第七話 肉じゃがの変貌とプリンまで


今日の夕食は肉じゃが、そう君に言われてテーブルを見るが、何かがおかしい。

その正体はすぐに見つかった。


「これさ、じゃがいも入ってないよね?」


「そうそう、買い忘れちゃって」


肉と、しらたきと、人参、玉ねぎのみの肉じゃが。


「いや、そうすると肉じゃがではないだろうな。もっと違う名称の食べ物に変貌すると思うんだ」


「でも、肉じゃがとして作ったから肉じゃがじゃないの?」


「その理論はおかしい、それじゃあ、チャーハンを作ろうとして、オムライスを作っても、君はそれはチャーハンと言い出すのかい?」


「そうは言わないけど」


「それじゃあ、これは肉じゃがでないのだよ」


そう、これは。


「肉としらたきの煮物だ」


「味は肉じゃがだけどね」


違う。違うぞ。


「その理論だと。カレーのシチュー味と言っているようなもんだ。もはや、どっちがどっちだかわからない食べ物になってしまいそうだ」


「それはさておき、お腹減ったし早く食べようよ」


「それは同感」


「いただきます」


「いただきます」


僕は茶碗に手を伸ばす。まずは白いご飯を一口食べないと、食事が始まった気がしない。

君はおかずから先に手を伸ばしているが、それは僕からすれば邪道なのだ。

ご飯茶碗を一度置き、味噌汁を一口飲む。


「ん? 味噌変えた?」


「この前、とある会社員が腰を犠牲にして手に入れた味噌」


「ああ、あれか」


ジワリと腰が痛くなる。嫌な記憶を思い出させてくれる味噌汁である。


「中々、美味しい」


もう一口、運んでからおかずに手を伸ばす。


「煮物も美味しいではないか、苦しゅうない」


「はい、ありがとうございます殿下」


おかずを食べてから、今日の出来事を思い出した。


「そう言えば、今日の昼に好き嫌いの話になってさ、僕の同僚は玉ねぎがどう調理しても、一切食べられないって言ってたんだ。でも、口に運んでいるのはハンバーグなんだよ。もう、僕はなんと言えばいいのかわからなかった」


「それは、あくまで玉ねぎがメインになってる食べ物が食べれないのであって、玉ねぎが見えない状態なら大丈夫なんじゃない?」


「そうかなあ。部長は納豆って言ってたけど」


「納豆嫌いな人は結構いるでしょ?」


「女性は嫌いな人は多いよね? 学校で納豆が出ると臭くなるからって女子がみんな納豆が食べないで、大量に余ったのを男子が取り合いしてたもん」


白いご飯と納豆の比率がおかしくなるまでかけて食べてたもんな。


「自分は何て言ったの?」


「僕は別に好き嫌いないからなあ」


「そうだっけ?」


「苦手な物もこれと言ってないし、君はあったっけ?」


「ニンニクかな。でも別に絶対に食べれないわけではなくて、効き過ぎてる食べ物が苦手なぐらいかな」


僕もそうだな。

ラーメン屋にいくと必ずギョウザを頼むけど、あまりにもニンニクが効きすぎてると残してしまう。

ご飯を食べ、おかずを食べる。


「同僚は一人暮らしだからいつも夕食はカップラーメン食べてるって言ってた」


「不健康だねえ」


「自炊するにしても、料理一切できないんだってさ」


「誰かさんと一緒だ」


「悪かったね」


僕は出来ないんじゃなくてやらないだけだと、言いたかったけど、そうするとじゃあ、作ってよ言われそうだからやめておく。

ご飯を全部食べ、味噌汁を飲み干す。まだ、満腹にはなっていないが、体重増加防止の為に、ここで終わりにするか。


「ごちそうさまでした」


「はい、どうも」


君は僕よりも食べるのがスピードが遅いので、まだご飯が半分ほど残っている。


「お茶でも入れるよ。君も飲む?」


君はご飯が口の中に入っていて、話せないので頷いて返事をする。

僕は自分が使った茶碗を台所に持って行き、ヤカンに水を入れる。

お湯が沸くのを待っている内は暇なので、冷蔵庫の中を見てみる。


「プリンだ」


そこにはプリンが二つ鎮座していた。


「これは食べていいのだろうか」


僕は急いで君に聞きに行く。


「あのプリンは食べてもいいのかい?」


「食べ終わってからね」


「じゃあ、紅茶を入れるよ」


僕はウキウキしながら台所に戻る。

プリンは子供の時から大好きであった。

多分三食プリンでも大丈夫なぐらい愛している。

鼻歌交じりに紅茶の用意をし始める。


「ごちそうさまでした」


君が食器を台所に持ってきて、残ったおかずは小さい皿に移してラップをし、冷蔵庫に入れた。


「もう少しでお湯が沸くから座って待ってていいよ」


「上機嫌でよろしいですねえ」


「それほどでも、あるよ」


僕はにこやかに答える。

お湯が沸き、僕は紅茶を入れ、テーブルへと戻る。


「じゃあ、プリン持ってくるね」


君が立ち上がり、台所へ向かう。


「はい」


僕の前にプリンとスプーンが置かれた。


「本当にプリン好きだねー、顔がにこやかすぎて不気味だよ」


「今の僕はなんと言われようとも頭にこない、言うなれば、天使に近い存在になりつつある」


罪深き人間達よ。

その罪を全て許しましょう。

あくまで、僕がだから他の人が許さなかったらダメだけどね。


「では、いただきますか」


僕はプリンの蓋を外し、食べ始める。


「うむ、旨い」


「それはそれは」


君もプリンを食べ始める。


「さっきは色々言って申し訳ない」


「何のこと?」


「肉じゃがの話」


「ああ、全然気にしてないよ」


「どうも、仕事で疲れてると、愚痴愚痴しちゃってね」


「人間誰でも、疲れてるとそうなるよ」


「君を見てると本当に凄いと思うんだ」


「そう?」


「うん。いつも穏やかで、羨ましい」


「人間嫌いだけどね」


「むしろ今は僕の方が人間嫌いになりつつある」


主に仕事において。


「まあ、プリンが美味しいからいいか」


「単純」


君が無邪気に笑ってくれたので、僕もつられて笑ってしまった。

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