第16話 熱が去る(1)
しかも、その
デリカシーのカケラもない脱ぎかただった。
もちろんわたしは
そうしたら、この丹羽柚子は
「うーん。脚も気もち悪い」
と言って、肌着を残して下半分も脱いでしまい、バスタオルでごしごしと脚をこすって汗を拭き始めた!
なんだか……。
……極端すぎないか?
恥ずかしがりかたと、脱ぐときの大胆さとの振れ幅が。
それで、柚子がもとの薄手のパジャマ姿に戻ったところに、柚子のお母さんが、わたしの持って来たケーキを切り、お茶といっしょに持って来てくれた。
たいへん良いタイミングだったので、わたしは胸をなで下ろした。
娘が肌着だけの姿になり、バレエでもしているように脚を大きく上げてタオルでごしごししているところなんか見たら、母上はどう思われたことだろう?
二人で、床の
柚子は、ここまではずしていた、細い銀フレームの眼鏡もかけた。
いつもの柚子っぽさに戻って来た。
その柚子が言う。
「そういえば、祭りのあいだ、お湯が沸騰してたいへんだったんだって?」
いちおう、経過はその日のうちにSNSのメッセージで柚子に報告しておいたけど。
「でも、まあ」
と、わたしはすがすがしい気もちで、言う。
「あれのおかげで、二年生のこともちょっとよくわかったし、あの
言って、ふう、と息をつく。
「とくに、猪俣沙加恵が変人だってことがわかっただけでも、収穫」
あの程度で変人と言っていいのかどうかは知らないが。
特別進学コース「GS」の生徒が顔も見たくないくらいに恐れる
「わたしのところにはさ」
丹羽柚子が床に目を落とす。
さっきからずっと見せてなかった表情だ。
寂しそう、というのだろうか。
「
そう言えば、この子のことを忘れていた。
マーチングバンド部からあいさつに来て、わたし以外の委員から空気以下の扱いをされ、無視されていた。
わたしが
「どうもこうもないよ」
とパリパリに乾いた雑巾のように乾いたことばをそっけなく返した。
たぶん、わたし自身にも、「空気よりちょっと濃い」ぐらいの印象しか残さなかった。
少なくとも、そのあとに現れた猪俣沙加恵や
もともと、恒子よりもこの丹羽柚子と仲がよかったはずの朱理。
「で」
とわたしが柚子に聞く。
「朱理、なんて?」
「熱が冷めた、って」
「何それ?」
「だからさ」
柚子は、やつぱり具体的に言いたくないらしい。
「熱が冷めた、って」
具体的に言わなくてもわかる。
朱理が向坂恒子に向けていた「熱」が冷めたのだ。
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