01-09/セプティが来た-その9
そのやりとりを見ながら平賀は言った。
「さっきも言っただろう? 第七世代すまほむは自ら感情を持ち、ユーザーの微妙な心境変化にも反応する。ユーザーの言う事を無批判に受け入れていたのでは、その目的は達成できない。セプティはそれを目的に調整した……、はずだった」
「そうしたらこんな前代未聞の珍妙な行動をするすまほむになってしまったんですね」
呆れたようにそう言うマリナだが、むしろセプティはその言葉が気に入ったようだ。
「そう、それ。セプティは前代未聞で珍妙」
「平賀先輩!!」
秀人は頭にセプティを乗せたまま平賀に食ってかかる。その頭の上ではセプティが振り落とされないように必死にしがみついていた。
「いくらマールムコーポレーションCEO、タケオ・スティーブンス直々の依頼だと言っても、こんな不良情報家電のハンドラーなんてやっていられませんよ!!」
「セプティは乙女で前代未聞の珍妙な情報家電だ。不良情報家電ではない」
セプティは秀人の頭をぺしぺしと叩きながら反論する。平賀はそんなセプティを秀人の頭の上から下ろすと、そのままマリナの方へ放った。
「マリナちゃん、パス」
「え? はい」
マリナは言われるまま平賀から放られたセプティを受け取った。ぞんざいに扱われたセプティはマリナの腕の中で不満げな様子だ。
平賀は秀人の肩を抱き寄せると耳打ちした。
「いいか、秀人。良く聞け。これは正式にマールムから、それもCEOのタケオ・スティーブンスから依頼されたんだ。それを忘れるな。この成果はマールム上層部の知るところになる。それがどういう意味なのか、分からんお前じゃあないだろう?」
声を潜めているので、他の皆には何を言ったのか分からないだろう。
「さっきも言ったが、僕はお前の為にこの話を持ってきたわけじゃない。単に僕の知る限り研究所部の面々がハンドリングに最適と判断しただけだ。他を当たろうと思えばできる。チャンスを逃すのも掴むもお前の自由だ。しかし次はない」
そこまで言うと平賀はポンと秀人の肩を叩いて離れる。
「まぁ頑張れや、七代目」
「……分かりました。そういう事なら」
このチャンスは生かさないとな……。そう自分に言い聞かせながら秀人は答えた。
「そんなわけで秀人を中心にセプティを教育、つまりハンドリングしながら、随時その経過を報告して欲しいんだわ。詳しいスケジュールや何かは後でメールするから。一応、マリナちゃんも含めて全員の分のメルアドや連絡先を教えてちょんまげ」
「……はい?」
いきなり研究所部員と一緒に連絡先を教えてくれと言われたマリナはきょとんとする。
「あの~~、なんであたしの連絡先を平賀先輩に教えなきゃならないんですか? 別にあたしはセプティのハンドリングに関する情報を知らなければならない立場ではないんですけど」
「ところがぎっちょん!」
「ぎっちょん」
意味がわかっているのかいないのか、セプティはマリナにだき抱えられたまま平賀の真似をした。
「この件にはマリナちゃんも無関係というわけじゃないんだな。そもそもほら、研究所部が廃部になると困るじゃん」
「まぁそれはそうですが……。だから特例で研究所部の存続を認めるんじゃないですか?」
マリナは嫌な予感を覚えていた。
「いやねえ、川端くんもなかなか堅物でさ。特例、例外は認められない。だから廃部にならないよう、特定の個人に配慮してもらう事になるだとさ」
「秀人、パス」
マリナはやにわに秀人にセプティを放る。
「I Can Fly」
セプティは見事な空中姿勢で、秀人が伸ばした手をかいくぐりその頭に着地した。驚く研究所部員に構わずマリナは平賀に詰め寄った。
「……それで、誰に配慮してもらうんですか?」
「当然、マリナちゃんだよ」
「聞いてません!」
学園中に響き渡りそうな大声でマリナは怒鳴り返した。しかし平賀もその程度では屈しない。
「だって話していないもん♡」
平然として言い返す。
「セプティのハンドリングをやっている間だけでもマリナちゃんには研究所部に在籍して貰うって。川端生徒会長からのきわめて強い要望だよ。どうせマリナちゃん、クラブ活動やってないんでしょ?」
「それはそうですけど……」
「校則ではクラブ活動は必修ではないけど、学園側としては強く推奨するってなかったかなぁ?」
「うう……」
完全に外堀は埋められたようだ。マリナは金色の髪を揺らせてキッと振り返る。その方向は先程、大江が駆けていったのと同じ。生徒会室がある方向だ。
「川端のバカ~~ッ!!」
◆ ◆ ◆
「……ふむ」
川端は自分を罵る声に満足そうな表情で肯いた。
「どうやら江崎さんにも話は通ったようだね。大江さん」
「会長~~」
さすがの大江も呆れるばかりであった。
◆ ◆ ◆
「移動騒音源」
マリナの大声をセプティはそう表した。
「それで江崎マリナは平賀と何をもめているのだ?」
頭の上から身を乗り出したセプティは秀人にそう尋ねた。
「俺は研究所部の部長、湯川秀人だ。俺に何か尋ねる時は所長と言え、所長と」
「そうか」
セプティは一つ肯くと重ねて尋ねる。
「秀人、それでマリナは平賀と何をもめているのだ」
「所長だ!」
「この呼称は親近感の表れだから気にするな」
秀人の頭をぺしぺしと叩きながらセプティは言った。
「なにしろこれからセプティのハンドリングを頼むのだからな。親近感を持って貰わないと困る」
「親近感はそんな一方的に表現するものではないだろう」
「なるほど、一理ある。セプティは親近感について学習した」
「学習するまでもない」
憮然とする秀人の頭を、またセプティはぺしぺしと叩く。
「だから江崎マリナは平賀と何をもめているのだ」
「お前の事だ。要するに情報伝達の不備だな」
「なるほど」
セプティは顔を上げ、まだやり合っているマリナと平賀の方を見る。
「情報伝達の不備と聞くと、情報家電としては他人事には思えない」
「いや、だからお前の事だって言ってるだろう」
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