第36話 特訓とアナウンス
集まった石像兵は全てで5体。
全員にデバフをかけてもらい、先ほどのように倒すのでもいいのだが、ここで少し趣向を変えることにした。
「せっかくだ。この機会に、スキルの特訓としよう」
「特訓、ですか?」
「ああ。より効率的なデバフの使い方を学ぶんだ」
祈は【調律士】の称号を得たことで、他者の魔力が視認できるようになった。
それに伴ってデバフの最大効果量は上昇。
さらに『新世紀会』と遭遇した時にかけてもらったように、一度かけただけで効果を持続させられるようにもなった。
しかしそのどちらも、バッファーの本質ではない。
相手が遥か格上の時ならばともかく、今回のように複数の魔物を相手にする場合、より効果的な活用方法がある。
それはつまり――
「俺が攻撃を加える相手にだけ、瞬間的にデバフを発動してくれ。そちらの方がMPを節約できるし、何より判断力と発動までの速度を鍛えることができる」
その2つはバッファーにとって、最も重要な能力と言えるだろう。
さらに生まれ持っての才能でなく、後天的に鍛えることもできるのが魅力的だ。
そんな俺の意図が伝わったのだろう。祈は真剣な表情で頷く。
「分かりました、やってみます」
「よし、頼んだぞ」
祈を信頼し、俺は再び石像兵を相手にしていく。
一体目は少し早めにデバフがかかり、二体目は逆に遅れ気味。
しかし三体目からは徐々にタイミングが合ってきた。
祈の成長速度は、やはり常人の域を超えているようだ。
その後、俺たちは無事に石像兵の群れを討伐。
戦闘後、祈は肩で息をしていた。
その額には大粒の汗が浮かんでいる。
「はあ、はあ、何だかすごく疲れますね」
「慣れないうちは仕方ない。少しずつ鍛えていこう」
「はい!」
気合十分な祈の返事に、俺は思わず微笑む。
その後も俺と祈は、出現する魔物を全て倒しつつ、『古代神殿跡』を進んでいくのだった。
その後、攻略開始から四時間ほどが経過。
荘厳な空間を進みながら、俺は改めて戦果を確認する。
さすがはレアダンジョンと言うべきか、俺のレベルは既に51から53に上がり、祈に関しては48から52まで上がっていた。
この階層まで来て、一日でこの上り幅はなかなかのものだ。
「――ソニックエッジ!」
祈の掛け声と共に、眩い光が閃く。
放たれた魔力の刃は、石像兵より一回り小さな魔物の胴体を切り裂いていた。
「いいぞ、祈」
防御力が石像兵ほど高くない魔物が現れた際は、【
その姿は、もはや数日前の彼女とは思えないほどの成長ぶりを見せている。
そのおかげでより効率的に経験値を獲得できたわけだ。
「この調子だと、明日にでも目標を達成できるかもな」
「そうだと嬉しいんですが……」
そんな会話をしていた直後だった。
突如として、ダンジョン内にアナウンスが鳴り響く。
『一定数の魔物討伐を確認しました』
『最奥の間が解放されます』
神殿内に響き渡る機械的な声に、俺は思わず眉を寄せた。
これは少しばかり、予想外の現象だったからだ。
「奏多さん、今のって……」
「ボス部屋の解放を告げるアナウンスだな。もうそんな数が倒されたのか……」
事前に想定していたよりもかなり早い。
おそらく他の実力者も多く潜入していたのだろう。
できれば、最も経験値の高いボスは俺たちで倒したいところだ。
目標達成のためにも、そこは譲れない。
石畳を踏みしめる足音が、荘厳な空間に響き渡る。
他の冒険者たちも同じように気付き動き出しているのだろう。
「ボス部屋はここからかなり近いはず。急いで向かおう」
「はい!」
ここからは正真正銘、早い者勝ち。
俺と祈は互いに頷き合い、素早くダンジョンの奥へと駆け出すのだった。
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