たぶんそう。部分的にそう。
「……まずはこんなところ。まだまだあるけど。みんなはどう?」
シンプルかつ分かりやすい説明だった。流石は准教授。俺達はリンスの話を体育座りで聞いている。
・
・という事は、なんらかの力で飛んでいるが、飛行の魔法は無い。
・
・そもそも、異世界召喚が出来るのに瞬間移動はなぜ無いの?
・異世界にしても「あるだろう」と「ないだろう」が噛み合っていない。
ファンタジーだからと言っても
「炎や氷をぶっ放せるのに、空は飛べないんだ、と」
「そうね。異世界召喚なんて、異次元移動なわけでしょ」
「そういえばw魔王軍がwwいないねwww」
たけしは、魔王というのなら、魔王の治める国があり、魔王の軍勢がいて、幹部や四天王がいるもんなんじゃない?と思っていたようだ。確かに、ここまでの冒険で遭遇したモンスターは、この世界に生息している生物であって、魔王の手先ではない。
「オレはそういうものだと、受け入れていたな」
ボブは、そもそも異世界召喚自体がとんでもであることから、以降に起きる事に関しては疑問に思わなかった、思わないようにしていたようだ。
「オレが魔王なら、即、勇者を抹殺する。RPGのように、待ったりはしない」
ボブがたけしを見てニヤリと笑い、ワッと両肩を掴む。ひぃwとおどけるたけし。それはそう。でも、それだとゲームにならない。レベル1の勇者を容赦なく強襲してくる魔王。そんな無理ゲーは売れない。
「私はゲームとかあんまりやらないけど、そういうものなんだ?」
あのゲームはああだったこうだったと盛り上がる男性陣。それを聞いて思考の更新をしていくリンス。ファンタジー映画から、ファンタジーRPGへ。
「じゃあ、違和感はあれど、お決まりの展開ではあるのね」
「空を飛べるようになるのは終盤。船は中盤。そろそろあっておかしくない」
「そうか。船か。船があれば魔王城に行けるはずよね」
「そういうのはw大きな渦潮とかでww行けないようになってるwww」
「ぐるっと迂回すればいいんじゃない?」
「断崖絶壁で登れないパターンもあるぜ」
リンスの質問に男性陣が答える形で、議論は進んでいった。俺達にとってはベタな展開でも、リンスにすれば、なぜ?な事が多いようだ。もちろん、ゲームの中には自由度の高いものも存在する。難易度も高いことが多い。
「用意されたシナリオを順番にこなしていく。終点が魔王討伐」
「めでたくゲームクリアってわけさ。オレはそう理解してる」
ゲームクリアという言葉に反応して、俺はたけしの方を見る。たけしは俺の方を見てうなずく。そうだな。今が話す時だ。覚悟を決め……
「そしたら元の世界に戻って生き返るってわけね」
「だな。失った命を取り戻せるなら、オレはどんな茶番にだって付き合うつもりさ」
絶句。ボブとリンスも死んでたってことか?もしかして、俺も気づいていないだけで、死んでいたのか?ベリーロールで着地失敗とか?
「多分w僕の頭wwスイカみたいに割れてるwww」
「あら。私なんて飛行機墜落だから、木っ端微塵よ」
「オレは体中穴だらけだぜ?マシンガンで蜂の巣さ」
状況把握。俺以外は確実に死んでこの世界に来ている。俺も死んだかもしれない。死んでないとは思うけど。そこに確証はない。
「俺は体育の授業中に頭を打ったのかな。正直、前後の事は覚えてないな」
魔王を倒せば、元の世界には戻れる。と王様は言った。でも、生き返るとは一言も言っていない。そもそも、王様は俺達が死んでこの世界に来たことを知らないんじゃないか?俺の疑問に皆が静まり返る。
「聞いてみようよ、それで」
静寂を打ち破ったのはリンス。俺の水晶玉を指さした。そう、これはこの世界のスマホだ。王様に電凸できる。レッツゴー。
「もしもし、マーサーです」
「もしもし、王です」
「あのう、聞きたい事がありまして」
「はい。なんでしょう」
「俺達、元の世界で死んでこっちに来たんですが」
「えっ!?」
王様は知らなかった。というか、王様は何も知らなかった。異世界から召喚された勇者が魔王を倒す、という伝承があるだけで、王様としては今回が初。伝承で語り継がれているが、確たる証拠はなさそうだ。
「全ては神の啓示でして」
「王様が神と対話してってことですか?」
「いや、そこは神の巫女であるエトワールが」
「エトワールちゃんに聞けばわかる、ってことですかね?」
「たぶん……」
王様との通話が終わる。クレームの電話を入れるも解決せず、別の担当者に回されたような感じだ。通話を聞いていた皆の空気も重い。
エトワールちゃんに聞けばわかる。たぶん。
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