第5話 元凶さん 行動に移す

 そしてこのザマである。箱庭だとか花籠だとかを考えた時に真っ先に思いついたのが勝手な解釈で美しく感じられた四季の狂おしさと、人間の儚い思いにも関わらず鮮烈な激情である。

 郁町が選ばれたのは、花籠としてはわかりやすいものである。反物の美しさとそれに従事する人間たちの織り成す模様に、椿だとか桜を入れたら、咲き乱れたらきっと華やかだろう。春と冬という花が同時に咲くのは珍しいし、花籠だからやっぱり華やかに。四季を超越した仙人らしい発想である。山の上、雲の上とは打って変わった刺激が欲しかった。

 それに冬の花というのもポイントだ。春夏秋冬。冬から春へと移り変わる。冬と春は隣り合わせである。なのに同時に咲くことは出来ない。追いかけて追いかけられて、それでも冬の花は春の花に届かなければ、春の花は振り返って冬の花の咲き乱れる様子を見ることができない。冬の花、特に桜とは異なる不可思議な魅惑を持つ椿なんかはぴったりだった。

 そして、その冬と春の関係性と似ている。人間の、血の涙を流すほどに恋焦がれているのにそのひとにこの思いは届かない。そのひとはその恋心を放っておいて歩いては、これほどまでに想ってくれる相手に振り返ることすらしない。


 少し違った視点からも凝ってみた。郁町の郁は、かぐわしいという意味も込められているらしい。香りもいい桜もまたぴったり。「郁郁」という言葉は、文化が盛んな様であるという。点と点が繋がっていくのは天にも昇る気持ちだった。ちろちろちろとお祈りしてみた種を天上から撒いてやれば、おもしろいほどに花が咲いた。

 普段は土に根差して四季の天候に左右され咲く花たちだが、天上、四季の輪の上雲の上で感覚が狂った。そしてこんなことが起きたのである。美しい反物たち、木製、機械の機織り機、人間たちの素早い手さばき、そして椿と桜。花籠の完成だ。花籠の籠という字には閉じこめるという意味もあるらしい。封鎖された町こそ閉じ込められた花籠だ。満足満足。

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