02-04/セプティはバレンタインに興味がある-その4
「そんなの義理のうちにも入らんだろう。それから俺は所長だ」
そんな女子二人に野依はハンダごてを持ったまま苦笑する。
「二人とも女子力足りませんねえ」
「うむ、まことに持ってその通りだ。女子力が発生している気配すらない。これは女子がいるだけで女子力が発生するという前提条件そのものになにか間違いがあるとしか思えんな」
さすがにそこまで言われては、マリナとしても黙っているわけにはいかない。即座に食ってかかる。
「なによ、その女子力って。自然界の基本的な力は電磁気力、重力、強い力、弱い力の四つしかないのよ! それとも宇宙項の正体が女子力だっていうの!?」
「
田中にそうたしなめられてマリナは落ち着きを取り戻す。
「まぁいいわ」
金色の髪をさっとかき上げてからマリナは続けた。
「女子力を云々するなら、それと対称性を持つ男子力についても考察しないといけないわね。そういう秀人たちはどうなの? 義理チョコくらいは貰った事はあるんでしょ?」
「そ、それとこれは関係ない……」
そう言いかけた秀人を頭上のセプティが遮る。
「双方のデータは当然必要だ。贈る側と貰う側のデータがあってこそ、情報家電としてはきめ細やかな対応が可能」
「う~~む、まぁそう言われてみればそうか……」
煮え切らない秀人に田中が尋ねる。
「自分も部長が貰った事があるのか興味あるでありますよ」
「だから所長だ」
そう前置してから秀人は胸を張って言った。
「自慢だがバレンタインにチョコレートを貰った覚えなどないぞ!」
「自慢にならないでしょ!」
マリナが予想通りに突っ込むが、田中は納得がいかないようだ。
「でも義理チョコくらいならあるのではないですか?」
「ないな」
「参考にならないわねえ」
「人の事が言えるか」
秀人には何も答えずマリナは野依に水を向ける。
「それで野依くんは?」
「義理ならあるっすよ。毎年」
「なんだ!」
野依が言うや否や秀人は食ってかかった。あまりの勢いに頭の上のセプティが振り落とされそうになったほどだ。
「それは聞き捨てならんな。野依! 真実探求の使徒が、欺瞞に満ちたやりとりに惑わされるなど!」
「だから義理って言ってるじゃないですか!」
ハンダごてを置くと野依は説明する。
「五つ下の妹が居るんですよ。その妹が俺とオヤジに毎年くれるんですよ。まだ小学生だからその辺のお菓子屋さんで売ってるのをそのまま買ってくるだけですけどね」
「つうか野依、お前、お兄ちゃんキャラだったのか」
「なんすか、そのお兄ちゃんキャラって」
二人のやりとりに呆れたようにマリナは言った。
「結局、貰う側のデータも取れないと……」
「つまり部長ものっちーもバレンタイン童貞ってわけでありますね」
にんまりと笑いながらそういう田中に秀人と野依はこの上なく嫌な顔をする。
「うわ、そう言われると何か凄く屈辱的な響き。それからのっちーとか言うな」
「だから所長だ。それにお前も人の事を言えた義理か。バレンタイン
「語呂がいい分、凄く嫌な表現だね」
部屋の隅でずっと黙っていた利根川がそうコメントした。
「止めましょう、この話。なんかこのままだとどんどん空気がぎすぎすしていきそう」
マリナが渋い顔でそう言った時だ。利根川がようやくCRTから顔を上げた。
「面白い話がある」
唐突にそう言い出す利根川に秀人やマリナたちは顔を見合わせた。
「学園関係の掲示板やSNSで、バレンタインデーやチョコレートで検索をかけてみたら、高い頻度で二年生の木村美乃梨さんが引っかかる」
「なにを黙り込んでいると思ったら、そんな事をやっていたのか」
「別に……。他の作業がちょっと空いたから……」
呆れる秀人に利根川は珍しく照れくさそうに言い訳をした。そんな利根川の側に歩み寄った田中はCRTを覗き込んで言った。
「あ~~、二年生D-917の木村さんでありますか。自分、知ってるでありますよ」
クラス分けはしてあるものの、教室に集まるのが毎朝出席を取る時だけという、この彩星学園高等部では、クラスよりも生徒番号の方が通りが良い。
「超モテ系で有名でありますよ。校内に特定の彼氏はいないのですが、校外で付き合ってる男性がいるとかいないとか」
そう言う田中に続いてマリナも木村の映像と公開データが表示されているCRTを覗き込む。
「二年の木村さんねえ。ああ、このファッションモデル風の派手っぽい人か。あたしも知ってるわよ。かなり年上の男性と付き合ってるなんて噂も聞いたわよ」
「Yes
「でもまぁ何か色々と尾ひれが付いちゃった感じよね。直接、木村さんとはお話しした事はないけど、結構、根は堅実なタイプのような気がするわ。だって授業だって真面目に出席しているんでしょう?」
「Yes、
そんな会話をしているマリナと田中を秀人と野依は意外そうな顔で見つめていた。その視線に気付いてマリナはそちらへ振り返る。
「なによ、何か言いたいの?」
二人の視線に妙な居心地の悪さを感じたマリナは、旧クラブ棟を揺るがすほどの大声でそう尋ねた。秀人と野依は思わず耳を押さえながら答える。
「いやぁ~~、お前たちもそういう女子っぽい会話ができるんだなと思ってな」
「まぁ意外っちゃあ意外ですよね。先生」
「所長だ」
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