第4話 *

「お酒、弱いの?」

「え?」


気づかないうちに、斜め前に座っていた人は、さっきわたしに話しかけた人とは別の人になっていた。


「飲んでないから」

「お酒は飲まないんです」

「飲めないんじゃなくて?」

「はい」

「鴎外さん、面白いね。見たところ他の人達より若いみたいだけど、何歳?」

「21です」

「妹と同じ年だ。もしかして知り合いだったりして。高校どこ?」

「恥ずかしいので聞かないでください……わたし頭が良くないから」

「そうなの?」

「あの、この料理の名前ご存知ですか?」

「ああ、それはポルケッタだよ。豚肉でハーブとニンニクを巻いたもの」

「よくご存知なんですね」

「イタリアンは結構好きなんだ」


しばらくの間、彼のウンチクをニコニコしながら聞き続けた。

ふと間ができた瞬間に、「ちょっと、失礼します」と言って席を立ち、化粧室へ逃げた。


「ふぅ」と、ため息をついたところで飯島さんがやって来た。


「今、8時過ぎだから、門限が9時ってことにしよう」

「え?」

「門限厳しいから、途中抜け。ね?」

「でも……」

「わたしがうまく言うから、環ちゃんは話合わせて」

「……ごめんなさい」

「どうして謝るの? 無理やり連れて来たのはわたしの方だよ?」


飯島さんが笑いかけてくれたので、ほっとした。



2人で席に戻ると、さっきわたしに話しかけてきた男性が言った。


「ここはもう出て2次会に行こうって話してたところなんだけど、いい?」


それを聞いて、飯島さんがわたしに小さな声で言った。


「ちょうど良かったね」

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