せんとうちゅう


 竜の首が一直線で飛んでくる。俺は体をのけぞらせて、マト〇ックス回避。そのせいで透明化は解除されたが、問題はない。戦闘は終わった。ボブの戦斧によって切断された翼竜ワイバーンの首が飛んできただけだ。衝撃の瞬間をバッチリ撮影できた。


「ソーリー!!ケガはないか?マーサー」

「ああ。大丈夫だよ。ボブこそお疲れさん」


 駆けよって来たボブとグータッチを交わす俺。ボブとのコミュニケーションのおかげで、アメリカンスタイルがサマになってきている。


「僕の必殺w亀縛りwwとれた?www」


 MVPの勇者たけし。たけしの束縛魔法がなければ、恐らく勝てなかっただろう。だって飛んでるんだもん。


「バッチリ。ていうか必要ない詠唱いれんなしw」

「ばれたかw」


 ふざけあう俺とたけしの間に入って二人の肩を抱くボブ。もうこれは学園ドラマのワンシーンである。いつもならリンスとエトワールちゃんもやってくるはずだが、来ない。倒れた翼竜ワイバーンの翼を、強引にリンスが持ち上げようとしていて、エトワールちゃんが不安そうに見ている。


「むぎぎぎぎ」

「リンス様、危ないです」


 なんだ?リンスは翼竜ワイバーンの翼が欲しいのか?戦闘中もリンスは様子がおかしかった。空を飛ぶモンスターと戦うのは初めてだが、翼竜ワイバーンの襲来にとても驚いていた。俺もビビったけど。リンスの驚きは質の違う驚きに見えた。


 危なっかしいリンスの行動に、慌ててボブが補助に向かう。慎重に翼竜ワイバーンの翼を持ち上げるボブ。ジムのトレーナーのようだ。


「リンス、どうしたんだ?翼竜ワイバーンリフティングでもやろうってのかい?」

「ああ、ごめんなさい。ちょっとした実験。ねえボブ、聞いて……」


 無事脱出したリンスはボブと話し込んでいる。エトワールちゃんは安心したのか、こちらに来て、俺に怪我がないかと優しく聞いてくれた。腰が痛い痛いなのだ、と甘えようとしたが、神の奇跡をこんなことに使ったらバチがあたる。


「ありがとう。大丈夫だよ(今は。夜に腰が痛くなるかもしれないけどね)」

「良かったです。それよりリンスさん、どうしたんでしょう?」

「んー、なんか戦闘中もおかしかったよな」

「女にはw調子の悪い日がww月に一度あるwww」


 たけしの軽口に、顔を真っ赤にしてうつむくエトワールちゃん。俺がたけしに肩パンすると、たけしはサーセンとエトワールちゃんに謝った。たけしも随分素直になったものだ。いや違う。素直な良い子だったのだ。それを捻じれさせた環境があったというだけの事。話が終わったのか、ボブとリンスがやって来た。


「ねえ、エトワール、飛行系の魔法ってないの?」

「空を飛ぶ魔法ですか?それはもはや神の御業です」


 唐突なリンスの問いに、「空を飛ぶなんてとんでもないです!!」という顔で答えるエトワールちゃん。翼竜ワイバーンの襲来で、飛行系モンスターとの戦いに備えなければ、とリンスは思ったのだろうか?


「そっか、そうなんだ」


 リンスはあっさりと引き下がった。ボブの顔が珍しく神妙だ。俺と目が合うと、意味ありげにうなずいて見せた。なるほど、さっぱりわからん。今夜にでもその真意を聞いてみよう。


 翼竜ワイバーンと戦った丘を下ると、小さい村が見えてきた。そしてその先には天空まで届くのではないかという高さの塔。エトワールちゃんによると、あの塔で天雷の魔法を習得できるらしい。ザ・中盤の山場感がはんぱない。



 小さな村の人々も俺達を歓迎してくれた。勇者御一行の知名度はすさまじい。どんな田舎でもN〇Kは視聴されているということだ。そう思うと、記録係という役割は大事なものだと思えてきた。村に宿屋はなかったが、男女に一つづつ、小屋というには立派なバンガローを提供してもらった。ありがたい。更にありがたいことに、この村には温泉があるそうだ。


「私とエトワールが先に入るね。上がったら声をかけに行くから」


 混浴の夢は儚く散った。すごすごとバンガローに引っ込む。たけしはベッドにダイブし、キャッキャッしている。ボブもたけしに投げられた枕をキャッチし、アメフトの動きを披露している。この修学旅行っぽいノリは嫌いじゃない。撮影しておこう。いつもの癖で、指輪をはめようとして、やめる。今は消える必要がない。戦闘中ではないからね……。

 

 いやまてよ?銭湯中だ。俺はボブとたけしに散歩に行ってくると告げた。


「のぞきっすかw」

「たけし、マーサーはそんな非道なやつじゃないさ」

「そういうのは卒業してる」


 フフッと不敵に笑ってバンガローを出る。クールに答えはしたが、脇汗がひどい。そして俺の姿は消え去った。歩く程度であれば透明化は解除されない。湯気が立ち上る方向へ、光差す方へ。


 エトワールちゃんのおっぱいが見たい。

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