第8話 日常
高校へは自転車で通っていた。
短大はJR。
今のマンションに住むようになって、初めて地下鉄を利用するようになった。
地下鉄の、なんとなくどんよりしたこもった様な空気には、どうしても慣れない。
窓から見える景色もずっと真っ暗で、外を見ているはずなのに、ガラスに映っている自分を見ているみたいになるのが苦手だった。
電車の中を見渡すと、通勤時間でもなく、遊んで帰るには少し早い時間のせいか、比較的空いていた。
もうすぐ9時になろうかという時間だったけれど、ドアの近くで、制服姿の女子高生がスマホを見ながら話をしていて、時折楽しそうな笑い声が聞こえる。
すぐ隣に立っているスーツ姿の男性たちが話をしているのが聞こえた。
「いいよなぁ、高校生は楽しそうで」
「あいつら絶対悩みなんかないよ」
「って、俺もあの頃は毎日楽しいことしかなかった気がする」
「おれは部活で先輩にしごかれたからそうでもなかった」
「でも、お前彼女いたんだろ?」
「それくらいだよ、楽しかったのは」
「いや、それが一番でしょ」
高校の思い出……
忘れたいのに忘れられないことばかり。
窓を見ると、泣きそうな顔の自分がこちらを見ていて、慌てて目を逸らした。
電車にはまだもう少し乗っていなくてはいけないから、カバンの中からスマホを出して、次に登る山を探すことにした。
国有地の山を。
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