第5話 *
わたしたちが席に着くのと入れ替わりに、残っていた女性2人が化粧室に行くため席を立った。
2人を待っている間、青葉さんを除く3人はウィンブルドンを見に行く話で盛り上がっていた。
スポーツに疎いわたしでもわかる。
ウィンブルドンはイギリスで開催されるテニスの試合のことだ。
それをイギリスまで見に行くという話をしている。
海外なんてわたしには縁のない話で、それをテニスを見るためだけに行くというから驚くばかりだった。
ふと青葉さんを見ると、そんな3人の会話に入ることもなく、ひとりスマホを見ている。
この4人って、友達……なんだよね?
「あいつのこと気になる?」
飯島さんに耳元で囁やかれた。
驚いて飯島さんの顔を見ると、意味深な笑みを浮かべている。
「ずっと見てた」
「いえ、全然。そういうんじゃないです。違います」
「そこまで否定しなくても」
「ごめんなさい」
女性が戻って来ると、今日の幹事っぽい人が「次行こうか。ダーツバー予約したから」と言って席を立ち、そのまま出口に向かって歩いて行く。
あれ?
支払いは?
そう思って、飯島さんに小さな声で聞いた。
「あの、お支払いはどうしたらいいんですか?」
「ん? 奢りだよ」
「それ、本当だったんですか?」
「うん。最初からそういう約束だから気にしなくていいよ」
「誰にお礼を言ったらいいんでしょうか?」
「さぁ。誰が払ったのかわからないから、気になるならみんなに向けてお礼言っておけばいいんじゃないかな」
「それでいいんですか?」
「気にしなくても大丈夫だよ」
こういうのにはどうやっても慣れそうにない。
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