魔王を倒せばオールオッケー?


 街道を進む俺達。昨日、エトワールちゃんの話を聞いたせいか、心がざわつく。ボブとリンスは通常運転だ。しかし、動揺していないはずがない。大人の立ち振る舞いなんだろう。たけしにも話さなければならない。気が重いが、早めに伝えておかなければとは思う。前方に街が見えてきた。かなり大きい。エトワールちゃんによると、国で二番目の商業都市らしい。あわただしく出発したせいで、この世界の文化には全く触れられていない。良い機会だから、ここにしばらく滞在しようと提案すると、皆、賛同してくれた。


 街の入口には重装備の門番が数名いた。エトワールちゃんに顔を向けると、大丈夫ですよ、とのこと。通行証とかを持っているのかな。門番に向かってボブがフレンドリーに挨拶をする。


「ハロー。街に入りたいんだけど、手続きとかは……」

「せ、戦士ボブだ!!すげえ、実物もカッコいい!!」


 芸能人を見た時のリアクションをする門番。ボブだけでなく、リンス、たけし、エトワールちゃんにも同じ反応をし、握手を求めたりしている。俺のところには誰も来ない。指輪をはめて消えたくなったが、シーンとしては重要だ。水晶玉で撮影を開始する。後でエトワールちゃんに聞くと、俺が撮影した映像は、リアルタイムで王様に送られているらしい。そして、王様は勇者御一行の活躍を人々に放送しているそうだ。ヴィぃとなってるたけしの顔は放送されていたのだろうか。


 俺達は大歓声で街の人々に迎え入れられた。救国の英雄達だもの。俺以外。水晶玉を通してみる勇者御一行はキラキラしている。たけしでさえも。羨ましくないと言ったら嘘になるが、命懸けで戦う彼らと、安全圏で撮影しているだけの自分を同列には置けない。勇者たけしが魔王を倒すシーンを撮影するのは癪だが、たけしが死ぬシーンを撮影するよりは随分マシだと思える。誰も死なずにこの冒険を終わらせることが一番大事だ。それだけは揺るぎない意志として持っておきたい。脇役だけど。


 街で一番大きい宿屋に入り、皆で昼食を食べた後、自由時間ということになった。ボブとリンスはより良い装備を求めてショッピングに、エトワールちゃんは神殿に顔を出すと言って一人で行ってしまった。部屋に残ったのは俺とたけし。微妙な空気が流れている。そういえば、たけしとはまともに会話した記憶がない。これは例の件を伝えるチャンスだ。取り乱して泣きわめいても大丈夫だ。俺しかいない。


「なあ、たけし、話があるんだけど」

「なんすかw急にww」


 俺の緊張感が伝わったのか、たけしも神妙な面持ち。回りくどく説明するのはやめよう。直球どストレートで放つ。


「エトワールちゃんに聞いたんだけど、この世界、復活とか蘇生とか無いんだって」

「そうなんだw」


 あれ?動揺してないな。いや、動揺していないのがイカスと……。


「死んだらまたどっかに飛ぶだけっしょw」

「は?待て待て、それはどういう意味?」

「元の世界で死んだからwこっちに来たわけでwww」


 待て。待て待て。ちょっと待って。たけしは元の世界で死んだのか?俺は絶対に死んでない。高跳びをベリーロールで飛んだらこの世界に来たんだ。高跳びの際、下にクッションはあった。死にようがない。


「俺は死んでないんだけど」

「あwそうなんだwwじゃあ俺だけかもねwwwはじめて話したしwwww」


 魔王を倒せば元の世界に帰れる。王様は確かにそう言った。でも、たけしは死んでこっちに来たという。その場合、死体が元の世界に出現するのか?それとも生き返るのか?いや、今生きてるし、生き返るのはおかしい。なんか色々おかしい。いや、もっと気になる事がある。たけしは元の世界でなぜ死んだのかだ。


「あのさ、言いたくなかったらいいんだけど、なんで死んだの?」

「イジメ。ダルくなって自殺した」


 俺はその回答を予想できていた。出来れば、そうでない死に方であればと願ってもいた。言葉が出ない。沈黙する俺。沈黙を破ったのは勇者たけし。


「だからさw魔王倒したらさww僕を殺してって頼むつもりだったwww」


 なぜ、とは聞けない。死んでまで逃げ出したかった世界に戻りたいはずがない。ただ、もう一度、異世界に飛べる保証はない。魔王を倒せばオールオッケーではない。それだけではエンディングを迎えるだけだろう。このたけしとの会話が真エンディングを迎えるためのフラグだと信じたい。


「たけし、いいかよく聞いてくれ」

「なんすかw」


 俺はたけしに今日の事を、しばらく二人だけの秘密にしておくように頼んだ。たけしは納得はしてくれなかったが、了承はしてくれた。その後のとりとめのない会話で、俺とたけしは割と近いところに住んでいたことが判明。地元のゲーセンの話で盛り上がった。


 帰ったら一緒に行こうぜ、という言葉を、今は飲み込んだ。

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