「お化け桟橋」の恋物語
瑞葉
第1話 お化け桟橋
星がまだ瞬いている明け方、ミナはそっと、家を抜け出しました。
ミナの暮らす南方のその集落では、みんなが顔馴染みです。亡くなった長の娘であるミナはそろそろ十六歳。結婚相手を探さねばなりません。
しきりに言い寄ってくるレンジという若者がいます。レンジは八歳年上で、見た目も悪くありません。みんなは、ミナがレンジと結婚すると思っているでしょう。
明け方の空は、茜色やくすんだ藍色に姿を変えていきます。
海の事故で亡くなった、長の父さんや母さんがいてくれたら、ミナの話を聞いてくれるでしょうか。
ミナは、村の外の世界が見たかったのです。
ミナの足は、もう使われていない「お化け桟橋」の方に向かっていました。
お化け桟橋は古ぼけていて、その名の通り、この辺りにはお化けが出ると、子供から大人にまで恐れられています。昼間でも近づく人はありません。古老の話では、死後の王国、ハーレーンへの入り口だとも言われていました。
なのに、なんということでしょう。桟橋から歩いてくる人影があったのです。ミナはその場を動けませんでした。
すると、人影はこちらに手を振って、元気に走ってきます。なんのことはない。十四歳のみなしごのソウタでした。
「こら、何してるのよ」
ミナはソウタを叱りました。
「あそこへ行ってはだめ。ハーレーンに続いてると言われてるんだから」
「でも、ミナ姉ちゃんだって、しょっちゅうここに来てるじゃないか。桟橋、渡ってみなよ」
邪気のない目をして、ソウタはやんわりと言い返しました。ミナは何も返せません。
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