第2話 神界審問 もしかしたら人生の査定

 俺が目を覚ましたのは、見知らぬ所だった。

 首を振り左右を確かめても、見たことがない初めての場所。

 強いて言えば、実家近所の少し大きな教会と銀行のロビーを足した様な場所である。

「そこの人間。」

 神聖なんだか機能的なんだか、よくわからない場所に立って途方にくれる俺は、不意に声をかけられた。

 見ればフロアの受付みたいな所に誰かいた。

(今度は大きな会社の受付ロビーみたいだな。)

 俺はそんなことを思いながら声の聞こえた方へ向かう。

 そこには1人の女性が座っていた。

(なんか学生時代、クラスで5番目くらいにかわいいって言われていた稀咲きざきさんに似てるな……。顔の造作とでなく雰囲気とかが。)

 俺はそんなことをぼんやりと考えていた、

 今になって改めて考えればのんきな話だ、これから俺の審判が始まるってのに。

「残念だけど、わたしは稀咲さんではないわよ?」

 一言口を開いた彼女の声は、何物にも耐えがたい威厳、言うなれば神々しさを秘めていた。

 ただなんか違和感がある、主に口調が。

「ここは人の魂の功罪を図る審問所、そしてわたしはあなたを担当する運命の女神サファリナよ、よろしくね。」

 俺の考えも関係なく自己紹介する自称女神。

 普通ならどう考えても胡散臭いのだが、なぜか俺はすんなり受け入れてしまった。

「それで、俺はなんでここにいるんですか? さっきまでバスに乗っていたはずですが。」

 敬語も使わずに率直に聞いてみる。

 なんというか敬語とか使っても見透かされると感じたから。

 すると自称女神様はいきなり俺を指差しまくしたてた。

「そ、れ、よ! 今日はもう営業時間が終わって誰も入れないはずなのに、なんであんたはいるのよ!!」

 いやー、そう言われても……。

「おかげで、たまたま残業していたわたしが、査定にも載らない様な案件を抱えることになっちゃったじゃない!!」

 へー、神様の仕事って査定が有るんだ、営業職みたいで世知辛いなあ。

「そうなの。 だからとっとと済ませてわたしは帰りたいの。Do you understan理解して?」

 唐突に英語まじりの言葉でなじってくる女神さまって珍しいかも。

「なんか、さっきから俺の心の中の考えと漫才してません?」

 ふと気になったことをツッコんでみる。

「そりゃ下っ端でも神なのよ、神界や霊界なら人の心なんてお見通しよ。」

 ホントに神様なら造作もないことだと思ったので、冷静に返していたがやっぱりそうか。

「で、俺は死んでしまったんですね。 それで転生先を決める必要があると。」

 淡々と返す俺。

 突出した才能はない(と思う)。

 地位も財産もない(こっちは本当)。

 おまけに生まれてこの方、カノジョもいない(悔しいが真実)。

 ないないづくしの俺が死んで神様のもとに来たなら答えは1つ。

 これ以外ないだろう!!

 正直、俺の心は舞い上がっていた。

 転生できることより、異世界転生が自分の身にも起きたことが!

 どこかの危機に瀕した異世界が助けを求めている。

 そこへどこからともなく現れる超技能チートスキル持ちの俺。

 現役中二病罹患者じゃなくても、現実として遭遇したならその響きに憧れるヤツだ。

 ただ、一抹の寂しさもある。

 俺は残された家族、両親と妹のことを思い出した。

 ヤベッ、涙が…。 慌てて天井を見上げる。

 シミ1つ無い白い天井は味気ないな……。

「あのー……。」

 そんな俺に女神さまが横から済まなそうに声をかけてくる。

 水を差された感じだが仮にも女神さまだ、俺は慌てて目をこすり、女神さまの方を向いた。

「は、はい! 何でしょー?」

 俺は涙を見られたかもしれない気恥ずかしさと、コレからの体験に緊張していたのか、返した言葉は変に語尾が上がっていた。

「あー、何ていうか超技能チートスキルの話ってデマだから。」

 ……はい?

 イマナンテイイマシタ?

「最近、変なうわさが出回ってるけど、ことわりの異なる世界に転生するだけでも超常の力なのに、そこにさらに超技能チートスキルが付くって常識的にあり得なくない?」

 超常のことに常識的と言われましても……。

 俺は少しだけ戻った理性を働かせ、転生後に有利になる条件を考えた。

「じゃ、じゃあ!」

「わたしが一緒に行くのも無しね~。」

 予測していたとばかりに、バカにした感じで返す女神サファリナに少し、少〜しだけ、殺気が湧いた。

「だったら、どうしろと!」

 思わず叫んだ俺を面倒くさそうに見る女神が口調を開く。

「とりあえず話しを聞け、まだあんたのことは、何にも話してないし。」

 やる気ゼロな話し方だが確かにそうだ。

 俺は一瞬の沈黙した後、「申しわけありません。」と頭を下げた。

「な、な、なんでいきなり謝るかな~。」

 当然のことをしたはずだが、女神さまは戸惑っている様子。

「自分に非があれば謝るべきだと。」

 顔を上げて返答するが、身体はまだ謝罪の姿勢のまま。

「そう言うの、むさっ苦しいから止めて。」

 その言葉を許しだと判断し俺は姿勢を戻した。

「浮かれたり謝ったり、調子狂うなぁ……。」

 そう言いながら女神さまは手近なテーブルに置かれていたファイルを手に取る。

 そのファイルを開きながら女神さまは語り始めた。

 その姿は出会った時のような神々しさを感じだった。

「まずは一番重要な話からね。あなたはバスに乗って追突事故にはあったけど死んでないわ。」

 なるほど、そうか…。 ん??

「あの〜、死んでないって何かの間違いでは?」

 思わず考えていたことが口から出いた。

 しかし、この女神さまは顔色変えずに、「間違いないわ。」と当たり前のように肯定した。

「『事故にあって、頭部を強打したけど奇跡的に気を失っただけで済んだ。』」

 女神さまはファイルを淡々と読み上げる。

 その言葉を聞けば聞くほど納得はいかない。

「『念の為に病院で精密検査を受けるけど、目を覚ませばそのまま帰れる。』うん、問題なく生きているわね。」

 帰れるの一言に俺は力が抜けてヘナヘナと座り込んでしまった。

 いや、死んだと思ったら何でもないって展開が急転直下にも程がある。

 まるで罠回避にファンブルしてダメージ喰らったはずなのに、その後の生存判定でクリティカルしてHPが全快した時のようだ。

 まぁ嬉しいはずなのに釈然としないと言うやつ。

 そこまで一人で一喜一憂していたのだが、よく見ると女神さまも眉間にシワを寄せてる。

 彼女も納得いってないのか?

「もし、気がかりがあるなら、上の方に確認したほうが……。」

「え!? なに、あなた死にたいの?」

 顔を上げた女神さまが驚いたように言う。

「そう言う訳ではないですが、死人が裁かれるところに来たのが不自然だなって。」

「ま、そうよね。 それはわたしも同意見。」

 よし、女神さまも同じ意見だ、再審請求(?)いけるな!

「ただ……。」

「ただ?」

 ファイルに目を落としながら言いよどむ女神さま。

 なんだなんだ??

「あなたの場合は特例ね、ちょっとある世界を救ってほしいのよ。」

 なんか話の向きが変わってきたぞ?

「それって、やっぱり異世界転生じゃあ?」

「あなたは死んでないから転生は無理だし、その世界の危機レベルから考えても転生して成長して、とかやっていたら時間が足りないのよ。」

 そこまで言うと女神サファリナは手に持ったファイルを閉じた。

「あなたには精神だけ、現地の人間に乗り移ってもらいます!」

 俺を指差しながら宣言する。

「ちょ、ちょっと。 乗り移るって簡単に言うけど、乗り移った先の人はどうなるんだよ?」

 とりあえず相手は神様だ。 魂の入れ替えなんてスマホのメモリカード交換程度の感覚で行えるのだろうと考えつつ、とりあえずの懸念を口にしてみた。

「ああ、それなら大丈夫。 その間はあなたの身体に入ってもらうから、気絶してる間に片付ければ問題ないわよ。」

 あっけらかんと言う女神さま。

「つまりは、俺が気絶してる数分から数日の間にかたをつけろと?」

 思わず何を考えてんだという思いが顔に出てしまった。

 そんな胡乱な物を見るような目をする俺を、女神さまは気にしないようだった。

「そういうこと。 大丈夫よここはあなたの世界より遥かに高次元に存在するのよ、時間遡行ぐらい他愛ないわ。」

「遡行できるなら、適切な人物を問題ない時期に転生させればいいんじゃないの?」

 俺は素朴な疑問を口にする。

「事態の起きる少し前に大きな異変が有ってね、多くの適正者はそこで死んでしまうのよ。」

 この口ぶりすでに何度か転生させてるみたいだな。

「そこで、その世界にを直接送り込もうってなったの。」

「適正が俺にもあるってことか?」

 思わず質問を返す。

 さっきも言ったが俺はなんの取りえも無い一般人だぞ?

「大丈夫よ、あなたはその世界を『門番ゲートマスター』からすでに聞いてるわ。」

 なぜか自信満々な回答。 俺が聞いている世界?

「今は《辺獄》とだけ呼ばれる世界。 あなたはそこで魔剣使いの暗殺者となるのよ。」

 まて、最近聞いたような話しだぞ……。

「さああなたの、『浄炎と勇気の物語ブレイズ&ブレイブ』の開演よ。」

 っ!! 俺の心に電撃が走る。

 だと!?

 ゲームの世界が何でだ?

 俺は女神に掴みかからん勢いで近づこうとしたその時、突如として浮遊感が俺を襲った。

 そして次の瞬間には落下していく自分。

 まるでギャグマンガみたいに自分の身体のは簿ほど穴が床に開いていたのだ。

「ちょっとまてぇぇぇ、話しはまだ終わってないぞぉぉぉぉ!」

 恐らく女神さまにはドップラー効果が効いた俺の声が届いているだろう。

 すでに穴からのぞいていた天井の光すら見えなくなり、暗闇を落ちていく。

「大丈夫。 初回だから陰ながらサポートしてあげるわ。」

 ふいに耳元で女神のささやき声が聞こえたと思うと、俺の意識は周囲の闇に沈んだ。

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