第六話 宝くじとサーロインステーキの運命


家に帰るとリビングの床に大量の宝くじがばら撒かれていた。

何かの祭りでも開催されているのかわからないが、単純に邪魔だ。


「これも当たってない、これも、駄目だ」


その一枚一枚を見ながら、駄目やら惜しいやら言いながら、四足歩行の生き物のように這いずっている。まるで道端に一匹だけいる虫のようだ。


「邪魔なんだけど」


「ちょっと、今、真剣だから」


君の言葉を無視して僕はリビングに足を踏み入れる。

完全に宝くじを踏んでいるが、気にしない。


「踏まないでよーっ!!」


「君ね。ここまで床に宝くじばら撒いてたら、そりゃあ踏むに決まってるでしょ。と、いうかこの宝くじの山は何? 全部買ったの?」


一枚二百円だとしてもかなりの額な気がするけど、拾ったのか? 

拾った宝くじって法的に誰のものになるんだ?


「今回、当たる気がしたから月初めに家賃分買ってみた」


「え? 待って、家賃分?」


サラッとやばいこと言ったぞ。


「そう、当たったらハワイに移住」


家では家賃は折半で払っているはずなのだが。


「え? 当たらなかったら?」


「当たるから」


違う違う違う。


「悪いけど多分当たらないよ? いいかい? 宝くじの一等が当たる確率は道を歩いていて雷に当たるのと同じ確率なんだよ?」


「今日なら雷さえも当たる気がする」


怖いこと言うなよ……


「数が多いから当たり探すの手伝って」


僕は呆れながら床に広がっている宝くじに手を伸ばす。


「で? これは何の番号が当たりなの?」


「ん」


君が1枚の紙を渡してきたので目をやると、一等の番号と数字が書かれていた。


「これ、一等しか書いてないけど」


「それ以外は不要と考えておりまして」


不要て……


「後さ、一つ言いたいんだけど」


「なに?」


「これ、宝くじ売り場に持っていけば当たりかどうかすぐにわかるんじゃないの?」


君が驚愕を通り越した顔で僕の方を四つん這いのまま振り返る。

あー昔飼ってた犬を思い出す。


「知らなかったんかい……まだ宝くじ売り場やってると思うけど行く」


「いぐっ!!!」


僕たちは床に散らばった宝くじを集めて宝くじ売り場に急いだ。


「どうせ当たってないよ」


僕はそう言っていたが。



その後、宝くじ売り場で十五万円の数字を見た瞬間にひれ伏して夜ご飯はサーロインステーキを奢ってもらった。

人生には時たまこんな奇妙なことが起こるもんなんだなと、いや家賃を全額、宝くじにぶっ込むのはおかしいけども。


「納得いかない!!!」


君はずっと十億が当たるはずだったのにと不貞腐れていた。


僕はサーロインを食べすぎたのでお腹を擦りながら夜風の気持ちよさに浸っていた。


「あ……天啓が来た!」


「今度は何さ」


「今、このお金全部使ってスクラッチを買ったら、一千万円が絶対当たる!」


そう言って、君は目をキラキラさせながらお札でパンパンの財布を抱きしめ、宝くじ売り場がある方向へ全力で走り出した。


「おいーっ! 家賃分! 家賃分だけは渡してくれぇぇぇぇぇ!!」


僕の声など聞こえるはずもなく君の小さくなる背中。

僕はその場で呆然と立ち尽くす。

サーロイン……吐きそう……

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