第3話 元凶さん
その花籠であり箱庭を眺めた仙人はとても満足そうにせんべいを齧った。初めての試みだがなかなかにおもしろい。今回は凝って凝ってだったから一抹の不安もあったのだが、その過程も含めて上出来。これよこれと見せびらかしたくなった。何百年も生きた仙人である。少しは遊びたくもなった。
少しづつ人間から離れて、人間を超越した存在となって、もう人間とはいえない。ありえない高さの人間界にはない山の上で雲の隙間から、現代を眺めていた。進歩する技術に争い合うものたち。たまにはうつくしいものが見たいものだと思いたったのがひとつの町を箱庭化することだった。もちろん花籠の意味も込めて。 ここではこの仙人のことを「彼」と呼ぶ。もはや性別すら超えているだろうが、まあとりあえず「彼」と呼ぶことにした。どうやら人間で、煉丹を探っていた頃は狩衣を着けていたし、戦国の世には弓を背負っていた。一応。のらりくらりとしていた人物であった。
平安では専ら全てを仙人への道に注ぎ込んでいたので、この花籠兼箱庭を思い立ったのはだいぶあとのことだった。それはそれは煉丹を探るほどの研究熱心さである。なかなか目を向けられなかった人間の世にも興味を持って、まずは歌からと読み始めた。
人々の持つ目から見た情景に恋模様。和歌とは美しいものだった。そして辿り着いたのが、『古今和歌集』や『拾遺和歌集』、『後撰和歌集』などである。空気感や選ばれる歌の異なる和歌集たちを見つめると、なんとも人間の様子や心の動きが見つめられたのである。
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