第2章「現実混乱」異世界ファンタジーってなんだっけ?
第10話 病室混乱 本当に帰ってこれたのか?
部屋の外からドタドタと駆けてくる足音が聞こえたかと思うと、ドアが開け放たれた。
「大丈夫ですか! 神代さん!」
中に入ってきた看護師さんは開口一番、そう呼びかけた。
しかし、俺はベッドからずり落ちた状態のまま、答えられなかった。
なぜなら看護師さんと俺の間になかば透けた人の姿が見えていたから。
そして、俺はその姿に見覚えがある。
なぜならついさっきまで、鏡を見れば写っていた顔だったから。
「な、なんで……。」
なんでおまえがと言いたかったが、驚きでそれ以上の言葉がでなかった。
「あなたはバスに乗っていて、交通事故にあったんですよ。」
慌てて駆け寄ってきた看護師が俺にそう声をかけてきた。
まるで自分の他に室内には誰もいないように一直線に駆け寄った彼女。
しかし半透明の存在はぶつかると思った瞬間、姿が消えていた。
思わず俺はその姿を探し、せわしなく室内を見回していた。
その姿を見た看護師は俺が混乱していると判断したのだろう。(実際に混乱していた。)
看護師はすぐさまどこかに連絡する。
するとさらに駆け足で近づいてくる足音。
応援に来た看護師たちだ。
彼女たちは素早く俺の周囲に位置取ると、「大丈夫ですよー。」や「心配しないでくださいねー。」と言っているうちに、俺をベッドへと乗せ直してしまった。
最後に安定剤を飲まされると、看護師たちは去っていった。
なんと言うか嵐によって、部屋がぐちゃぐちゃになるさまを高速で逆再生したかのようだった。
その嵐の最後に薬を投与された俺は次第に意識が遠くなっていった。
どのくらいの時間がたったのだろう。
何かが俺の前髪を揺らす感じに意識が戻ってきた。
だが薬の影響だろうか、身体の感覚が緩慢で言うことをきかない。
指の先一つ動かすのにも神経を集中する必要がある。
そんな中でとりあえずは目を開こうと、まぶたに意識を集中する。
次第に広がっていく視界。
そこには先ほど見た天井があり、視界の端で見慣れた顔が俺を見下ろしている。
驚きのあまり声を出そうとしたが、うまく喉が鳴らない。
集中が切れたため、再び閉じられた視界。
(やっと目を覚ましたわね。)
唐突に声が響く。
耳で聞き取った音じゃない。
……この感覚は覚えがある。
俺の意識は一気に覚醒した。
これは、あの受付女神が連絡してきた時の感覚だ。
(おや、順応早いな。 わたしだって少し時間かかったのに。)
意識に直接響く声に驚きと関心を含む。
(最近、体験したばかりなんでね。 ところで君は誰だ?)
恐らく予想はつくが、念のため確認する。
(ふ~ん、心を重ねたのに酷いわね〜。)
少しからかうような口調で答えが返ってきた。
(な、なに、いい、言っているんだよ!)
俺は跳ね上がりそうな程に驚いた。
まぁ、後から言えばこんな驚く必要もなかったのだが、無防備なところに扇情的なことを言われて焦っていたのだ。
(冗談よ。 でもわたしのことは知ってるでしょ?)
相手はなおもクスクス笑いながら聞いてくる。
(……ルシアだろ?)
俺は答える。
はじめは
(ご明答。 『碧水のルシア』。)
やはりと思いつつも、なぜ彼女がここにいるのかが気になる。
(まぁ話せば長くなるから、目の前のことを終わらせなよ。)
そう言うと、ルシアの気配は消えた。
俺が目を開けると、看護師たちが部屋に入ってくるところだった。
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