第13話 さあ花火を楽しもう

 あの「たこ焼き処分問題」のとき、生徒会では、箕部みのべしろまつりでのマーチングの映像を繰り返し繰り返し見た。

 城まつり公式サイトで全世界に発信された映像だ。

 出発直後から崩壊していくチアリーダーの演技、揃わない足並み、しろうとが聴いてもずれているとわかる太鼓のリズム、そして、マーチングが止まったところで大あくびをして、指揮用のバトンで肩を叩いている指揮者!

 指揮者は色白で唇がピンクの美人だけに、よけいに目立った。

 それが、かつてのあこがれの生徒会役員、向坂恒子。

 そして、最後は、マーチングがゴールまで行ききらなくて道のまんなかで曲が終わってしまい、全員がそこからゴールに向けて走るという、情けない幕切れだった。

 「惨憺さんたんたる」と表現するしかない。

 それにあのたこ焼き事件が重なって、全世界から、非難と、罵倒と、おもしろがりと、同情と、ごく少数の心配のメッセージが寄せられたわけだが。

 でも、それは、まだ、地元から少し離れた箕部という街でのできごとだった。

 今日は泉ヶ原いずみがはらだから、地元中の地元だ。

 またあんなことをやったら、マーチングバンド部のメンバーだけではない、瑞城ずいじょう生は、少なくとも瑞城高校生は恥ずかしくて街を歩けなくなってしまう。

 しかし、宮下みやした朱理あかりが言ったとおりだった。

 音が低い大太鼓はやっぱり何かリズムが合っていない感じだが、小太鼓はきりっとしたリズムを叩き出していた。何より、管楽器の音が、元気よく、ふくよかに、豊かに響いている。

 選抜チーム、というより、やる気のある生徒だけの演奏だったので、クオリティーの高さを維持できたのだろう。

 マーチングが近づいてきたところで、明珠めいしゅじょのメンバーは模擬店を空けてマーチングを見に出て行った。

 瑞城生の古藤ことう美里みりが残っておとなしく留守番している。

 それからまもなく、マーチングは終わった。

 「演奏とマーチングは瑞城女子高等学校マーチングバンド「フライングバーズ」のみなさんでした」

とさっきの女の人がアナウンスを流す。

 「今年もすばらしい演奏でした。フライングバーズのみなさんに大きな拍手を」

 またまばらな拍手が聞こえる。さっきよりは大きかったようだが、ほんとうにそうだったかはやっぱりわからない。

 ちなみに、模擬店内では、わたしも含めてだれも拍手はしなかった。

 明珠女の照井てるいみそらと二人の小さい女子が戻って来た。

 「いやぁ、やっぱり瑞城のマーチングバンドはすごいですね!」

と「興奮冷めやらぬ」という口吻こうふんで 照井みそらはわたしに声をかけた。

 わたしはスマイルしただけだった。みそらは模擬店の椅子に戻る。

 そのあと、女の人のアナウンスで

「それでは、ご唱和ください。十、九、八、七、六、五、四、三、二」

とカウントダウンの声が流れる。

 「一」から、十秒ぐらいが経って、みんなが「あれ?」と思い始めたであろう時間になって、白い照明で照らされていた模擬店の前の道がパッと赤とか橙とかに輝く。

 それから、さらにしばらくして、どーん、という音と衝撃が伝わって来た。

 花火の打ち上げが始まったのだ。

 もうマーチングとか沸騰してもスイッチの切れないポットとかの心配なく、花火大会を楽しむことができる。

 わたしにとっては、高校生活最後、たぶんこの街で過ごす最後の花火大会だ。

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