第2話 華やかな苦痛

 だからといって、本当の呪いという訳ではない。事実を鑑みると、おまじないのほうがちかいといっていいさ。とはこの珍事の元凶の言葉である。とはいえ現実は非情なものであった。

 極彩色にまみれた町民たちはかつての活気を失い、名物であった機織りや反物の仕立てどころではなくなってしまった。結局、誰も彼も家はそのまま、作りかけの反物もそのままに町民は逃げ出すことになった。しかし、引越し先も家財もお金の問題もあり、なかなか逃げ出すことも叶わないままに人々は精神を削りながら準備を進めていったのである。

 そして逃げた先、軽傷の人の中には、精神を病んで精神科に通うことになったものもいたそうな。とはいえ、昨今の精神科は初診ともなると1ヶ月以上待たねば診察してもらえないのも事実。町から逃げ出しても色の着いたものや、ざわざわとした喧騒に耐えられなくなり自殺に追い込まれることもあった。

 と、いいつつも政府が指をくわえて見ていたわけでもなく、完全装備の科学者たちを派遣し、その花粉や町の状況、花の育ち方や土壌汚染、気象情報などを調べ尽くした。もちろん町民のケアも欠かさない。取り調べも丁寧だった。しかしその結果は散々なもの。全くといっていいほどの結果は得られない。町民の精神も、おかしな状況に囲まれた弊害だとしか診断されず、なまじ美しさは折り紙付きであるからして、理解もされないままに終わってしまった。

 結局、町にはこれ以上誰も踏み入れられないよう厳重に封鎖されることになった。物好きなネットの住民たちがスマホを持ってありとあらゆるところから入り込もうとしたこともあったが、そこには町民たちの姿を消し、徐々に寂れていく町並みがあるだけで、街路樹の根元には雑草が、木製の機織りは腐りかけ、機械もメンテナンスが不十分で、少しづつ植物に侵食されていく様子しか映らず人々を恐怖に陥れた。それもそのはず。これは人とも言えないものの遊びと呪いの結果であって、なにも誰も悪くなかったのだから。

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