第9話 現世帰還 これから始まる英雄冒険譚?
俺は不意に目が覚めた。
どこか分からないが、白い天井が見える。
周囲は薄暗くわずかに陽の光が差し込んできている。
「ああ、帰ってきたのか。」
俺の思いが口からこぼれる。
さっきまでの冒険、あれは夢だったのではと思う程に、あり得ない体験だった。
いくらなんでも、自分が作ったキャラクター本人になってシナリオを追体験するなんて非現実という他にない。
第一、その証拠は俺の心の中以外に何もない。
やはり夢だったのだろう。
そう思おうとしたが、気になることもある。
俺は事故に巻き込まれて気を失ったのなら、なんで目が覚めてすぐにそれを理解しているのか?
見知らぬ場所(おそらく病院内の一室)に寝かされていたことに違和感が無いのはなぜ?
実は覚えてないだけで、少し前に目を覚まし事情を聞いていたとか?
考えれば考えるほど謎が湧き上がってくる。
しかも、その疑問自体どこまでが事実にもとづくのか分からない。
すぅ~、はぁ〜。
とりあえず俺は考えるのを止め、大きく深呼吸をした。
確証が得られない状況で、独り悩んでいても仕方がない。
もう少しすれば看護師か誰かが来るだろう。
その時に確認すればいい。
俺は考えを切り替えると、枕に頭を預けた。
目を閉じると、カタカタとわずかに風が窓を揺らす音が聞こえてくるくらい静かだった。
……アレ?
音、近くないか?
窓が揺れて音がしていると思ったが、それにしては音が近い。
まるでベッドの脇から聞こえてくるようだ。
一瞬、ネズミかとも考えたが、あきらかに病院内なのにネズミとかあり得るか?
先ほどまでとは異なる、得体のしれない恐怖が俺を支配する。
起き上がって確認すればいいのだが、あいにくと特殊能力はおろか、格闘も得意ではない一般社会人だ。
万が一にも
だが、ベッドの支柱に何かが触れたような振動を感じた。
はぁ、はぁ、はぁ……。
荒くなる自分の息遣いがうるさい。
今や確固たる存在感が自分のすぐ脇に有る。
目を閉じてやり過ごすことは不可能だろう。
「んっっ!」
声を出そうとしたが、恐怖と口の中の乾燥でうまくでない。
っ!!
なにかわずかに湿度を感じる柔らかいものが俺の手に触れた。
そこが限界だった。
俺はガッと目を開き、勢いよく横に首を向けた。
そこには大きく見開かれた碧色の双眸が俺を見つめていた。
「っっ!!」
驚きのあまり声にならない叫びをあげ、体勢を崩した俺はベッドから滑り落ちた。
なんで、ここにいるんだ?
床に落下しつつも、この疑問が俺の頭の中を駆け巡っていた。
そして、それはまだ波乱が続くことを意味していた。
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