05-07/情報家電に恋の理解は難しい-その7
「たのもう!」
「たのもう」
生徒会室のドアを開けるなり、そう言った秀人の頭の上でセプティが真似をする。そんな秀人の後頭部をぴしゃりと叩きながらマリナは言った。
「ほら、そういう事をするからセプティが真似をするのよ」
「俺が真似させているんじゃない。セプティが勝手に真似をするんだ」
秀人は言い訳するがマリナは認めない。
「真似をするのが分かってるなら、妙な行動を取らないの! 分かった!?」
「まったく、どこの教育ママゴンだ」
「教育ママゴンって、いつの言葉よ。第一、セプティに変な事を覚えさせないようにするのは当然でしょ」
そんな二人のやりとりに田中はにやにや笑いながら言う。
「そんな事をしてるから、夫婦みたいって言われるんでありますよ」
「……は!?」
思わず秀人とマリナは思わず赤くなり田中の方へ向き直った。そんな二人の脇をすり抜けて野依が生徒会室の中へ入る。
「ちぃ~~す。あれ、誰もいないみたいっすね」
野依の言う通り生徒会室はもぬけの殻。生徒会長の机や、その他役員の椅子、会議用の長机にも人の影はない。
生徒会室は一般教室を半分に間仕切りして使っている。残り半分のスペースは倉庫代わりだ。
「鍵もかけずに不用心だな」
憤然として生徒会室を見回す秀人の頭上でセプティが立ち上がった。そのリボンに『UR-Scan』のメッセージが明滅する。
セプティは一つ肯くと秀人に報告した。
「赤外線でスキャンしてみたところ、つい数分前まで誰か一人いた形跡がある。体格から推測してかなり高い可能性で大江副会長」
人間がいればその部分には体温の痕跡が残る。どうやらセプティは赤外線でその痕跡をスキャンしていたようだ。
「すぐに戻ってくるつもりなんじゃないの? 野口先輩も挨拶に来るというし、入れ違いになった時の為、鍵はかけていかなかったんでしょ」
マリナはそう言った。
「お手洗いでありますかねえ」
田中はそんな事を言いながら倉庫へ繋がるドアのノブに手を伸ばした。
「片付けをしてると言ってましたから、倉庫にいるかもでありますよ」
そういいながらノブを回すと、あっさりとドアは開いてしまった。生徒会室の中からしか入れない構造になってる為か、もともと倉庫のドアには鍵は着いていなかったようだ。田中は倉庫の中を覗き込んで声をかける。
「お~~い、誰かいるでありますか!?」
「誰かいたら、俺たちが入ってきた時点で気付いているだろう」
秀人はそう言うが野依は田中に続いて倉庫の中を覗き声を挙げた。
「おいおい、なんでこんなものがあるんだ!?」
「ほ~~、これは確かに珍しいもので有りますね!」
野依と田中はそんな事を言いながら倉庫の中へ入っていった。秀人とマリナは顔を見合わせてから、野依と田中に続いて倉庫に入っていった。
一般教室をパーティションで半分に区切った倉庫には、メタルシェルフが並べられており、そこには何やら雑多な機材や資料が埃をかぶっている。野依や田中が目を留めたのはその機材だ。
「見てくださいよ、先生! オープンリールのテープデッキですよ!!」
野依がメタルシェルフルから取り出したのは、年代物のオープンリールデッキであった。
「うわぁ、懐かしい。これ、昔、家にあったわよ」
マリナもそう言って覗き込む。
「見てください、部長! こっちにはポラロイドカメラであります! ええと、これもカメラみたいですが……」
野依や田中の呼称に突っ込むのも忘れるほど秀人も興奮していた。田中が指さす先にある大きなカメラに歩み寄りながら言った。
「おお、4×5in版カメラだな。俗に言うシノゴというものだ。しかしなんでまたこんな年代物の機材ばかり……。おいおい、オーバーヘッドプロジェクターなんて今時なにに使うつもりだ」
「こっちにはUマチックのデッキがあるわよ。デッキそのものの本物はさすがに初めて見たわ。ええと、こっちは古いマッキントッシュにAMIGAかしら。古いワープロ専用機に……。ええ、これ2インチのフロッピー?」
マリナも奥にあった古いパソコンの間から様々な大きさのプラスティックケースを取り出していた。
「パンチカードもその辺にあるんじゃないですか」
野依は冗談半分で言ったつもりだったが、間髪を入れずに田中が紙束を手に答えた。
「あったであります」
「あるのかよ!」
「よし、田中! そのパンチカードの情報を読んでみろ!」
「いくら何でもそれは無理でありますよ。部長」
そう抗議する田中に秀人はメガネの位置を直しながら言った。
「ええい、研究所部員たるものがパンチカードの一枚や二枚読めなくてどうする! 某地球防衛軍の隊長や、某惑星連合艦隊の副長はそれくらい造作もないぞ!」
盛り上がる秀人の頭からセプティが言ってきた。
「勝手に倉庫に入って、勝手に備品をいじって、勝手に盛り上がってもいいのか?」
「……あ」
セプティの注意にマリナは思わず罰の悪い顔をする。一方、言われた秀人本人は平然としたものだ。
「いいではないか。こんなに埃をかぶっているのだから使ってないのだろう。なんだったら我が研究所部が引き取ってやってもいい」
「いいっすね。それ。でもなんで生徒会室にこんな古い機材が揃っているんすかね」
完全にその気の野依が口にした疑問にマリナが答える。
「この学校は創設当時、いろんな会社や団体から設備や備品の寄付を受けているのよ。単なる使用目的じゃなくて、資料的価値から保存の必要有ると見なされた備品もあったそうだから、その一部じゃないの」
そう言ってからマリナは手の中のプラスティックケースへ目を落として付け加えた。
「もっともこの2インチフロッピーにどんな資料的価値があるのかは分からないけどね」
「これを貰い受けるにせよ、大江副会長の調査をするにせよ、誰もいないのでは埒が明かないな。あとで出直す事に……」
そう言いながら秀人が倉庫のドアを開けた時だ。突然、人の気配がした。誰かが生徒会室へ入ってくるらしい。秀人は反射的に踵を返してマリナたち部員を倉庫の奥へ押し戻してしまった。
「……ちょっと、何するのよ! これじゃあたしたちに何か後ろ暗いところがあるみたいじゃないの!」
声をできる限り潜めてマリナは秀人にそう抗議した。
「いや、すまん。つい反射的に……」
そう弁明してから秀人ははたと気付く。
パーティションの向こうから聞こえてくる声は大江のものなのだ。そしてもう一人。男子生徒らしき声。
「別に迎えに来て貰うほどの事じゃなかったのに」
「いえ、ついででしたから。気にしないでください野口先輩」
「声紋照合。一人は大江副会長。もう一人は該当データなし」
秀人の頭上からセプティがそう報告してきた。
「今話しかけただろう。もう一人は野口前生徒会長だ」
そう言ってから秀人はにやりと笑う。
「しかしこれは好都合だ。大江副会長と野口前生徒会長。大江女史の本音を聞くいいチャンスだ」
「ちょっと、それっていいの?」
「なに不可抗力だ。それに大江副会長は正面から聞いても本当のところは答えてくれないだろう」
マリナの抗議にも秀人は涼しい顔で答えた。
「なんか最近、こんな活動ばかりでありますねえ」
「これじゃ研究所部じゃなくて、ミッションインポッシブル部だよな」
さすがに田中、野依も呆れるが、すぐさま気を取りなおす。
「まぁそれはそれで楽しいっすけどね。でもどうするんですか、先生。これじゃ向こう側の様子が分からないですよ」
「声も聞き取りにくいであります」
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