第2話 ソウタ

「ほら、お日様が出るよ。行こう!」

 ソウタは明るい声で言うと、ミナの手を自然にとりました。

 異性と手を繋ぐなんて、ミナは初めてのことでした。これまで見るだけだった桟橋に、足を踏み入れます。

 古い時代には本島からの船が立ち寄ったこともあるというそこは、平らな石造で、とても頑丈でした。桟橋は海の只中で終わっています。その先端に二人は腰かけました。

 ソウタの言う通り、チロチロとした神の火のようなお日様が、海面から顔を出します。まばゆい光が海面を彩ります。朝の海はお化粧したように見えます。

「レンジとの結婚、嫌なんでしょう」

 ソウタがぽつりと言いました。

「どうしてよ」

 まばゆい朝日がソウタを照らしていました。胸がギュッと苦しいけれど、ミナは表情を変えまいと努力します。

「ミナ姉さん、楽しそうじゃないもの。このまま、レンジと結婚するなんて良くないよ」

 ソウタは大人びた横顔で、海をながめていました。

「あなたがもらってくれると言うの?」

 ふざけた口調で言ったのに、ソウタは、

「そこなんだよ。村の掟では、男が年上で、女が年下じゃないといけないんだ。しかも、男は畑持ちじゃないと。でも、掟ってなんなのかな? この桟橋を渡っちゃうくらいの僕らなら、その掟を破れるかもね」

 そう言うと、欠けた前歯を見せて笑いました。

 

 それ以来、何日か、ミナは明け方に祖父母のいる家を抜け出して、ソウタと会いました。桟橋を渡ることもありましたし、波打ち際で、カニや貝と戯れる時もありました。

 けれど。

「レンジとの結婚、受けることにしたよ」

 桜色の貝殻を拾っているソウタに、ミナは声をかけました。自分の声がカサカサに乾いていて、おばさんみたいだなと嫌になります。

「じゃあ、ここにはもう来ないんだね」

 ソウタは桜色の貝殻をそっと海に流して、いつもと同じように言いました。

 ミナは最後の言葉を言いました。

「短い間だったけど、この何日かでいろんなこと話したね。忘れないよ」



 

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