05-06/情報家電に恋の理解は難しい-その6
「野口先輩と大江さんの事か……」
会場となる講堂で卒業式の準備を監督していた川端は、秀人たちの質問に意味ありげに苦笑する。
「まあ大江さんは野口先輩を目標にしていた所はあるかも知れないな。だから野口先輩の卒業を前にしてちょっと焦ってるのかもな」
「でも川端くんもそうだけど、今の生徒会役員が就任してからまだ半年も経ってないじゃないですか。それを考えると実績を認めて貰うにはまだ早いんじゃないですか?」
マリナの言葉に秀人も肯く。
「うんまぁな。野口前生徒会長が一年でなしえなかった事を半年でやろうとするわけだからな。こうしてみると大江副会長が部費の削減に汲々としていた理由も分かろうというものだ」
「まあ大江さんは……」
川端がそう言いかけた時だ。秀人の頭の上からセプティが身を乗り出して言った。
「執行部員の言動や今の川端会長の言葉からセプティは推測したのだが……」
そう前置きしてセプティは続ける。
「大江澄子副会長は野口騎一郎前生徒会長に対して恋愛感情を持っているのではないか?」
その言葉に秀人やマリナ、田中や野依、川端もぽかんとしてセプティを見つめる。利根川は例によって部室に待機である。ハコイヌも一緒だが、外に出るよりはまだ犬と一緒のほうがましらしい。
「あ~~、つまりあれか。大江副会長は野口前会長に恋をしていると……」
こほんと咳払いをしてから秀人がセプティに確認する。
「状況からの推測」
セプティはそう言った瞬間、ここに居ない利根川を除く研究所部、マリナも含めた全員が声を揃えて言った。
「「「「ないない」」」」
みんなから一方的に否定されたのはさすがにセプティも怒ったようだ。秀人の頭を無言のままでぺしぺしと叩く。
「正直、あの大江さんと恋愛というのは結びつかないわねえ」
「自慢ではありませんが、自分たちと同じくらい女子力不足でありますからねえ」
マリナと田中が肯き合う。
「わはははは、大方、川端に対抗する為、前会長に認めて貰おうという算段なのだろう。そうすれば現生徒会での発言力も増すだろうからな」
「それもどうっすかねえ。大江さんて、そんな回りくどい事をやるタイプにも見えないし……」
セプティの意見は却下したものの、野依だけは何か引っかかっているようだ。川端はそんな秀人たちをあきれ顔で見ていたが、やがて苦笑と共に嘆息すると言った。
「まぁいいさ。実際に本人に聞いてみるのが一番だろう。ちょうど今日、野口前会長が挨拶に来る予定だ。大江さんも見回りが終わったら、生徒会室へ戻って片付けをすると言っていたからな。今日なら二人に直接、聞けるだろう」
「なるほど。それは好都合」
セプティが秀人の頭の上から身を乗り出してそう言った。
「よし、では生徒会室だ。行くぞ、みんな!」
そう言うなり秀人は白衣を翻してダッシュした。その頭ではセプティが振り落とされないしっかりと秀人の髪に掴まっている。
「走らなくても生徒会室は逃げないわよ!」
「生徒会室は逃げないかも知れないが、大江と野口が一緒にいるという好機を逃してしまうではないか!!」
そんな事を言い合うマリナと秀人を追いかけて野依と田中も講堂を出て行った。
「会長、今のは研究所部の連中ですよね。大江と野口って言ってましたが、副会長と前会長の事ですか?」
秀人の声を聞きつけたのか、卒業式の準備をやっていた生徒の一人が川端へ歩み寄りそう尋ねた。
「あぁ、まあそういう事だ」
「いいんですか、だって大江副会長って……」
「見え見えだけどな」
そう答えて川端は笑い、そして付け加える。
「だけどそれに気付かない連中がいるわけだ。すまほむの方は気付いていたようなのにな。なるほど、確かにすまほむへ人間の感情を教え込むには適した人材かも知れない。ハンドラー自身も分からないんだからな」
しかし川端は少し思い直したのか真顔になり付け加えた。
「……いや、気づかないふりをしてるのかもな」
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