第35話 『古代神殿跡』
第18階層の西端に辿り着くと、目の前には地下へと続く巨大な階段があった。
その周辺には既に大量の冒険者が集まっており、熱気に満ちた空気が漂っている。
レアダンジョンには出現期間が存在する。
『古代神殿跡』の場合、一定数の魔物が討伐されたタイミングでボス部屋が解放され、ボスを討伐することで消滅するという仕組みだ。
消滅する前に少しでも経験値を稼ごうと、我先にと駆け付けたのだろう。
そんな冒険者たちの姿を見て、祈が心配そうな声を上げる。
「こ、こんなに冒険者が集まっているところ初めて見ました。私たちが倒せるだけの魔物は残ってるんでしょうか?」
俺は祈の不安を打ち消すように、穏やかな声で答える。
「それについては心配いらない。中はかなり広いし、聞いた話によるとこのダンジョンが見つかってから一日も経っていない。『古代神殿跡』は過去の傾向的に、平均して出現から消滅まで三日程度かかるようだし、俺たちの分も残っているはずだ」
そもそもレアダンジョンに出現する魔物は、同階層の魔物と比べて強力なことがほとんど。
通常の冒険者ではレベルの高い魔物に太刀打ちできず、上層で経験を積んだ者でなければ攻略は難しい。
格上とばかり戦ってきた俺と祈には大きなアドバンテージがあるはずだ。
(もっとも、誰かしらの実力者が既に攻略を始めていたりでもしたら、話は別なんだが……)
いずれにせよ、急いだほうがいいことには変わりない。
祈も同じことを考えているのか、決意に満ちた表情で頷いている。
俺たちは装備を最終確認し、互いに目配せを交わした後、『古代神殿跡』へと足を踏み入れるのだった。
『古代神殿跡』の内部に入ると、一瞬息を呑むほどの荘厳な光景が広がっていた。
天井までそびえ立つ巨大な石柱が整然と並び、古代文字で刻まれた壁面には、かつての神殿の栄華を物語るレリーフが刻まれている。
随所に緑青が浮き、石材の一部は欠け落ちているものの、それが却って神秘的な雰囲気を醸し出していた。
床に散りばめられた宝石のような装飾が、ところどころで青白い光を放っている。
「こういうところにいると、改めて不思議な気分になりますね。ダンジョンの中に空や森があるかと思えば、逆に遺跡のようなものも存在しているんですから」
祈の感想に、俺は深い意味を込めて頷く。
「……そうだな」
言うまでもなくダンジョンには不思議な仕組みが多く、それは俺がいた10年後であっても解き明かされてはいなかった。
第77階層にあった〈
ダンジョンそのものの根幹に関わる情報は存在していなかったのだ。
(それも全部、最上階層にいけば判明するのだろうか……)
そんなことを考えている直後、神殿の静寂を破る鈍い音が響き渡った。
「ガァァァアアアアア!」
俺たちの目の前に、一体の魔物が姿を現す。
青銅のような輝きを放つ巨体に、まるで戦士のような甲冑を纏った姿をしていた。
――――――――――――――――――――
【石像兵】
・レベル:50
――――――――――――――――――――
石像兵。レベルは50。
俺のレベルが51、祈のレベルが48であることを考えれば大した敵ではないように見えるが、そう単純な話ではない。
石像兵は防御力に特化した魔物であり、レベル以上に討伐するのは厄介な相手だからだ。
さらに一定量のダメージを加えると、魔力を発散し周囲から他の個体を呼び出す面倒な特性を持っている。
しかしその分だけ、得られる経験値も大きい。
問題は圧倒的な防御力の高さだが――
「祈、デバフを頼む」
「はい!」
頷き、祈は石像兵に向かって〈波長乱し〉を発動する。
以前までは魔力を大量に消費してしまっていたこのスキルだが、【調律士】の称号を得たおかげで、より効率的な使用が可能になっていた。
さらに、
「
――――――――――――――――――――
〈
・MPを消費して発動可能。
発動後、一定時間内に同じ部位に連続で攻撃を浴びせることで、クリティカル発生率&クリティカル火力が上昇する。
――――――――――――――――――――
スキル〈水滴石穿〉を発動。
これで敵の防御力など関係なく、もはや柔な装甲にしか見えなくなった。
問題は複数回攻撃を浴びせられるかだが、石像兵は防御特化であり速度が遅いため〈
「――いくぞ」
剣を構え、石像兵との距離を詰める。
相手は巨大な拳を振り下ろしてくるが、その動きは俺の目には止まって見えた。
一撃、また一撃。確実に急所を狙い、石像兵の装甲に傷を刻んでいく。
その結果、相手の攻撃は一度もこちらに当たることなく、完全に圧倒することに成功する。
「ァ、ァァァァァ」
断末魔の声と共に倒れていく石像兵を見て、俺は小さく頷いた。
「よし、討伐完了だ」
「無事に終わりましたね」
安堵する俺と祈。
しかしそれもつかの間、周囲の通路から数体の石像兵が出現する。
ピンチ? いや、むしろその逆だ。
「初めに石像兵と遭遇できたのはラッキーだったな。こちらが探す手間をかけなくても、向こうからわざわざ来てくれるんだから」
俺は大量の経験値を前にし、にっと笑みを零すのだった。
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