第8話 「都市伝説」と伊藤愛乃の存在意義
「いまここで、は絶対に無理だと思う」
あの軽蔑したような言いかたではなくて、
「だから、コンセントからプラグを抜くしかないね」
「いや、それが」
わたしがそう言って気弱に笑って見せたところを、GS選出書記補で体の小さな
「プラグ、そっちの隣のブースで」
「うん?」
と、猪俣沙加恵は、ちらっ、と隣の模擬店を見る。
そこでは、あの無愛想で体の大きい生徒が、体重を載せて何かの仕掛けを押しているところだった。
「
やっぱり猪俣沙加恵にも一発でわかったらしい。
その進学校の優等生に「プラグを抜かせてください」と言うのがとても困難だ、ということが。
しかし、猪俣沙加恵は、そこで「びしっ!」と伊藤愛乃を指さした。
……人を指さすとか、失礼なやつだな……。
「愛乃、あんた、寮生で生徒会役員ってことは、不純学校間交遊調査委員会の委員なんだよね?}
はい?
何それ?
いや。
寮生というのは、「
そして、瑞城にいる以上、「明珠女の生徒と瑞城の生徒がおつきあいするのを調査して厳罰に処する秘密組織があるらしい」という話、話というより噂、噂というより「都市伝説」は聞いたことがあるが。
その不純なんとかいうのが、それのことなんだろうけど。
そんなものは実在しない。しないはずだ。
だって、
ところが、そんな「言いがかり」をつけられた伊藤愛乃が、こくっ、とうなずいている。
「じゃあ、その人脈使って、なんとかしなさい」
「えーっ?」
愛乃は難題を押しつけられていやそうな顔をした。猪俣沙加恵はかまわずに重ねて言う。
「それが伊藤愛乃の存在意義でしょ? じゃ」
「じゃ」と言って、猪俣沙加恵が手を振った相手はわたしらしいので。
わたしが
「うん。ありがと」
と答えると、猪俣沙加恵はひとつうなずいてクールな顔をして行ってしまった。
やっぱり小太り体型だなぁ、ということは、どうでもいいとして。
さて。
困り果てているはずの伊藤愛乃をどうフォローするか、だが。
その伊藤愛乃は意外と涼しい顔でスマホでだれかに電話しているので。
とりあえず、
「あんたって、あの猪俣沙加恵とどういう関係?」
「ああ」
と、猪俣沙加恵よりもずっとスレンダーな菅野貴以子は答えた。
とても平気に。
「うちが居酒屋で、沙加恵先輩の家が造り酒屋で、先輩の家で作ったお酒をうちが買ってる、ってことが判明しまして、ですね。いまでは家族ぐるみのつき合い、ってことで」
……そういうことか。
居酒屋の子だから、この子、接客スキルが高いのか。
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