第12話 再会錯乱 運命ってあるんですかね?
見上げた先にある相手の顔。
それに俺は見覚えがあった。
学生時代の友人。
コミュ障気味だった俺に話しかけてくれた、少ない友人の1人。
高校卒業後は進学先が異なったため、疎遠になっていたが忘れもしない。
ただ、問題が1つ。
その彼女の背後だ。
そこにも見知った顔が見える。
ルシアと同じく事故に遭った後に出会った存在。
つまり受付の
(なんで、あんたがここにいるんだよ!)
思わず荒い口調の思考を飛ばしていた。
それに対し、女神サマは楽しそうにクスクスと笑いながら、口元に人差し指を当てた。
黙っていろってことなんだろうけど、いやに楽しそうだな。
「後ろになにか?」
あさっての方に向けられた視線に気がついたのか、目の前の彼女は首をめぐらし後ろを確認する。
当然ながら、何も見えなかっただろう彼女は、首を傾げながら俺に視線を戻す。
俺もなんとか身体を動かし四つんばいの姿勢から地面に座り込んだ状態へと姿勢を変えていた。
そして改めて相手の顔を見る。
間違いなく彼女だ。
「あ、お気づかいありがとうございます。」
まずは改めてお礼の言葉をかける。
その言葉に彼女は一瞬キョトンとしたが、元々の状況を思い出したかのように慌てる。
「いやいや。 あなたこそお怪我は有りませんか? ってトラックに跳ねられたのに無事ってことはないですね、すぐに救急車を……。」
「あ、大丈夫です。 とっさだけど避けられたので。」
まくし立てる彼女に俺はなるべく冷静に返す。
……内心、心臓ばくばくだったけど。
「それは良かったです。」
彼女は心底安心したと言う表情だった。
その表情、やはり間違えないかな。
俺は覚悟を決め声をあげる。
「「あのっ!」」
同時に声をあげた彼女と奇しくも声がハモる。
発言が被った気恥ずかしさで、次の言葉が出ない。
見れば彼女も顔を紅潮させている。
このままでは進展しないなぁ。
俺は勇気を振り絞り、もう一度声をかける。
「あの稀咲さんだよね。 俺、同じ高校だった神代だけど覚えてる?」
別に愛の告白でもなんでもないのに、その一言だけで全身全霊を使い切ったようだった。
まぁ、間違っていたらナンパと勘違いされるし、下手すれば事案だ。
そんな中で女性に声をかけるのは、それなりに勇気は必要だった。
「やっぱり、カミーだったんだ!」
俺の考えは杞憂だったようだ。
俺の問いかけを聞いた彼女、いや稀咲さんの表情は、パァと明るくなり俺を高校時代のあだ名で呼んだ。
ちなみにこのあだ名、俺はあまり好きじゃない。
昔のアニメの主人公の名前と俺の名字をかけたのだが、そのなんとも言えない中途半端な語感がウケてしまい、高校在学中はそのあだ名で通っていた。
「もう学生じゃないし『神代くん』って呼んだほうがいいかな?」
いけないと気がついたような表情で稀咲さんが確認してきた。
「大学の頃には呼ばれなくなっていたから、そうして欲しいな。」
ぎこちないながら少し笑みを浮かべながら俺は答える。
大丈夫だ、昔みたいに人と話すのが怖くて仕方なかった俺じゃない。
「でも、とりあえず助かったよ。 稀咲さんが声かけてくれなければ車と正面衝突だったから。」
まずはお礼をと俺は声をかけたが、尻もちついた状況ではなんとも締まらない。
そんな俺を見つつ稀咲さんが笑いかける。
「そんな姿勢じゃ、格好つかないよ?」
そう言いながら右手を差し出す。
俺は一瞬戸惑ったが、その手を握る。
柔らかい稀咲さんの手の感触が握った手から伝わる。
しかし、その感触とは裏腹に引っ張る力は強く、俺は一気に立たせられた。
「稀咲さん、そのなんと言うかスゴいね……。」
勢いに驚いた俺は、なかば呆然と呟いた。
その呟きにキョトンとした稀咲さんたが、また笑いだす。
「忘れた? わたし元柔道部だよ。」
そうだった。
稀咲さんの家はスポーツ家族だ。
それも『見るよりやる』派であり、たしかお兄さんも空手かなにかの大会常連だったはず。
稀咲さんも華奢な身体に似合わず、部活ではガンガン男子部員を投げ飛ばしていたとか。
そのため一部では昔のマンガにあやかったあだ名がついていたとか。
それほどの彼女なら人の体勢を崩すだけでなく、手際よく体勢を戻すことも朝飯前だったのだろう。
「大丈夫? 歩けるかな。」
怪我の有無を確認するように俺を見回しつつ質問してくる。
幸いトラックを蹴った右足も特に問題なさそうなので、俺は軽く「大丈夫だよ。」と返した。
その後、お互いに駅へ向かうところだったため俺と稀咲さんは並んで歩き始めた。
他愛のない近況報告や高校時代の話などをしつつ歩きつつ俺は心の中で話しかける。
(なんであんたがここにいるんです?)
その問いに対し、稀咲さんの後ろ側に現れた気配が答える。
(イレギュラーケースなんで見張りをしろって、上司からの命令で仕方なくね。)
言葉とはうらはらに、楽しそうな声色で返ってきたその声は間違いなく
イレギュラーなのは理解してる。
だが状況が理解できない。
なんで……、
(稀咲
何気なさそうに女神サマは答える。
(憑くってもう少し表現が……。)
絶句する俺に女神サマは笑いながら話を続ける。
(あなた、感いいかもね。 柚子香ちゃんとわたし、結構波長が合うわよ。)
(波長が合う?)
(そっ、波長が合えばその人の意識の一部を間借りして、少しだけこの世界に干渉できるのよ。)
(干渉?)
突然の不穏なワードに、俺は身構える。
(言葉のあやよ。)
俺の態度に少し慌てたように訂正する女神サマ。
どうもこの
(なによ、わたしに文句でもあるの?)
……どうやら、また思考を読まれたらしい。
この辺りの能力は向う側にいた時と同じか。
(ところで見張りなのに俺に接触してきたってことは、何か用事があるんじゃ?)
見張りと言う割には、積極的に接触してきた時点で気になっていた。
(声かけたのは
どこかとぼけたように返す女神サマ。
(じゃあ、さっきのトラックは偶然?)
(……。 アンタはわたしをどう見てるのよ。)
憮然とした表情の女神サマを横目に俺は考え込む。
「ん? どうしたの?」
不意に稀咲さんが声をかける。
俺が突然、考え込めば気になるか。
「いや、なんでもないよ。 さっきのトラックが気になっただけで。」
俺は断片的に本当のことを話す。
確かにトラックのことは気になる。
より正確には、トラックと昨夜の件に関連が有るのかだけど。
「そうだよねー。」
「えっ!?」
稀咲さんが同意してきた。
そのタイミングに俺の考えに同意されたのかと思って驚いた。
冷静に考えれば、心の中で考えたことが
最近、そんな特異な例に当たりすぎていただけだ。
「だってあのトラック、不自然だよ。」
稀咲さんが話しを続ける。
その言葉にまたドキリとしたが、彼女は気がつかずに話しを続ける。
「車道とは言っても、歩道のない狭い道だよ。 それに十字路も近いのに減速もしないなんて。」
あ、現実的な運転の問題か。
「運送業も大変だと思うけど、事故になったら意味ないと思わない?」
最後に俺の方を向いて同意を求めてくる。
少し頬を膨らませた表情を見て思わず相変わらずだなと思ってしまう。
学生時代は、その可愛い表情からみんなから好かれていたのだから。
「神代くん、聞いてる?」
軽く人差し指で俺の肩をつっつきながら稀咲さんは聞いてくる。
「ん? そうだね……。」
慌てて答える俺だが、しどろもどろと言う感じだった。
稀咲さん、距離感がバグってないかな……。
色々と勘違いしそう。
ともかく、俺は稀咲さんとの話しをしながら駅へと向った。
女神サマが再び話しかけてきたのは電車に乗ってからだ。
稀咲さんと俺の下車駅は同じく3駅先。
少し意外だったが、同じ公立高校出身なら住んでいる地域が近くても驚くことでもないか。
そんな思いで話しているところでのことだった。
(ご歓談中悪いんだけど、仕事の話よ。)
それなりに昔話を楽しんでいたら、いきなりの割り込み。
……いや、仕事って言われても、昨日も何も支払われてないんだが。
(固いこと言わないの〜。)
いきなり声のトーンを上げ、身体をくねらせる。
何事かと思ったが、あれか『ぶりっ子(死語)』ってやつ。
(何やってんですか?)
なんとなく理解した上で、俺はそう疑問形で話しかけざるをえなかった。
(フッ、さすがね。 わたしの媚態に抵抗するなんて。)
どうやらぶりっ子ですらなく、魅了しようとしていたらしい……。
(ともかく稀咲さんに憑いてるってことなら、電車降りたらタイムアウトですよ。)
進まない話しに若干、苛つきつつ俺は女神サマに告げる。
(も〜、せっかちさんなんだから〜。)
なんかこの前より自由気ままじゃないか?
そんな感じで、ジト目で見つめる俺。
もっとも半眼で何も無い中空を睨む男ってのはそれだけで雰囲気が危うい。
俺はすぐに女神サマから視線を外す。
(とりあえず、次の仕事について伝達するわね。)
あくまでマイペースに話しを進める女神サマ。
(次は5日後の金曜日の深夜、0時超えると思うから土曜と言ってもいいわね。)
睡眠時間中ならルシアのことを気にしなくてもよさそうだ。
しかし、すでに向こうで活動することが前提で話しが進んでいるな……。
なかば諦めにも似た気持ちで女神サマの話しを聞く。
(ちなみに、こちらの世界では今回の行動と近いシナリオが存在するから、確認しておくと良いわよ。)
また、経験済みのシナリオを追体験することになるのか……。
視点が違うから、退屈ではないんだけど違和感が拭えない。
なんで俺が体験したTRPGのシナリオと同じことが発生するのか。
女神サマに確認したいが、下っ端らしいので知っているのか怪しいところだ。
ともかく話を聞いて、タイミング的に聞けそうなら確認するか……。
(で、今回はどのシナリオなんですか?)
俺はどのみちやらされることへのあきらめを感じつつ、女神サマに意識を向ける。
その声を待っていましたとばかりに、女神サマは笑顔になる。
そして告げた。
(今度の内容は、『
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