膚や目の色で、ってやつだ。しばらくするとボブの寝息が聞こえた。おやすみ、ボブ。
こうなると、エトワールちゃんをめぐる恋敵はたけしという事になるのだろうか。さえない中学生だと思っていたが、そもそも勇者様であり、最近は勇者として輝き始めている。たけしにその気はなさそうだが、エトワールちゃんにはどう映っているのか。俺はそもそも記録係だ。そこは揺るがない。悲しいけれど。撮影はする。その上で、俺が出来ることは何でもやる。
必ず、魔王を倒す瞬間を撮影してみせる。
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