第11話 わたし、明珠女の生徒と仲良くなったんだけど

 二つの模擬店がなんとなくつながってしまったので、わたしと照井てるいみそらがいっしょに両方の模擬店の指揮をとるという流れになった。

 照井みそらは「きょおんな」という印象だったが、すぐ横に並んでみると、それほど大きいわけではなかった。

 太っているわけではない。小太り体型という点ではさっきの猪俣いのまた沙加恵さかえのほうがずっと小太り体型だ。背の高さもみそらよりわたしのほうが上だとわかった。

 では、なぜ「大きい」という印象なのか?

 まず、一つ思いつくのは、瑞城ずいじょう生の古藤ことう美里みりも含めて明珠めいしゅじょブースの女子たちがみんな小柄だから、という理由だ。

 明珠女の模擬店には、照井みそらと古藤美里以外に明珠女生が二人いた。その二人とも小柄で、かなりの痩せ体型だ。古藤美里はそこまで痩せ体型ではないけど、やっぱり平均より小柄だ。だから照井みそらが大きいという印象になるのだろう。

 それと、もう一つは、照井みそらは、肩幅があって、がっちりした印象の体つきだからだと思う。

 体育会系が似合いそうなので、

「体育系の部活、やる気はなかったの?」

ときくと

「女子野球、やってみたかったんですよね。だから、女子野球部のある協誠きょうせいと明珠女と、どっちも受かったんですが、いろいろ考えて、やっぱり明珠女ということにして」

と照井みそらは言って笑った。

 協誠女子は県央のやや西のほうにある学校で、スパルタンな体育系の学校、というイメージだ。偏差値は瑞城よりさらに低い。

 協誠には悪いけど、協誠で全国レベルに行ける部活に入って全国大会に行くために懸命にやる、という強い情熱がなければ、両方受かれば明珠女に来るだろう。

 ちなみに。

 マーチングバンドとはちょっと違うけれど、協誠の吹奏楽部は有名で、コンクールで県大会は確実に金賞、全国に行けたり行けなかったり、というボーダーラインにいる。

 だから、うちのマーチングバンド部も、内紛とかやってると協誠に抜かれる。

 たぶん、もう抜かれているだろう。

 ほんと、恒子つねこ朱理あかりも、何をやってるんだか。

 そんなことをみそらに言ってもしかたないので、

「で、天文部のマネージャーって、何をやるの?」

ときいてみる。

 「あ」

と振り向くみそらの顔が顔があどけない。

 「天文部って、天体現象に合わせて観測の予定立てないといけないですし。「その日都合悪いから日食が起こるの待って」とか無理ですからね。だからこっちの予定を調整して。機材持って遠征とかもするし、ほかの学校とか大学とか天文台とかと予定調整しないといけないこともあるので、そういうのの調整とか管理とかです」

と説明してくれた。

 なんだか……。

 ……しっかりしてるな、明珠女の部活って。

 それと、驚いたのは、この、落ち着いて模擬店の指揮をとっている照井みそらがまだ二年生だということだ。

 まだ二年生の前半、一学期を終わっただけ。

 明珠女は、進学校だけあって、三年になったら勉強に集中するために生徒会とか部とかの役職から引退するという。だから、部にしても、生徒会活動にしても、中心になるのは二年生ということだ。

 この照井みそらも、そこらへんにいる瑞城の二年、つまり、小塚こつか麻美子まみことか伊藤いとう愛乃あいのとか菅野すげの貴以子きいことか加勢かぜ美則みのりとか杭瀬くいせいくとかより、ずっと大人びた「頼れる女」の感じだ。

 瑞城側のこの子らのなかでいちばんしっかりしているのは小塚麻美子だろうけど、それでもこの照井みそらのように落ち着き払って生徒活動の指揮はとれない。

 とれないだろうと思う。

 とれないんじゃないかな。

 もしかしてもしかすると、とれるかも知れないけど。

 ところで、こうやって、わたしは明珠女の生徒と仲良くなってしまったわけだが。

 いま小塚麻美子とおしゃべりしているかわいらしい伊藤愛乃、少女らしい輝きがまぶしい伊藤愛乃が、瑞城の生徒と明珠女の生徒が仲良くなるのを監視して断罪する委員会の委員なら、わたしは相当に危ないな、と思った。

 もしそうだとしたら、かわいらしい、小さい、少女っぽい伊藤愛乃。

 わたしに、どんな罰を与えるのだろう?

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