第30話 分岐道 その運命って俺の設定のせい?
「ちょーしにのってんな!!
天より降ってきた言葉と共に、一振りの剣が振り下ろされた。
『ルシア』が俺を手放し一歩引くと、まさにその合間を刃が通り過ぎた。
勢いよく振り下ろされた剣が道に叩きつけられる。
その威力によりえぐられ粉々に砕けた道の素材が埃となり舞い上がる。
あまりの威力に動けなくなった俺の前で埃が晴れていく。
そこには見知った鋭い瞳が有った。
間違いない。
よく見る厳しい表情。
それは『碧水』のルシアの
「全く戻りが遅いと思ったらこんなとこで道草食っていたの?」
剣を肩に乗せながら呆れたような口調で語りかけてくる。
「あ、ああっと……。」
俺はそれに対し、驚きながらも間の抜けた声を返した。
「?」
その反応の意味が分からないのか、ルシアが戦闘中だと言うのに不思議そうな顔をする。
本人は気がついていないんだろうか……。
「いや、助けに来てくれたのはありがたいんだけど、……その格好はどうなんだよ……。」
俺はボソボソと返すのが精一杯だった。
後半は笑うのを止めるのに必死だったから。
兼を構えたルシアの格好。
確かに剣を構え方と表情は凛々しさが溢れている。
だが問題はその服装だ。
眼の前にいた『ルシア』がしっかりとしたスーツを着こなしているのに対し、こちらの『ルシア』はダボダボの男物のスーツを着ているのだから。
それでいくらキメていても反応に困る。
「あー、なんでそんな体に合ってないスーツ着てるんだ?」
俺は笑いをこらえながら、当たり障りのない言葉を選びつつ問いかけた。
「……仕方ないじゃない。」
急にふてくされた様な回答。
あ、この反応は認識はしていたんだ……。
「『道』に来る際には直近で着ていた服装のイメージが反映されるんだがから。」
ブツブツと答える『ルシア』。
「君が悪いんだからね! 時間になってもこんなところでフラフラしているから気になって迎えに来ることになったんだから!」
唐突にキレる
「べ、別に俺だって好きでこんなところにいる訳じゃないんだから!」
売り言葉に買い言葉。
思わず俺も言い返す。
「大体、君だって人のこと言えないじゃない!」
ん? 人のことが言えない??
その言葉に俺は自分の姿を見るために下を向く。
「うげげげげッ!!!!!」
自分の姿に思わず叫んでしまった。
イヤ、全裸でいるよりはまだマシかも知れないがこれは……
「そんな丈あってないつんつるてんな寝間着で出歩いて、気がつかないなんてどうかと思うわね。」
やや辛辣な言葉がとぶ。
正直言い返せないのだが、なんかムカつく。
「き、緊急事態が続きていたから服装を黄にする余裕がなかったんだよ! 大体、『
「緊急事態って何よ! あんな奴に鼻の下伸ばしているのが緊急だっていうの!!」
ああもう、こんなことしている場合じゃないって分かるんだけど、なんか言い返さないと気がすまない。
「俺が作った設定なのに、何で俺に楯突くんだよ!」
思わず口から出てしまった。
言った瞬間に自分でも失言だと分かるレベルの暴言。
オレの中で頭に登っていた血が一気に下がっていく思いだった。
恐る恐る俺は『ルシア』の方を見る。
そこにあったのは、俺の知らない驚いた顔。
そして、次第に涙が滲んでくる瞳を下に向ける。
「……、そう思っていたんだ……。」
小さく震えた、けどしっかりとした声が響く。
何か言おうとするが、全てが言い訳になりそうで口にできなかった。
「……いい加減、私を置いて痴話喧嘩は止めてくれる?」
退屈そうなあくびとともにもう一人の『ルシア』が声をかけてくる。
そう言いながら意地の悪い笑みを俺たちに向けてきた。
「退屈なメロドラマ見に来た訳じゃないんだけどお。」
完全に蚊帳の外だったことが気に食わなかったのだろう。
明らかな挑発の言葉をぶつけてくる。
普段のルシアなら、こんなわかりやすい煽りを無視するだろう。
しかし今は違った。
「お前に! 何が分かるってのよ白面!!」
叫びながらルシアが突っ込んでいく。
突進するルシアが輝き、次の瞬間にはいつもの黒を貴重とした辺獄での衣装へと変わっていた。
そのまま、上段に振りかぶるともう一人の『ルシア』を斬りつける。
しかし、その斬撃は余裕な足取りでかわされる。
「無駄無駄、私とあなたは同じ魂よ。 剣王の力を借りでもしなければ倒せないわよ。」
クスクスと笑う『ルシア』。
同じ魂!
俺はその言葉で思い出した。
『
『碧水のルシア』が灰被りの本質を継承したのであれば、『白面のルシア』はその生き様を受け継ぐ存在。
故に碧水は神の娘の眷属という魂の本質を持っており、白面は魔王に侵食された魂という
もっとも、俺的にはピカレスク色の強い世界やシナリオにルシアを登場させるために作った設定だったのだけど……。
ともかく、俺としては碧水のルシアの方がオリジナルだから、こちらをルシア。
もう一方を白面と呼ぶことにする。
「どうしたの? いつもの技のキレが無いじゃない?」
楽しそうに笑いながら白面がルシアの攻撃を避ける。
「うるさい! うるさい!! うるさーい!!!」
それでもなおがむしゃらに剣を振り回し続けるルシア。
一撃一撃が必殺となり得る威力で振るわれる斬撃たが、白面は余裕の表情でかわしていく。
そしてよく見ると白面の方の容姿が変化していっていることに気が付いた。
ルシアとうり二つの顔立ちは変わらないが、髪が黒から
言うなれば『神の娘』状態のルシアに、容貌が似てきた。
「同じ
白面が俺に語りかける。
それだけの余裕を見せている訳か……。
そう考えているうちに白面は大きく後ろへ飛び退く。
「さて、こっちからも反撃と行きますか。」
そう言うと同時に周囲に屈強な男の姿が現れる。
皆、ガッチリした体格をスーツで包み目元はサングラスで隠している。
いかにもヤクザかマフィアと言った風情。
「ルシア、
俺はとっさにルシアに叫んでいた。
『魔王の堕とし児』。
それは白面の体内に残る魔王の因子を強制的に外部へと顕現させた存在だ。
とある世界では、白面はこの堕とし児を使って小規模ながら裏社会に一勢力を築いている。
総数は10体にも満たないが、下手すれば小国に匹敵する戦力だ。
「分かってる!」
たが、俺の忠告をルシアは無視した。
意固地になっている場合かと叫びそうになる自分を慌てて制止する。
元はと言えば俺の失言が原因だ。
下手な事を言えば関係の修復は不可能になる。
だけど、なんとかしないとルシアは……。
なまじ双方の戦力を把握しているだけに、結果が手に取るように分かる。
堕とし児1体ごとの能力はルシアには及ばない。
だけど奴らは連携攻撃が可能なのだ。
高い能力を数で覆す。
その結果が俺には視えていた。
もし、ルシアにチャンスが有るのなら、奴らの連携が途切れた時だろう。
だけど、どうすればいい?
俺が悩んでいる間に両者の緊張が高まっていく。
「はぁぁっ!」
始めに仕掛けたのはルシアだった。
一気に駆け距離を縮める。
それに堕とし児が反応すると、ルシアは高く飛び上がる。
続けて堕とし児飛び上がると、常人ではありえない空中での高速移動しながらの戦闘に入った。
互いに空中の何もない空間を蹴り加速しながら、対象へ迫る。
ルシアが1体に狙いを定めさらに加速する。
大きく振りかぶりながらも超高速で迫るルシアに堕とし児はついていけず、振り向くのが精一杯だった。
獲った!
俺がそう思った瞬間、吹き飛んだのはルシアの方だった。
そして、それまでルシアがいた空間には白面が占有している。
まさにルシアが攻撃を仕掛ける瞬間、それまで傍観に徹していた白面がルシアに勝るとも劣らない速度で仕掛けたのだ。
意識が堕とし児に向いていたルシアはその一撃をまともに受けて吹き飛んだのだ。
ルシアが激しく追突した場所はヒビ割れ陥没し、よく分からない物質で作られた道の基礎部分が見える。
次の攻撃が来る!
俺はそれを視ることしか出来ない。
しかし、ルシアはとっさに立ち上がるとかろうじて避けた。
さらに無理な体勢から剣を横薙ぎに振るう。
堕とし児を斬ることは出来なかったが、直撃を受けた堕とし児はバランスを失いそのまま、道の外へ堕ちていった。
「あ~あ、ここから落ちたら回収不可能なのに、私の一部なのよ?」
空中でそれをつまらないものを見るように眺めていた白面が口を開く。
「いいじゃない、魔王の因子の一部が消えたと思えば。」
「それも、そうね!」
負けじと返すルシアに、突如白面が急降下する。
とっさに避けようとするルシアが、一瞬後ろを確認する。
ルシアの後方。
そこには俺が立っている。
「くっ!」
とっさにルシアは剣を自分の前に横に構え、左手で刀身を支える。
このまま、白面の蹴りを受け止めようとしているのか?
避ければ俺に被害が有るかもと考えて?
俺はとっとと安全圏に避難しなかった自分を呪ったが、時すでに遅い。
右足を後ろに引き剣を掲げるルシアと白面の蹴りが交差するのだった。
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