第10話 照井みそらの提案
電源のON/OFFは
それだけではなかった。
「あの、うち、明珠女の大学の農場で穫れたオレンジを搾ってジュースにしてるんですが」
それを搾るために
つまり、機械を使わず、手動で絞っているらしい。
「よかったら、薄まってしまったアイスティーにオレンジジュースを入れて、オレンジティーとかやってみません?」
とその照井みそらが提案する。
「いちおう、こっちのオレンジ、完全オーガニックですけど?」
とつけ加える。
「完全オーガニック」に「いちおう」があるのかどうか、というと、謙遜のために「いちおう」をつけたのだろう。化学肥料も農薬も使っていない、ということだと思う。
まあ、明珠女には大学もあって、そこの農場だからね。
その提案に、模擬店にいた全員、
わたしは逃げを打つことにした。
「わたしは賛成だけど、わたし、いま役職離れてるから、書記補の判断は?」
書記補というと、普通科の小塚麻美子と特別進学コース「GS」の伊藤愛乃と地域科の菅野貴以子だけど。
三人で目線をかわし、うん、とうなずいて、小塚麻美子が代表して
「賛成です」
と言う。
そんな流れで、明珠女と瑞城女子のコラボが、今年の春の泉ヶ原ミュージックフェスティバルにつづいて実現することになった。
模擬店に使っているテントは商店街の花火大会実行委員会が設置したものなので、かってに模擬店間の仕切りを取り外すことは出来なかったが、店の前のほうは行き来できるようにして、机をくっつけた。
瑞城の紅茶と明珠女が搾っているオレンジジュースを合わせて、その照井みそらが言うオレンジ紅茶を作ってみた。
氷で冷やすと案外おいしい。
「黒タピオカとか入れるともっといいかも」
と照井みそらは言う。
たしかに、そう思うけど。
「タピオカなんかあるの?」
「ないですけど」
照井みそらは笑った。
「そこの角のスーパーで黒こんにゃく買ってきて、切って入れれば」
「いや、それはダメだろ」
「ですよね」
というわけで、タピオカのかわりに黒こんにゃくを入れるのは中止になったが。
オレンジ紅茶自体は売ってもよさそうだということになり、明珠女の模擬店のいちばん端で売ることにした。
オレンジ紅茶の売り上げは、難しいことをいわずに、明珠女と瑞城で折半、と決めた。
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