第5話 状況確認 異世界RTAはっじまるよ〜

 敵集団を倒した俺は仲間のもとへ合流した。

 始めこそ慌てたオイフェが取り乱したため、混乱状況にあったが、みんなそれなりに実戦経験のあるメンバーだ。

 こちらより数が多かったとは言え、統制の取れない小鬼と闇妖精の混成部隊に引けを取ることはなかった。

 イルバが射撃で牽制した隙に、ルシアとマハトが切り込む。

 ラファとオイフェがそれぞれに魔法による援護と残敵の掃討を担当。

 手慣れた連携で10体程度の魔物はたちまちに討ち取られ、塵と化していった。

 魔物の死体が残らないのはゲーム的な都合だよなと思っていたけど、実際に戦闘をしてみたら惨たらしい死体の山を見なくて済むのは精神的に助かるな……。

 さて考えを切り替えて、ここから重要だ。

 シナリオ最速クリアを目指すなら、ここで説得が必要だ。

 なにせセッションの時は、この後に朝まで待機していたのだ。

 後の感想戦でGMも言っていたが、朝まで待ったため、最後の戦闘で敵の数が増えたと言っていたし、ここは強行を提案しないといけない。

「この先だが、夜間に小鬼や闇妖精と遭遇するのは危険だ、ここは日が昇るまで休憩としないか?」

 マハトが提案する。

 セッション時は先輩が「ちょっとトイレ行ってくるわー。」と言って部屋を出ていったため中断したのだが、こっちでは真っ当な提案だなぁ。(当然だ)

 そんなことを思っているとオイフェも首を縦に振り同意する。

「ちょっと待って、ここで敵と遭遇したのよ? 時間をかけてはわたしたちの情報が伝わって伯爵が守りを固めさせる、もしくは逃亡するかも。」

 元の世界に早く帰りたいと言う本音を隠し、対案として真っ当な意見をだす。

 こちとら日々営業やってるんだ、提案事で負ける訳にはいかない。

 それに伯爵が守りを固めるのは、俺が

 余計な戦いで体力を損耗しないためにも、急ぎ行動する必要があるのだ。

「確かに今の戦い、偶然と言うには相手は初手から整然としていたな。」

 イルバが俺の意見を補足する。 ヨシッ!

「でも、今の戦いで皆さん疲れているのでは?」

 ラファが疑問を口にする。

 体力や精神、気力などを数値データで管理する俺は、数値を見た上で判断している。

 だが他のメンバーは直感や経験からの判断のはずだ。

 なら具体的な提案で納得させるしかない。

 俺はセッションの内容を思い出しながら考えた。

 先輩がトイレから戻った後、そのまま休息をしてから移動するか検討した。

 まさに今の状況だ。

 その時、休息を選択した理由は、……っ!

 思い出した、あの時は確か……。

 俺は素早く周囲を見回す。

 特に崖の上を観察。

 ……いた。

 警戒中の兵士が崖のそばを歩いている。

 セッションでは奴をやり過ごすためにも休息を取っていたのだ。

 俺は素早くイルバに「上を見ろ」とハンドサインを送る。

 うなずき返したイルバは慎重に上を見上げ、兵士を見つける。

「どう思う?」

 音もなくイルバに近づき、小声で話しかける。

「動きからして、手練れではなさそうだな。」

 冷静に観察し答えるイルバに俺は問い続ける。

「わたしたちが移動したとして、見つかる可能性は?」

「俺たち以外は見つかる可能性はあるな。」

 潜入にはそれなりに知識と技能が必要だ。

 その点、暗殺者のルシアと射手のイルバは隠密行動を得意としており問題はない。

 だが、他のメンツは隠密行動なんて不可能に近い。

 三者三様に何かしら大きな音を立てるか、物陰に隠れきれずに見つかるのがオチだ。

「……やっぱり強襲?」

 俺はあえて手段を1つだけ提案する。

 セッション中は調べた結果をGMが宣言するため、プレイヤー全員が知ってしまうので、全員で相談となった。

 だが今は警備の存在に気がついてるのは俺とイルバのみ。

 強襲という提案を出すことで、「強襲する」or「強襲しない」に考えを絞らせる。

 簡単な思考誘導の一種なので多用したくはないが、俺には急ぐ理由があるため背に腹は代えられない。

「そうだな、強襲しないにしても奴を必要があるな。」

 軽い動作で弓を構えるイルバ。

 矢はつがえていないが、狙いは明らかに歩哨。

 恐らくこの場から相手を射るイメージをしているのであろう、しばらくその姿勢でいたが、おもむろに弓を下ろしてこちらを見る。

「どちらにしても、もっと近づく必要があるな、みんなに出発の準備をさせよう。」

 そう言うとイルバは焚き火の方へ歩いていった。

 恐らく見張りを黙らせることで、どれだけ時間が稼げるかを計算していたのであろう。

「上に見張りがいる、恐らく見つかるのは時間の問題だな。 早めに移動した方がいい。」

 ほかのメンバーは敵が気が付く前に城へたどり着くのは無理と判断した上で相談をすることにしたのだ。

 それを聞いた3人は互いの顔を見る。

 もともと侵入することを前提とした行動だ。

 しかし強行突入となると話は違ってくる。

 無理に侵入して被害が大きくなる可能性を考えているのだろう。

 いくら悪逆非道な行いをしているとは言え相手は領主だ。

 配下の数も少なくはない。

 さらに魔物まで軍として組織する相手に二の足を踏む気持ちは分かる。

 だが待って事態が好転する訳でもない。

 そして俺の本来の生活もこの一戦にかかっている。

「みんな、状況把握したい気持ちはわかるが聞いて。」

 ルシアがみんなに話しかける。

 普段はあまりしない行動に、一同が驚いた表情でこちらを向いた。

 その視線に一瞬、たじろぎそうになるが俺は勇気を振り絞る。

「わたしたちは、既に敵の一団を倒してしまったの。」

 俺は事実を伝える。

 そして、「。」と追い打ちをかける。

「まだ見張りは事態を把握してないけど、さっきの魔物たちが戻らなければさすがに気が付くわ。」

 昼間のセッション後、GMに言われたことを思い出しながら話を続ける。

 ファミレスで話している時にリッキーGMは、

「ノンビリと回復休憩を取っていたから、防御を固める時間が有った。」

 そう言いながら1枚の紙を取り出した。

 そこには時間経過による敵の配置変化について書かれていた。

 領主側の数が1番少ないのは、領主のところまで1度も戦闘をせずに進んだ場合。

 これは既に戦ってしまったので無理だ。

 なので次善の策として増援が少ない”戦闘1〜2回まで“を狙うのが妥当。

「上の見張りはわたしが対処するから、みんなはなるべく急いであがって。」

 俺は手早く指示を出す。

 それと同時にイルバはマハトの肩を軽く叩き、移動を示唆する。

 俺は仲間が移動準備を進める間に焚き火の処理をする。

 この場合、急に火を消してはダメだ。

 急に光量が減れば周囲は不審に思う。

 闇夜ではタバコの光すら遠くからよく見えると教えてくれたのは、自衛官だった叔父だったか。

 ともかく少しづつ勢いを弱めていき、ある程度の火力になったら消すことで不自然さを無くす。

 その間に移動準備ができた一行は、イルバに率いられ移動を始める。

 遠回りになるので、それなりに時間がかかるが、こちらもうかうかしている暇はない。

 まだ火が消えきる前に、崖の様子を見る。

 切り立っているとは言え、人工の壁ではない。

 所々に手足をかけられそうな箇所がある。

 もっとも、ルシアには障害物を無効にする『猿飛』があるので、仮に壁であっても問題ない。

 ただ、中にいる俺には引っ掛かりがある方が安心できる。

 頃合いを見て、俺は腰につけた長剣を鞘ごと外し背負う。

 ベルトを締め落ちないようにした後、腰に付けた革袋を外す。

 手にずっしりとした重みを感じながら、革袋に付けられた紐を手早く右手首に巻きつける。

 それが終わったところで、いよいよ崖の登攀だ。

 自分の背丈より少し高いところに右手をかける。

 体重をかけて簡単に剥がれ落ちないことを確認し、さらに高いところに左手をかけるために軽くジャンプする。

 しかし、俺の身体は想定以上に高く飛び上がってしまう。

 慌てて右手を離し、手近な窪みに左手をかける。

 ……うっかりしていた。

『星片』に選ばれた者はいわゆる超人的な能力を持っている。

 それは人によって変わるが、ルシアの場合は身体能力がある。

 単純に言えば身体のバネが常人離れしており、垂直跳びで2メートル近くは飛ぶことができる。

 つまりは助走無しで人間の身長以上の高さまで飛ぶことができ、今がまさにそれだった。

 その事を体感したことで、俺は改めて意識をする。

 そして次につかむべき場所を見定めながら、崖をよじ登っていき、俺は程なく崖の上へとたどり着いた。

 そこは領主の館の裏手であり街の最北端、館の外壁は街の城壁と一体化しており、出入り口さえ理解していれば、簡単に館に入ることが出来そうである。

 もっとも、この崖伝いの道の裏手側からでは軍隊などはなかなか侵入は出来ないであろう。

 とは言え、俺たちみたいな少数での潜入の可能性はあるため、歩哨や小規模の哨戒部隊を展開しているのだ。

 そして俺は手早く壁に張り付くと、少しづつ移動する。

 歩いていくと壁の端に、崖下から見かけた見張り役の兵士が姿を現す。

 俺が手早く手に巻いた革袋の端を握る。

 袋の中には砂が大量に入っており、これで殴りつけられた場合、当たりどころによっては骨折程度では済まない。

 いわゆる『ブラックジャック』と呼ばれる暗殺武器である。

 俺は得物ブラックジャックを握りしめて襲いかかろうとしたが思いとどまる。

 目標から少し離れたところにもう一人、歩哨が立っていたからだ。

 幸いなことにそちらの歩哨もこちらを見ていないが、連続で対処する必要がある。

 俺はどうしたものかと思案しながら周囲を見た。

 道の中央部分はそこそこの大きさの石が撒かれている。

 これは侵入者の移動を阻害し、石同士がぶつかる音で発見しやすくなるための物だ。

 俺はその道の石の大きさなどを確認した。

 問題ないな、俺は自分の作戦を確認し心のなかでうなずく。

 次の瞬間、俺はルシアの身体に指示を出す。

 その指示に身体が反応し、撒かれた石を飛び越える様に相手へ接近する。

 そして、その勢いを乗せ右腕を振り上げ、ブラックジャックを相手の後頭部へと振り下ろす。

 鈍い音を立ててブラックジャックは命中。

 歩哨はその場に倒れ込む、そして俺はそのまま崖に落ちないように身体の制動をかける。

 崖の端で身体が止まるとすぐに、手近の石を掴む。

 手のひらに収まる程度だが、その表面はゴツゴツと尖っている。

 俺は姿勢は変えずに、手に取った石をサイドスローの要領で離れたところの歩哨へ投げつけた。

 10メートル程度の距離であるが、飛んできた石に気がつかなかった歩哨は側頭部に石つぶてがぶつかる。

 鈍く低い音がわずかに聞こえたと思うと、あらぬ方向に首を傾げた歩哨は倒れた。

 暗殺者が取得できる技能『投擲』による攻撃だ。

 これは短剣投げなどの武器ではなく、その場に有る物を投げつけ対象にダメージを与えるものであるが、一般兵程度ならこれで倒すことができる。

 とは言え、先程のブラックジャックと共に殺傷に至るほどのダメージはなく昏倒している程度だ。

 俺は周囲に他の歩哨がいないことを確認した後、倒れた歩哨たちを壁際に寄せて他者から発見しづらくする。

 そうこうしていると、イルバを先頭に警戒しながら進む仲間の姿が見えてきた。

 俺はすぐさま、問題を排除した事をサインで知らせる。

 それを見たイルバは安堵しつつ、足早にルシアのもとへとやってくる。

 いよいよ潜入開始である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る