第31話 道先 いつか交差する運命なんだよ!

 生身の人が蹴ったとは思えない轟音と粉塵が舞い上がる。

 その煙を突き抜け滑り出てくる存在が有った。

 俺はそれを見ると同時にそちらへ走り出した。

「ルシア!」

 叫びながら俺は彼女の元へと走り寄る。

 全身に擦り傷を負っているようだが、命に別状は無さそうだ(俺が目視した限り)。

 ともかく起こそうとしゃがみ込んだ時、真横に誰かが着地する気配。

 分かってはいるが、そちらを向く。

 そこには白面が無表情のままこちらを見下ろしている。

「借り物の剣程度じゃ私に、対抗できないわよ?」

 静かに語る白面だが、次の瞬間に憎悪に満ちた目を俺に向ける。

「結局、あなたにとっての『ルシア』は、そっちなのね……。」

 そう言う瞳の奥には何かが揺れている。

 もしかして……。

 俺の視線を感じだったかのように、白面は顔を背ける。

「全身武器なあんたに言われる筋合いはないわ……。」

 苦しそうな息づかいと共にルシアの声が耳を打つ。

 慌ててそちらへ顔を向けると、ルシアが自力で上半身を起こしていた。

「所詮、『千に一つの剣王サウザンド・ワン』も原基オリジナルからの借り物なんだから、あんたが戦う必要ないわね。」

 静かに冷たい言葉を白面が吐く。

「それでも、わたしはっ!」

 そう叫んだルシアがどこからともなく新しい剣を取り出す。

「いくら召喚とりだしても所詮借り物、結果は同じね。」

 再び浮き上がる白面を囲むように堕とし児たちも空中に停止する。

「このっ!」

 ルシアが白面へ飛びかかる。

 しかしルシアの直線的な軌道はあっさりと白面に見切られる。

 その場を少し移動しただけで、難なく避けられてしまう。

 ルシアには空中で細かく動きを変える術はないが、ふと見るとルシアは左手を大きく振るうのが見えた。

 その動きに合わせて何かが宙を舞う。

 次の瞬間、近くにいた堕とし児の1体がバランスを崩し、ルシアの軌道もそちらへ変更されていた。

 そうか鋼線か!

 俺は心の中で叫ぶ。

 ルシアはとっさに鋼線を投げ手近な堕とし児に絡ませたのだ。

 そして、その堕とし児が体勢を直そうとする反動を利用して軌道を変えたのだ。

 そのまま堕とし児を切り捨てるのではなく、ルシアはその胸を蹴りつける。

 反動で反対側へと高速で跳ぶルシア。

 目の前には白面。

 今度こそ避ける間はない。

 勢いよく振り下ろされる剣。

 だが、その剣も白面の腕で簡単に砕かれる。

 しかし、ルシアも予想していたのだろう。

 剣の柄を投げ捨てると身体を反転させ、白面を蹴りつける。

 さすがに白面も予想していなかったのか蹴りをまともに受ける。

 そのまま勢いをつけ、上昇するルシアがまた新しい剣を取り出す。

 今度の物はそれまでに比べ、刀身と柄が一体となった古い作りの剣だ。

「古龍王の剣か! だがいくら曰く付きでも、借り物ではねっ!」

 白面がルシアを追い急上昇する。

 その姿をチラッと確認したルシアの左手が僅かに動く。

 それに沿って何か、イヤ、鋼線が煌めく。

 しかし、それを白面は予想していた。

 素早く左手を上げると中空で何かを掴み引っ張る。

 すると上昇していたルシアの身体が突如、真下へ向かって急降下する。

 行動を読んでいた白面に鋼線を捕まれ、逆に引っ張られたんだ。

 俺でもしっかり注意すれば見れたんだ、白面にしてみれば造作もないことだっただろう。

 ともかく、状況は白面が圧倒的に有利だ。

 手数の多さに加えルシアには俺が足かせになっている。

 辺獄で見るときより派手な戦いをしているのが何よりその証拠だ。

 本来、暗殺者であるルシアが正面から飛び回り、姿をさらし戦う。

 つまり相手の意識が俺に向かわせないためだろう。

 さっき、酷い言葉をかけてしまったのに、それでも俺を守ろうとするルシア。

 それに対して俺は不甲斐なさといら立ちを感じていた。

 何もできない俺と、一言も声をかけないルシアに。

 だがそれを誰に向ければいい?

 心のどこかで、まだ遊び半分だった俺にその資格はあるのか?

 ゲームの内容が応用できるならと安易に考えていた俺の前で本当の戦いが繰り広げられてる。

 その中で俺が出来ることが有るのか?

 ……!

 有る。

 1つ。

 白面の性格を考えるとチャンスは、……間もなく来る。

 俺は改めて2人の戦いに集中する。

 ルシアは道に叩きつけられた衝撃で古龍王の剣を手放してしまったが、そのままゆらりと立ち上がる。

 うつむきの気味の顔の中で瞳は白面を睨み続けている、まだ諦めていない表情だ。

 そして、白面や堕とし児たちはルシアのみを見ている。

 つまり、白面側の意識はルシアに集中している。

 ならば。

 俺はゆっくりと腰を落とす。

 多分、白面たちにも気が付かれるだろうが、逃げる算段程度にしか思われないだろう。

 なにせのやる事だ、大勢に影響は無い。

 だけど、均衡を崩す一助にはなる。

 俺はそれだけを信じ、タイミングを見計らう。

 一瞬、堕とし児の1体がわずかに動いた気がした。

「ルシア! 後方『全力移動』!」

 俺はとっさに叫んでいた。

 弾かれるようにルシアが大きく後ろへ飛び退く。

 全力移動は『ブレイズ&ブレイブ』における戦闘行動の1つだ。

 戦闘を放棄する代わりに移動力の倍の距離へ移動できる。

 戦闘放棄なんてメインアタッカーであるルシアが普段はとらない行動だ。

 直後に動いた堕とし児だが、無意味な空間へ攻撃するなどせずに追撃を選択した。

 続けて他の堕とし児や、白面も移動する。

 だが元より暗殺者であるルシアは奴らより遠くまで移動できるため、追いつくことはできない。

 そして全員が行動した後、が回ってきたのだ。

 ルシアにつられて移動した後に残された物。

 それが俺の目的だ。

 だが、全力疾走はしない。

 

 ここまでは自動行動として行動内容にカウントされない。

 俺はこの時点である法則について確信した。

 そのまま拾い上げた古龍王の剣を振りかぶる。

「ルシア、受け取れ!」

 俺は声の限り叫びながら剣を投げる。

 古龍王の剣。

 別のゲームに登場するマジックアイテムだ。

 最大の特徴は質量の変化。

 持ち歩く時は軽く、攻撃に使う時は重量が増す。

 所持重量の制限の厳しさと、武器の重さがダメージ加算されるそのシステムにおいて、軽戦士が重宝する武器だ。

 そして今、俺はこれを攻撃に使用していないため異常に軽い。

 そして……。

 俺の意図を理解していたルシアは、古龍王の剣をしっかりと受け取っていた。

「『無拍子』からの『抜刀』、『猛襲斬』!」

 そして構え直すルシアに俺が指示を出す。

 全て『ブレイズ&ブレイブ』の攻撃行動。

『無拍子』は移動しながら追加で準備行動が取れる技能。

 そこに命中判定にボーナスを与える『抜刀』を使用。

 更に攻撃はダメージブーストの技能『猛襲斬』を使う。

 手近な堕とし児に狙いを定めたルシアは、正に一瞬のうちに斬り倒し、反対側に立っていた。

 元々の位置での攻撃を想定していたのであろう他の堕とし児たちは距離が狂ってしまったのだろう。

 再び移動しながら攻撃を仕掛ける。

 しかしその攻撃はことごとくルシアにかわされる。

 続けざまに白面が飛びかかる。

「『返し』!」

 再び俺は叫んだ。

 ルシアは白面の拳が突き刺さる寸前に姿が消える。

 次の瞬間に白面の後ろへと姿を現したルシア。

 そのまま白面の背中を蹴り飛ばす。

 何が起きたか分からない顔の白面。

 それはそうだ、『返し』は奥義に分類される技能だ。

 奥義と言われるとおり習得に必要なポイントが高く、なかなか習得できない。

 その反面、成功時の効果は絶大だ。

 今のように相手の攻撃を回避しつつ攻撃ができる。

 ついでに相手の不意をうつために、相手の防御力マイナス効果のおまけ付きだ。

 そして白面が『返し』を知らないのは予想どおり。

 なぜなら『返し』は前回のセッション後に取得した新しい技能であり、その手の技能を他のゲームでは取得したことが無かったからだ。

 つまり俺がこれまで過去の再現で選んでいたルシアの技能はだいたい読まれるが、先ほどの『無拍子』や『返し』の様な新規に取り入れた技能は対応が遅れている。

 そしてもう1つ。

 どうやら、ここに俺がいると、世界法則が『ブレイズ&ブレイブ』と同じになるらしい。

 いや、もしかしたら俺の認識が『ブレイズ&ブレイブ』に寄っているのかもしれない。

 少なくとも俺からの認識はそうなっている。

 気が付いたのは、先ほどの戦闘。

 皆、高速で動いている代わりに順番が決まっているように攻防を繰り返していた。

 動きが自然過ぎて始めは気が付かなかったが、複数人が同時に行動することや、ルシアと白面が互いに同時に攻撃を仕掛けることも無かった。

 その事から、俺はとっさに指示を出したのだ。

 あれだけ高速で動いているのに、次の攻撃までに一瞬の間がある。

 それはつまりだったのだ。

 これまでは何もしなかったことで、行動を放棄したと解釈されていたのだろう。

 俺にはあの戦いに積極的に参加できる能力は無いが、ゲームとして現実を処理できるならサポートは出来る。

 そして、ルシアは最初の行動で俺が一番最後。

 つまりは俺たちは

 普通に考えれば対応されてしまいそうだが、俺がいる限り順番は絶対のようだ。

 先ほど投げた古龍王の剣も普通なら取られてしまいそうだが、ルシア以外は反応できなかったのが、その証明だ。

 そして、先ほどの蹴りが決め手だった。

 地に伏した白面が立ち上がろうとすると同時に、ルシアの剣先がその喉に突きつけられた。

「茶番はおしまいよ白面。」

「茶番も何も本気よ。」

 剣ごしに殺気に満ちた視線で睨むその先には、不敵な笑いを浮かべる白面。

「あなたの目的は何? いくらなんでも今回はわたしが標的ではないんでしょ?」

 わずかに剣先が皮膚に触れる。

 赤い線が剣から滴り落ちていくが、それでも白面は表情を変えない。

「目的は2つ。 1つは……。」

 白面が話しをしようとしたその時だった。

 周囲に眩い閃光が走ったのは。

 そして、その光の中からしゃがれた声が響いた。

「……いい加減、痴話喧嘩は止めてくれんか?」

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